オンラインゲーム殺人事件_ユート_8章

なりすましメール(10日目)


昼…なんだかまた誰か殺されたっぽい。
赤坂めぐみ…って…まさかメグか?
なんつ~か…最初の一件こそマジかよとか思ったんだけど、これだけ続くとなんだかかえって現実感がない。
殺人現場みたわけでも遺体みたわけでもないし、普通の日常を考えるとこれだけ短期間に3人とか死んでるともうネタなんじゃないだろうかと疑ってみたくもなる。



なんとなく自分の名前からキャラ名つけてる奴多いから、赤坂めぐみってもし今回の参加者なんだとしたらメグなんだろうな~なんて他人事のように思う。
アオイは多分本名があおいなんだろうし、コウが女ってありえんしな。
コウがついててお姫様に何か起きるとかも普通にありえないんで、まあマジ他人事決定。

てこと考えると…だ、あんまりエドガーに情報もらさず現状維持が無難なんだよな。
リアル明かさず呼び出されず。リアル周りに今回のゲームの参加者だって言う事ももらさない。
これで魔王倒されるの待つのが一番安全。
つか、そうしてればとりあえず殺されるとかいう事態に陥る事ないぽ~。

まあ…結果論なんだけど、こういう事態が起きた事考えるとエンチャ選んでおいて正解だったな。
今まで殺されてるのはウォーリアーにベルセルクにウィザード。
どれも火力ある…ってことは魔王倒せる可能性あるジョブだ。
逆説的に考えると次やばいのはエドガー、イヴ、シャルル、ヨイチ、そして…コウ。
同時に賞金1億が原因だとすると、犯人はその中でコウをのぞいた誰か。
コウは1億狙ってんならあの時俺ら助けてそのまま構ってたりしてないだろうし。

ま、犯人は誰でもいいや…っつ~か自分がポカやんなきゃ他人事だしな、マジ。
俺は積極的にポカやらん限り狙われる事ないだろうし…っつ~かコウだけだし、狙われる可能性あるの。
んでもって…奴は多分今回の参加者の中で一番殺されるようなポカやる可能性が低い人間だし。

それより…一応ゲーム中は無理でも魔王倒されて安全になったらちょっとアオイを誘っちゃおうかな~なんて考えてる身としては、こんな事件起きてアオイが人間不信とかになってないといいな~なんてそっちの方が重要。
ホントだったらせっかくミッション達成金とか結構入ってるから一緒に遊びに行ったりとかしたいとこなんだけどな。

なんてお気楽に考えつつ、俺は20時になっていつものようにログインする。
コウは相変わらず早くてもう来てる。
コウに誘われてパーティーへ。
お姫様もそのうちインしてきて同じくパーティーへ。
アオイが来ない…。
まさか…大どんでん返しで赤坂めぐみだったとかじゃないよな?
少し不安になってきたけど、取り越し苦労だったみたいだ。
やがて少し遅れてアオイがインしてきた。

『こんちゃっ(^o^)ノ』
と、挨拶して、そのままパーティーに入ってくる。
それにみんなが挨拶返してると、アオイはいきなり
『フロウちゃん、身体もう大丈夫なの?無理しないで休んでた方が良くない?』
とお姫様に声をかけた。

へ?
昨日は特に体調悪いとか言ってなかったけど…とぽか~んとする俺。
コウは即反応する。
『どこか悪いのか?なら無理するなよ。ログアウトして早く寝とけ。
レベル開くの嫌なら今日はレベル上げ行かないで金策でもしながら待ってるから。』
まあお姫様はそこで素直に落ちるような子でもないんで、俺もそこで
『そうだよ、先は長いんだしね。無理しないで?
まあ…それでも色々あったし不安だったりとかして一人嫌なら、街でまったりおしゃべりでもしてようか(^^』
と声をかけるが、それに対して今度はお姫様がぽか~ん。
ハテナマークを振りまきながら俺ら3人の周りをクルクル回った。
『えっとぉ…私どこも悪くないんですけど……』
『え?だって今日貧血起こして倒れたって………』
『…?…なんの話です???』
とアオイと言葉を交わしたあと、双方無言。
ウィス中な予感。

