ミッション(10日目)
俺らが海岸につくと、何故かお姫様が一人で釣りをしてた。
このゲームでは釣った物を雑貨屋で売ったりして換金する事ができる。
ま、今回は換金うんぬんじゃなくて、たぶん一人でミッションか何かの下見をしに行ったコウがお姫様が退屈して暴走しないように釣りを教えたんだと思うけど…。
『フロウちゃん、コウは?』
ときくアオイにお姫様は案の定
『ん~~わかんないです~』
と答える。
ま、本気で行き先教えてないんだろうな。コウ。
『そっか…』
と答えて砂浜に座るアオイの隣に俺も座ってコウを待つ。
そんなこんなで待つ事30分。
コウが戻ってきた。
案の定ミッションの下見行ってきたらしくてボロボロ。
お姫様に回復してもらっている。
そしてコウのHP回復や状態回復を終えてお姫様がMPをフル回復し終えると、
『行くぞ』
と、先に立って歩き始めた。
『どこ行くんですか?』
ピョコンと立ち上がると、トテトテとコウの真後ろの自分の定位置にかけよるお姫様。
コウは一瞬止まって俺ら3人がちゃんと付いて来てる事を確認すると、
『魔王の所。今ちょっと行って来てみた。』
と言ってまた歩き始める。
「コウでも…冗談言うんだね…」
「まあでも…あんまセンスあるとは言えないのがミソだけど…」
携帯でやっぱりボソボソ話す俺とアオイ。
しかし…そこでお約束。お姫様が目を輝かせる。
『魔王の所?もしかして魔王に会ったんですか?どんな感じなんですか?』
『えっとな…緑のタコ』
もう…やめといた方が…これって毎度おなじみ自爆パターンじゃね?
『緑のタコなんですか?確かに海で出るタコって茶色ですもんねっ。きっとタコの王様なんですねっ。
でも緑のタコなんて面白いですよねっ、とっても楽しみです♪o(^-^)o」
本気で楽しみにされてますが?
もちろん!お姫様はとぼけてるわけでも冗談言ってるわけでもない。
思いっきりマジだ。
『……………悪かった…冗談だ』
『ええ?!嘘だったんですか~。……すっごくすっごくすっご~~く期待してたのにぃ;;』
いや…普通嘘だって気付くし…。最後の魔王がタコってありえんでしょ。
光の神が天使みたいなのにそれに対するのが緑のタコなわけが………
『タコ見たいなら…その辺から引っ張ってくるか?』
歩く足を止めずに横の海を指さすコウに
『緑じゃないと駄目ですっ;;』
と、きっぱり断言するお姫様。
はい、コウ自爆決定。
『緑のタコさん……楽しみにしてたのに………』
『………悪かった…』
『……会ってみたかったのに……』
『………』
ため息一つ。
『とりあえず……ないものは無理だから、この後3人でミッションクリアの報告してる間にこの前欲しいって言ってたエンジェルウィング取って来てやるから。それで許せ』
『エンジェルウィングですかっ♪あれとっても可愛いんですよね♪』
とたんに機嫌がなおるお姫様。
「なんかさ…現実社会の縮図?」
「っていうか…コウっていつも自爆してるよね…」
裏で苦笑する俺とアオイ。
「でもさ聖堂の奥行く自信あるってとこがコウってすごいよな」
俺はため息。俺も…簡単にとってきてやるとか言ってみたいけど無理過ぎ。
つか、コウは取れるのか?簡単に言ってるけど…。
エンジェルウィングは城にいるお姫様がつけてるっつ~オシャレ装備で、教会の奥の聖堂の奥に行けばもらえるんだけど、これがまたくせ者で…。
まず最初のフロアは移動する落とし穴の部屋。
タイルがピカっと光って次の瞬間そのタイルに穴があくみたいな感じなんで、まあこれはな…アクションゲームとかやり慣れてればなんとかならなくはないんだけど、その後が問題。
なんと…そのフロアを超えて最奥に行くドアは高校レベルの試験問題20問中19問正解しないと開かない。
もちろん時間制限あり。
高校生ばかりを集めたのってそのためかよっ。つか正解率95%って普通に無理だろっ。
おまけに…失敗したらレベル1下がるっていうペナルティ付き。
まあ…コウは俺らより今2レベルほど高いから、チャレンジくらいはいっか~みたいな感じなのかもだけど、それですむのかね?
