生贄の祈りver.普英_10_3

「簡単じゃねえっ…です。
でも俺はっ俺は兄貴だしっ、こんな馬鹿でも弟だし…。
信用っていうけど…じゃああんたは自分の家族も守れねえような男を信用すんのか?
俺は確かに国王だけどっ、その前にこいつの兄貴だし、人間だしっ…だからっ…」


「そんなんじゃ小国の国王なんてやっていけねえぞ?」
ギルベルトはそこでまた口をはさむ。

「大国になったらある程度色々周りに融通はかったってもいい。
土台がしっかりしてたら、万が一王が変わったとしてもすぐには崩れたりはしねえ。
でも小国の王はだめだ。頭なくしたら即国潰れてもおかしくはない。
だから何捨てても…誰を踏みつけても自分だけは生き残らなきゃならねえんだよ。
下手に頭変わったら、他国に取り込まれる元になる。
それが出来ねえお前は小国の王としては向いてねえよ」

「わ、わかってる!でも俺はっ俺はっ……」
緊張と恐怖に震えながら、それでも言い返そうとして言葉に詰まるロヴィーノ。

「あ~、もうしかたねえなぁ…」
ギルベルトはその様子にクスリと笑みをもらした。
フェリシアーノが最初に謁見した時の腹の底が見えないような馬鹿にしたような笑みではなく、親しい者に向けるような笑み。

「もう、うちにつけよ」
「へ?」
その言葉にぽか~んとする双子。

「風と手、切るんだったら、お前のとこくらいの国だったら、うちの国境守るついでに守ってやるから」
そう言ってギルベルトは玉座から立ち上がると、呆然と立ちすくむロヴィーノの前まで来て、その顔を見降ろした。

「小国の国王としてはダメダメだけどな。人間性は信用してやる。
だから、どうするか今決めろ。
俺様も弟みたいな甥っ子がいるからな。本当に特別の温情ってやつだと思え。
手を組まねえって言うなら今回は特別に弟も一緒に返してやるし、組むって言うなら庇護してやる。
ただし…小川の国みたいな小国の王がうちみたいな国に差し出せるのは、信頼だけだ。
それを破ったら怖い事になるぜ?」

ギルベルトの言葉に緊張の糸が一気に切れたのか、ロヴィーノは言葉もなくへなへなとその場にへたりこんだ。
一方のフェリシアーノは兄よりはまだ冷静だ。

「に、兄ちゃんっ!へたってる場合じゃないってっ!!!」
と兄を叱咤しながら、
「組むっ!組みますっ!お願いしますっ!!」
とギルベルトを見上げ、
「お前に聞いてねえ。国王は兄貴だろっ!」
とペチコーンと軽く頭をはたかれて、ヴェーと謎の声をあげる。

「で?どうする?」
ギルベルトがへたってるロマーノの前にしゃがみこんで視線を合わせて聞いた。

「…フェリシアーノも……国も守れんのか……」
まだ信じられないようにつぶやくロヴィーノに、ギルベルトは答える。

「ま、そういうことになるな。
お前が裏切らない限りは俺様んとこで一緒に守ってやる。
自分犠牲にしても身内大事にする姿勢は国王としてはダメダメだけどな、嫌いじゃない。
だから自分の国王としてダメダメな部分はうちで引き受けてやるよ」
「あ…お……お願い…します…」
「まかせとけっ」

ぽろぽろ泣きだすロマーノの頭をギルベルトは軽くなでて立ちあがった。
次に、フェリシアーノに目を向ける。

「というわけだ。風とのやりとり全部言え。嘘はなしだぞ?」
と、ギルベルトが言うと、フェリシアーノは
「うんっ!うん、話すよ、ありがとう!!」
とコクコクうなづいた。



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