まあ…アオイが何かの勘違いしてるに一票。
お姫様は他を気にしない分、嘘もつかないから。
それがあってる間違ってるは別にして、本当に自分の思ってる事しか言わない。
んでもって…自分が今日倒れたとかだったらさすがに覚えてるだろうし…。
ところがまあ…他の事では鋭い分析をみせるくせにお姫様の事では結構いつも振り回されるコウが今回もやっぱり振り回された。

『お前ら!裏で話進めるなっ!』
って怒ってるようにも見えるけど、まあ動揺してるに一票。
お姫様がそれにちょっと驚いてピョンと一歩はねると、
『悪い…怒ってるわけじゃなくて…。
女同士の方が話しやすいのはわかるけど、体調悪いとか隠されると心配になるだろ…。
なんかあるなら言ってくれ。時間調整とかして無理させないようにしたいから。』
と、トーンを下げる。
そして無言…。今度はコウとお姫様がウィス中な模様。

やがてまた流れるコウの怒声。
『アオイ、お前なぁ!』
に即お姫様が
『コウさん…怒らないってお約束したのに……』
とかぶせる。それで黙り込むコウが笑える。
もう立場的強弱が思い切り出てる。
『えっと…俺だけ何にもわかってないっぽいんで、説明してもらえると嬉しいかなぁ…なんて思ったりとか…(^^;』
一応そこで唯一進行役になれそうなコウが黙り込んだんで、仕方なしに俺がうながすと、コウがため息をついた。
『今朝…な、アオイんとこに姫のメルアドから一緒に買い物しようってメールが届いたらしい。』
『あらら…好奇心が勝っちゃった訳ね(^^;』
と言いつつ羨ましい俺。俺も送れば良かった。
ところがコウはそこでまたため息。
『それですめば良かったんだがな……』
『何か問題でも?』
『大問題だ。姫はそのメールを送ってない。』
『どういう事??』
俺とアオイが同時に聞く。
『たぶん…なりすましメールだ』
『なりすましメール??』
俺は聞き慣れない言葉に首をかしげた。

『えとな…最近詐欺とかでよく使われるんだけどな…他の人間のメルアドでメールを送れる方法があるんだ。
例えば…実際は俺が送ったのに、送られた側の方にはユートのメルアドから送られたように表示されるみたいな感じだな。
本当のユートのメールを使ったわけじゃなくてあくまで偽装だから、ユートの側のメールには送信履歴とかも残らない。』

『え~っと…つまり…』
そこで一旦言葉を切るコウをうながす俺。
『今回で言えば…誰かわからない第三者が姫のアドレスを使って姫になりすましてアオイにメールを送ったってことだ。
で、そこで問題だ。
二人とも今回のためにメルアドを”新しく取った”という事は…二人のメルアドを知ってるのは今回メルアド交換をしたこのゲームの参加者だけって事だ。
いいか?このゲームの参加者だけって事なんだぞ?!
ここまで言えば…いくらなんでも何を言いたいのかわかるな?』
うあああ~~~~
それって…やばいんだよな?!
てかなんでいきなりアオイが標的になってんだよ?!
『またなりすましが発生する可能性は充分あるからこれからは仲間3人にメール送る時、合い言葉というか本人同士しかわからない暗号みたいなものをいれる事にするぞ。
例えば…文章の3行目の終わりに必ず@いれるとか…そういうのをそれぞれ特定の相手ごとに作る。
だから…一人につき3種類な。
お互いしか知らなければ、誰かが暗号もらしてもあとの二人に被害が及ばないからな。』
俺の動揺をよそにコウは淡々と続けた。
まあ…確かにこうなるとなりすまし対策は必要なんだけどな。

とりあえず言うべき事の説明を終えてすっきりした口調でコウはアオイを振り返った。
『じゃ、成り済まし対策はこれで良いとして…終了っ。
んで、アオイ…あれほど注意したんだから、よもやお前それでノコノコでかけて行ったりはしてないよな?』
それだっ!
とりあえずメールは全員交換してるわけだし、それが知られてる自体は問題ない。
コウの言葉にアオイは一瞬言葉に詰まった。

『あ…あの、さ…、一応人通りの多い時間に人通りの多い場所だったから……人目いっぱいだったから…殺されないで良かったなって事で……あはは……次からは気をつけます……』
うあ…行っちゃったのか…。
『行ったのかっ!この馬鹿野郎っ!!!』
コウの怒声。
『ごめんなさいっ!』
叫ぶアオイにコウは沈黙した。