取ってくるなんて言ったら最後、ホントに取って来るまで言われるぞ。
もうあれ取ってくるって宣言自体がさらなる自爆発言な気がするんだけど…。
とりあえずそれはおいておいて、俺らはこれからミッション3に行くらしい。
行く”らしい”ってのは…実はミッションはいつもコウが情報集めてコウ主導で俺らはついていくだけだから。
コウ自身はいつも自分は先にソロですませてる。
今日のミッション3もコウはソロで済ませてるから、完全にヘルプ。
今回ズタボロだったのはミッション4の下見だな。
『ミッション4はどうだったん?』
とりあえず俺は前を歩くコウに声をかけた。
『ん~、少なくともソロ無理。というか…プリーストいないと絶対に無理だな。レベル高くても無理。
2体…なのは良いにしても状態異常すごすぎてな…逃げ戻った。
状態異常の種類は毒と暗闇。毒はHP尽きるまでになんとかすればいいとしても暗闇がやばい。
今俺22だけど戻る道々にいたLv5の敵とかにすら攻撃が全く当たらなくなったぞ。
いくらなんでもバランス悪すぎだ。あっちの攻撃も当たらないからなんとか逃げ切ったが、もうちょっと敵とのレベル差少なければ格下の敵に余裕で殺されてる』
『うあ…すごいね(^^;』
『ん…だからミッション3終わって報告終わったら即ミッション4の依頼受けて来い。みんなで行くぞ。』
俺らはそれから軽く、コウに倒すの手伝ってもらったから本当に軽々とミッション3の中ボスを倒すと街に帰った。
『んじゃ、そう言う事でミッション3の報告終わったらそのままミッション4受けて門前集合な』
すでにミッション4受ける所まで終わってるコウは一人教会の方へ消えて行く。
ホントにあれやる気なのか……。
まあ…俺らが報告行ってる間ってことはチャレンジできても1回だし…それでもLv1上だからいいのか…。
ということで…お城に報告。
で、次のミッション4を受けて集合場所の門へと向かった。
『ほら姫。約束の物。これで機嫌直せよ』
待ち合わせの門前に行くとコウはすでに来ていて、お姫様に何か渡している。
マジで取ってきたのかっ!!
『きゃあぁっコウさんありがとう♪』
その場でピョンピョン飛び跳ねるお姫様。
即装備したお姫様のサラサラの黒髪にキラリと金色の羽根が光る。
コウのレベルは…下がってないな。
ありえん!試験問題19問を普通に突破したって事だよな。
昔イヴの取り巻きが何回やってもダメで挫折して以来誰もチャレンジすらしなくなってたわけだが…。
『すごいね…、一発クリアなんだ。』
と、ちょっと羨ましそうなアオイにも普通に
『ん?そんなに難しくはないぞ。お前も欲しいか?欲しければ今度とってきてやるけど』
と、言うコウ。
まぐれとかじゃなくて、普通に何度でもクリアする自信あるって?こいつマジなにもん?
