イギリスの企み
世界会議最終日も無事終了した翌日。
俺は裸でホテルのベッドで同じく裸の男の隣に横たわっていた。
一睡もせずに!!
あー誤解のないように言っておこう。
この状況を見て、
『ああ、イギリスのやつ、また酒でやらかしたな』
と思ったレディ達、ご期待に添えなくて申し訳ない。
俺と彼の名誉のために言っておこう。
俺達は一晩同じベッドで横たわっていただけだ。
タグを確認して頂きたい。
この話はR-18ではない。
つまり…俺達はいたしてはいないのだ。
俺は昨日の飲み会でこいつを酔いつぶし、そして酔っぱらったこいつをホテルの自分の部屋に運びこんで――正確にはヒゲに手伝わせたが――その後髭は危険なのでおっぱらったあとにこいつの服を全部ひっぺがしてベッドに放り込み、自分も服を脱いで男の隣に潜り込んだだけだ。
さて、何故俺がそんな事をしたかと言えば…会議1週間前、髭が良い酒が手に入ったというので飲みに行ってやったのだが、その時に酒でやらかしたためである。
その日はスペインも来ていて、2本ワインを持っていた。
どうやら奴も良いワインをもらった帰りだとかで、1本は子分と飲むつもりで、もう一本をフランスと飲もうと思って持って来たらしい。
これが災いの元だった。
髭の入手した酒は悔しいが本当に素晴らしい味で、スペインのワインも美味かった。
つまみも髭とスペインが交互に作って補充して、実に楽しく美味しく頂いた。
ああ、そこまでは最高だったと言っても良い。
しかしながら…だ。
俺はどうも飲みすぎて失敗するのがわかっているのに、ついつい飲みすぎてしまう性質らしい。
途中で記憶がなくなって…気づけばワインの瓶を2本両手に抱えていた。
そう…スペインの……だ。
一本なら無問題だったんだが、2本。
確か1本はここで飲んで残り1本は………
うあぁああ~~!!と、俺もさすがに頭を抱えた。
目の前にはしょげかえるスペインとそれを慰めるフランス。
『あの…さ、お兄さんのワインセラーから好きなの持って行っていいから、ね?』
などと、普段は絶対に俺や悪友達を立ち入らせない場所に敢えて入っても良いなどと言うあたりで、スペインの落ち込みぶりがわかった。
いや、もういっそ怒ってくれればいいんだが、落ち込まれると本気でどうしようという気分になる。
「…あの…スペイン……すまない」
と、普段は素直じゃないと揶揄される俺だが、さすがに悪いと思って頭をさげた。
「…ほんまに…そう思うとる?」
「も、もちろんっ!!」
「…せやな…それやったら、一つ頼みがあるんやけど……」
ということで、頼まれた事がこれだ。
プロイセンを酔わせて、何かあったと思わせて、奴の反応を見る。
どうやらスペインが女遊びをするのをプロイセンに不誠実だと言われて腹がたったので、ではプロイセン自身が実際何かあったとして、そんなに誠実な対応をとるのかどうかが知りたい。
と、まあ、国なんかやって長い事生きていたら、夜遊びの一つや二つしてないわけないだろうし、同じ穴のむじなだとわかればそれで良いと言う事らしい。
バカバカしい、実にバカバカしいラテンの意地なわけだが、まあやらかしてしまったので仕方ないと、しぶしぶ引き受けて今に至る。
とにかくあれだ、まず目を覚まして自分が素っ裸で、裸の男がいるということで、何が起こったのか聞いてくるだろう。
そうしたら、昨晩の事を覚えてないのか?と、お約束の台詞でも吐けば、お約束の想像をしてくれるだろうし、それで謝罪でも受けて、あれだな、あのクソラテンどもと違ってそのあたりの良心はありそうだから、謝罪の品くらいは送るとか言いかねないから、そのあたりでネタばらしだ。
あとはもう文句はスペインに言ってくれと言う事でジ・エンドって事でいいかな。
俺はそんな事を考えながら、プロイセンが目を覚ますのを待った。
煙草の一本でも吸いたいところだが、やらかされてしまったという設定なわけだから、クソ落ち着いて煙草なんかふかしていたら、さすがにやばいだろう。
仕方がないので隣の男を観察する。
しばしば不憫ズなどという失礼な名称で呼ばれる俺達は、しかしながら共通点が多いとは俺も思っている。
俺からすると決して不味いと言うわけではないのだが、イタリアあたりの美食国家からすると不味いらしい食事。
仕事に関しては真面目。
体つきは弟の方はムキムキでデカイがこいつは細身だ……と思っていたのだが、こうして裸を見ると意外にも筋肉がしっかりついていて、俺より一回りほどはしっかりした体つきなのに気付く。
ああ、髪質も違うな…。
いくら手入れしてもボサボサ感の抜けない俺と違って、さらさらと綺麗な銀色だ。
そう、一つ一つ取りあげてみれば何もかも違う。
友達がいないとよく馬鹿にされる俺と、1人楽しすぎる男と揶揄されるこいつ。
でもプロイセンはなんのかんの言って性格だって人懐っこくて、フランス、スペインと悪友トリオなどと言われ、弟のドイツとの兄弟仲は良好。
日本とは師弟関係で、最近はカナダやインドとかとも仲が良いようだ。
……全然1人じゃねえだろうがっ……
いや、悲しくなんかないぞっ!