やばい…よな。殺されなかったのは幸いと言えば幸いだけど、たぶん顔見られてる。
その後コウはちょっと無言。何か考え込んでる。
そしてまた口を開いた。

『アオイ、確認』
『はいっ』
『今ちゃんと窓の鍵かかってるな?自宅のドアの鍵も。あと窓のカーテン開いてたら閉めろ。』
『らじゃっ!』
確認に行ったらしくしばらく動かなくなるアオイ。
やがて
『大丈夫だったっ』
と言って動き出すアオイにコウは、
『よしっ』
と短くうなづいたあと続けた。
『携帯は常に充電して、手元においておけ。何かあったらすぐ110番できるようにな。
あと…持ってなければ早急に防犯ベル買って来い。
買いに行く際に人通りない所通るようなら、家族なり友人なりについて行ってもらうか、それが無理ならタクシー使え。命には変えられんだろ。』

『てか…当分家からでない様にするから…』
まあ…それが正しいよな。
外歩いてる時に犯人と鉢合わせする可能性だってあるし。
アオイが我慢出来るならそれが一番と俺も思ってると、コウはまた今日何度目かのため息をついた。

『お前…全然わかってないだろ…』
『え?』
『今回な、犯人がなんで状況的に殺せないのにわざわざお前を呼び出したと思う?』
え~っと………
『犯人の目的は今日呼び出した場所でお前を殺す事じゃない。
待ち合わせ場所にきたお前の後を尾行してお前の身元や家を確認して、確実に殺せる時を伺いたかったんだ。』

……う……そ……だろ……
さすがに言葉が出ないらしいアオイにコウがとどめをさす。

『要は……家にいても安全じゃない。
お前には安全地帯がなくなったってことだ』

うああ~~~~!!!!そういう事だったんか~~!!!!
つか、マジどうするよっ!!今この瞬間だってヤバいかもじゃん!
今まで本気で他人事だったのが一気に身に降り掛かってきた気分だ。

『とりあえずレベル上げ行くか…』
…へ?
パニック起こしてる俺。
てっきりまたなんとかしてくれると信じてたコウのその言葉にぽか~ん。
まあ…アオイもたぶんリアルでパニック中。
言葉のでない俺らの代わりに、珍しく姫が代弁してくれた。
『コウさんっそんな場合じゃっ(>_<)』
もうお姫様までまともな反応するくらいの非常事態ですよ?
ありえんてっ!
それに対してコウは至極冷静に言う。
『注意すべき点は注意したし、今はこれ以上何もできないだろ。
あとできる事といったら、少しでも早くこのゲームクリアするくらいじゃないか?』

いや…そうなんだけど……無理じゃね?
アオイも無理だろうけど、俺も無理!
とてもじゃないけどそんな冷静に割り切れるわけが…

『ごめん、コウ、姫を連れて先行っててくれる?10分ほどしたらすぐ後追うから』
スタスタと歩き出すコウの後ろ姿に俺は声をかけた。

『わかった。海岸の入り口あたりに行ってるな。そこまでならアオイと二人でもこれるだろ?』
と言うコウに手を振って、俺は
(少し話があるんだけど、いい?)
とアオイにウィスを送った。
アオイはうなづいて、噴水の端に腰をかけるユートの隣に座る。

もうマジどうしよう…。
あ~とりあえずアオイをなだめなきゃなんだけど…俺もパニック中。
とにかく本気ですぐ側にかけつけたいんだけど…
(リアルのさ、アオイの連絡先、聞いちゃだめかな?)
気付いたら口にしてた。
(まあ俺も普通の高校生だからさ…守りきれるとか言えないんだけど駆けつけるだけは駆けつけられるからさ…)
馬鹿…暴走しすぎだって>自分。
この状況で住所とか教える馬鹿いないだろうがっ!って自分で自分につっこみいれる。
当然アオイは困った様に無言。
だよな。
(…っていっても怖いよね、こんな事ばかりあると。)
て即フォローいれたら
(…ごめんねっ…ユートの事信じてないわけじゃないんだけど…今どうしていいかホントにわかんなくて…)
と返ってくる。
あ~これで引かれてないといいな~~。

失敗したっ。
とりあえず…信頼回復法考えるんだっユート!
え~っと…とりあえずこっちから身元晒すのが一番かっ。
(怖くて当たり前。俺だって怖いからさ、アオイ女の子だしね。
だからさ、とりあえず俺の携帯教えるね、良かったら今かけて見て。
番号の前に184ってつけてから番号いれると、俺の側にはアオイの番号が表示されない非通知設定になるから。
アオイが怖くて嫌だと思ったら、今後かけなければいい。
俺にはアオイの番号わからないまま終わるから大丈夫)