でもまあアオイはさすがに悪いと思ったのか
『ありがと~。でも私はいいや。』
と首を横に振る。
あ~あ…俺もサラっと取ってきてやりたいなぁ…。でも20問中19問はまず無理。
という事でミッション4。
やる事はやっぱり中ボス退治。
街を出て海岸とは反対方向に進んだ山の中。
忘れもしない一番最初のミッションで麓の兵隊に手紙を渡したあの山の上だ。
敵2体を1体ずつやる予定だったのが、途中お姫様が例によって触っちゃいけないもん触って2体目もわかしちゃって大騒ぎだったけど、俺の回避率アップの魔法と防御態勢を取る事でなんと通常の16倍の回避率になったアオイの大活躍でなんとか敵撃破。
あとは報告に戻るだけの帰り道。
いきなりコウが崖から滑り落ちた。
『コウ?そっちなんかあんの?』
特に何も言わずにいきなりだから聞いてみると、
『いや…素でミスった、悪い。まあそこからは敵に絡まれる事ないだろうから、お前らそのまま行ってくれ。
俺はなんとか自力で帰り道みつけるから。』
との返事。
おや、珍しい事も…と思ってると止める間もなくコウを追うお姫様。
『……姫…何してる…?』
唖然とするコウにお姫様はきょとんと
『何って?』
『いや、そのまま行けって言っただろうが…』
『はい、だからそのまま付いてきましたけど?』
もう…脳内変換が…宇宙だ。
『しかたないね…みんなでそっち行こう(^^;』
俺も苦笑して崖を滑り落ちた。
アオイがちょっと遅れて降りてくる。
降りるまでちょっと時間かかってたから
『アオイ、どうした?』
と俺は声をかけてハッとする。
『コウ!何してるん?!そっちやばいって!』
炎につっこみかけてるコウ。
俺の声でハッとして
『…あ…悪い』
と足を止める。
とりあえずそこであまりに挙動不審なコウと前後を交代して、俺が先頭を歩く事にした。
俺は表で
『ホントさ、今日は姫以外みんなどうかしてない?』
と言いつつコウにウィス。
(コウ…どうしたん?いったい)
それに対してコウは無言。
なんか…言いにくい事か…。
俺の脳裏にふと全員集合したあの日の出来事がよみがえる。
あの時コウに粘着してたシャルル、男らしくて好きだとコウに言った後…
「リアルもさ、そんな感じ?服とかどんなの好き?
リアルでも背そこそこ高い?体格は?コウって鍛えてはいそうだよねっ。
制服は学ラン?ブレザー?コウのイメージだと学ランって感じだけど、ブレザー着崩したりとかもなんかいいねっ、シャツのボタンはずしちゃったりとかしてさ…
寝る時ってさ、パジャマ?Tシャツ?それとも着ないで寝ちゃったりとか?
あ、でも意外なとこで着物とかも似合うかもっ。
あ~、そだ、トランクス派?ブリーフ派?…………」
といきなりかまして、コウ怯えてたっけ…。
(もしかしていつものシャルルからのウィス?)
聞いてみると、コウ無言。
その後ざ~っと流れる原文ウィス
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(コウ、今どこ?一緒に遊びに行かない?)
(コウってさ、恋人いるの?)
(もしかしたら今フリーだったりする?)
(いないならさ…溜まった時って自分でしてんの?)
(週何回くらい?)
(その時どんな相手を想像してやってる?)
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きっつ~~~
これ…まともに受け取って硬直したわけね…。
(うあ…これ…シャルルからだよな?)
(…ああ…)
(…動揺…した?)
(…おもいっきりな…)
まあ…コウならそうだろうなぁ…。
軽くかわすなんてできなさそうだし…。
つか…シャルルもなにもん?
これ聞いてどうするよ?
う~ん…リアル特定…にしては聞く事がちょっと…。
どっちかっていうと動揺誘ってる?