俺にだって英連邦がいるし、こいつが日本と師弟関係なら、俺と日本は親友だ。
涙が出て来たのはあれだ、欠伸をしたからで、泣いたからじゃない。
ふるふると首を振って、俺が目に溢れた涙を指先で拭った時、隣でピクリと男が動く気配がした。
…と思ったら、次の瞬間プロイセンはすごい勢いで飛び起きた。
すげえ、目を覚ました瞬間にこの勢いで起きれるのかよ。
さすが元軍事国家…などとのんびり思っていると、今度は首の運動か?という勢いで、右、左、前、後ろ、下と、見回して、それから視線をピタっと俺に向けて止めた。
あ…固まってる……
と思ったのも一瞬で、いきなり布団の中から飛び出して、今度は床に飛び降りてジャパニーズドゲザをする。
もうなんというか…その流れるように見事な動きに今度は俺の方が目を見開いて固まった。
「悪いっ!!!」
床に額を擦りつけて叫ぶように謝罪。
え?ええっ?…あ…ああ、なるほど。
事情を聞く…という手順が抜けてるが、おそらくそういう想像をしているんだろうな…とそこで思いあたる。
ていうか、お前、逆の可能性は考えてねえのかよ?
俺が連れ込んで掘ったのかもしれないぞ?
などと俺は俺で色々考えながら、しかし目的はそういう突っ込みを入れることではなく、『プロイセンが間違いをおかした時の反応を見る事』なわけなので、念のため奴の認識を確認しておく。
「…お前……昨晩のこと、覚えてるのか…?」
と、やや深刻な風を装って尋ねてみれば、プロイセンはさらに額を床にこすりつけるようにつづけた。
「悪いっ!!それも記憶になくて…いや、だから悪くねえって事じゃなくてっ!!
余計に悪いよなっ!!
分かってるっ!!同意じゃねえんだろっ?!
本当に最低な事したっ!!」
おいおいおい…お前の脳内、今どんな想像が渦巻いてるんだ…と驚いている間に、なんだか話がどんどん先に進んでいく。
「お前は嫌かもしれねえけど…責任はちゃんと取るからっ!
ベルリンは割と同性婚に偏見ないとこだからベルリンの方が住みやすいと思うけど、お前の仕事の関係でロンドンの方が良いっつ~んだったら、俺がロンドンに家借りるわ。
仕事はルッツに頼んでそっちで出来るもん回してもらうし…あ、もちろん家事は俺様得意だから任せとけっ!
おはようからおやすみまで責任持ってしっかり夫としての義務を果たさせてもらうぜっ」
「いやいや、ちょっと待ったっ!!」
もうなんだか反応見るどころか話がどんどん進んで行く事に焦ってストップをかけるも
「わ~かってるってっ!!
とりあえずまずはきちんとプロポーズと式…いや、その前に俺らデートもしてねえしな。
これからすぐ支度してデートして…幸いここ日本だしな、デートスポットはいっぱいあるもんな。
レストランの予約は今からでもとれっかな…取れなかったら日本に祖国特権でとびきりのとこ取ってもらうから、安心しろ。
とりあえず仕切り直しだっ。
っつ~ことで、俺様支度してくるからちょっと待っててくれっ!」
と、全然わかってねえよ、待てよっ!!!と、あまりの勢いに突っ込みをいれられないまま、ものすごい速さで服を着て出て行かれてしまった……
どうするよ、これ……。
おい、腐れトマト、お前の作戦は失敗だぞ。
お前の悪友はお前と違って間違いを犯したら償う気満々だ…。
どうするよ?俺このままだと一生かけて償われそうなんだが……
心の中でスペインに悪態をつきながら、1人ホテルの部屋に残された俺は途方にくれた…。
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