どうだろ~…。これでかけてこなければ引かれてるな、これ。
すっげえ緊張するんですけど?
もう本気で数時間にも感じる数分が過ぎたあと、ふいになる携帯。
やったかっ?!
「もしもし、アオイ?」
俺はもう周りの女の子達には本気でただの良い人に思えるくらい相手を警戒させない容姿や声音してるらしいから、アオイもそうだと良いな~と思いつつ、緊張しながら出てみる。
返事が…ない。
「アオイ?大丈夫?」
もう一度おそるおそる声をかけると、
「うん…ごめんね、迷惑かけて」
というか細い声と共に電話の向こうから嗚咽が聞こえる。
うあ~可愛い…。
こんな時に萌えてる場合じゃないんだけど、可愛いって!
女の子だとはほぼ確信してたけど、これで確実に女の子認定。
「大丈夫、全然大丈夫だからね。」
自分的に出来る限り優しい声音で言ってみる。
「怖くなったらいつでもかけていいから。だから一人で抱え込まない様にね」
「……うん…」
「まあ…怖くなくても退屈な時とかにイタ電かけてくれてもいいけどね」
もう…マジ、イタ電でもなんでもいいです。かけてくださいって気分。
ああ、もう神様ありがとう!
「どうする?良ければ今日はこのまま話しながらLv上げやる?
俺はどっちでもいいけど。アオイがしたいようにして?」
ホントはこのままにしておきたいけど、さっきちょっと積極的に出過ぎちゃったからここらで少し引いてあげないと怖がらせる。
「このままにしてて…いい?」
電話の向こうでアオイが少し心細げに言う。
もう大歓迎っ。
「うん、そうしよっか。アオイの電話代が大変そうだけどね。
いつかこのゲームが終わって安全になってみんなちゃんと会える状況になったら半分渡すからね。
請求書書いといて」
冗談めかして言うと、アオイは電話の向こうでちょっと可愛らしい笑い声をあげた。

もうこんな時に喜んでちゃいかんとは思うけど、目一杯幸せだったり…。
すごぃドキドキしてきた。
脳内ではもう街中アオイと腕組んで歩いてる自分の図が…。
でも…こっちから連絡取れないの不便だなぁ。
ここで無理に教えてとかいうわけにもいかないし…う~ん…。
あ…そだ。
「少し…落ち着いたかな?ねえアオイ、提案なんだけど…」
俺は名案を思い付いて口を開く。
「うん?」
「プリペイド携帯って知ってる?」
「ううん。知らない。」
「コンビニとかで買える通話料をプリペイドカードで払える携帯電話っていうのがあるんだ。
今回犯人がアオイに教えたメルアドもそういう携帯のアドレスだと思うんだけどね。
一応契約時に名前とか書かされるけど引き落とし口座とか要らないから本名じゃなくてもわかんないのね。
嫌になってポイしたらもう足もつかない。それ買わない?
そういうのなら身元もばれる事ないから番号教えられるでしょ?
このままじゃ今日は仕方ないとしてもアオイの電話代がマジすごい事になっちゃうから」
ま、こっちから連絡したいとかはまずいから一応アオイの電話代の問題ってことにしといた。

まあそれでもそこから親しくなって…とか思ってたんだけど、意外にアオイは心を開いてくれたらしい。
「ううん、そこまでしないでもいいよ。一応ミッションクリアした時のお金あるし、これからもクリアごとに入ってくるから。でも私の番号は教えるね。」
と自分から言いだした。

まじすかっ!
と内心小躍りしたい気分だったんだけど、まあそこはほら、あんまりはしゃぐと引かれるし…
「無理しないで良いよ?」
と一応気遣う振りしておく。
これでやっぱりやめた~とか言う話にはならないだろうというのは、もちろん思ってるわけで…
当然アオイは予想を裏切らず
「ううん、無理してない。私が教えたいの。」
と、番号を教えてくれた。

それから俺は当然確認もしたかった事もあるし電話をかけなおして、俺達は
「こんなのコウにバレたら大目玉だね」
とか笑い合いながら先に行ったコウとお姫様を追いかけた。


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