(…嫌がらせ…かなぁ?単なる好奇心にしては…だよな)
とつぶやいてみると、
(もしかして…俺の事妨害しようとしてんのか…)
と、いつもなら怒るであろうコウは安堵が先立ったのか怒りもせず納得する。
(そうだよな…他意はないんだよな。単なる妨害目的で…)
もう思い切りそう思いたいって感じだ。
しかし…頭切れるし行動力もありそうなコウだけど、そういう方面での攻撃には弱いのか。
ま…想像するに…女に縁がないいわゆる硬派。
委員長タイプな気がするから、クラスの中心にいても女に全く縁がないってことは…男子高育ちか。
つか…アオイの事あるしコウもある程度リアルでつき合いしておいて何かあった時呼び出せる様にしたいなぁ。
俺だけだと犯人と対峙なんかした日には下手すると壁にもならん可能性ある…犯人も同じ高校生の男なら、二人掛かりならなんとかなる気するし…。
(まあ…たぶん単純に妨害って考えるのが正しいかもね)
と、その話はそれで打ち切って、俺は半ば強引に話題を変えた。
(ところでさ…コウ明日暇?)
(暇じゃない…)
相変わらず即答。
事なかれの俺のこと、普段ならここで引き下がるとこだけど、アオイの命がかかってるわけだから引き下がるわけにはいかない。
(暇作って。)
と、食い下がってみたが敵もさるもの
(無理。)
と、また即答。
くっそ~……
(俺明日吉祥寺の駅ビル改札で待ってるからさ…。特徴は…つか、このキャラのまんまだと思う。携番はね…)
(ま~て~!!!)
強引に話を進めようとすると、遮るコウ。
(アオイになんかあった時のためにさ、コウに会っときたい。やっぱ…なんのかんのいって一番そういう時お役立ちぽいし)
これで…動かないかな?
使命感に燃えやすいタイプだと思うし、アオイの命危ないとか言う理由なら動いてくれるんじゃ…なんて甘い?
(とりあえず朝10時から待ってるから。来るまで帰んないよ、俺)
無言のコウにさらにそう畳み掛けると、コウが折れた。
(10時は無理。昼前までは絶対に外せない用があるから。そうだな…12時ならなんとか行けると思う)
やった~!頑張ったな、俺!
(おっけ~。それでっ。んでコウの特徴は?)
(キャラのままだと思うぞ)
それは…ちょっと嘘っぽ。
思わず
(ダウトッ)
という俺。
(なんだそれは?)
(だってさ…イケメンすぎね?w)
(はあ?)
コウはポカンとする。
まあ…コウのこのイケメンキャラそのまんまというのはありえんけど…面影はあるくらいに取っておくか。
(ま、いっか。俺はマジ、キャラのまんまだから。コウが俺探してよ。一応携番だけ教えておいて?)
と、携帯の番号だけ教わって、俺はその話は切り上げた。
もう一つ…もうここまで来たら手を打っておきたい。
俺は迷わずエドガーにウィス。
なりすましメールがあった旨を伝えてメールのやり取りする前に本人確認の暗号を入れたいって話したら、なんだかものすげえ凝った暗号提案してきた。
メールの最初の文字が何行の文字かを調べて、その行があから始まって何行目かを割り出す。
ようは…ユートの”ゆ”だったら”や行”だから、あかさたなはまや、って事で7行目
で、今度はメールの最初に割り出した行の最初の文字が同じく何行目かを割り出して、その行の最後にその行の数の・を打つ。
ようは…さっきの例だと7行目の最初の文字を見て、それが例えば”と”だったら”タ行”で4。
だから7行目の行の終わりに4つの・をいれるってわけだ。
これじゃあ知らなければ絶対にわかるはずがない。
というわけで、俺はリアルに触れない様に一応コウが俺らの中でリーダー的存在で、色々情報を集めて引っ張って行ってくれていること、お姫様はちょっと天然はいってる子な事、アオイは少し内向的な子程度な感じの人物紹介と、アオイとは携帯で連絡取り合ってる事、今回のなりすましメールの一件だけ伝えておいた。
一応アオイの面が割れてるならエドガーが犯人だとしたら今更な情報ばかりだけど、もし本当に犯人を探してるならできるだけ早く探し出して欲しいし、その参考になるといいんだけどな。
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