とある狙われやすい少年について_35_たぶん狙われている

とりあえずそれはそれとして、勇也の方の情報をしっかりと引き出しておかねばならない。
なので錆兎は先を促す。

──それで…執着しているとはどういう事です?
と、想像はついているものの聞いてみて勇也から返ってきた答えは想像以上にとんでもない答えだった。

──蔦子ちゃんの叔父、綾瀬真一は実の母を女性として執着していたらしいんです。

一瞬意味がわからなかった。
おそらくポカンとした様子の錆兎の表情からそれを察したのだろう。
勇也は少し困ったように眉を寄せて
「そうですよね、いきなり言われても想像もできなければ理解もできませんよね。
俺もそうでしたから」
と、苦笑する。

「簡単に言うとですね、自身の母親を性的な目で見ていたということなんです。
そして蔦子ちゃん達のお祖母さんが亡くなったのも自殺だそうで…
原因はお祖父さんが外出中に意にそわないことをされたという…まあそういうことです。

で、蔦子ちゃんのお母さんはお祖父さんがその身を案じて家から出したそうです。
その時にはお母さんは事情を知らなかったということですけどね。
それもあって、お祖父さんは真一氏を見張るために自宅に残ることにしたらしいです。

幸いにして蔦子ちゃんのお母さんはお祖父さん似で真一氏が執着をすることはなく、娘である蔦子ちゃんもお母さん似だったことで同じく。
なので祖父に孫の顔を見せに行っても変わったことはなく最初は気づかなかったらしいです。

義勇君が生まれて顔を見せに行った時、それまでとはどこか違う真一氏にお母さんは違和感を感じはしたようですが、よもや弟がそんな風にこじらせているなどとは夢にも思わなかったようです。
しかし真一氏が義勇君を見る目に何か異様なものを感じていたんでしょうね。
なんとなく違和感は持っていたとのことです。

それがはっきりしたのは蔦子ちゃんのお祖父さんが死を間近にした時のことでした。
お祖母さんの自死の原因や真一氏について…特に蔦子ちゃんの家で唯一お祖母さんに似ている義勇君に対する懸念などを打ち明けられたそうです。
その時点で我が家の母にも蔦子ちゃんのお母さんから相談があったと聞いています。

それで、防波堤になっていたお祖父さんが亡くなり、義勇君に万が一の危険があってはと、お母さんは実家の弟と距離を置くことにしたのですが、狂人をあまり刺激するのも危険だということで、母方の実家と距離を置きたいではなく、双方の実家と距離をおくことにしたと、まあお茶を濁すことにしたということでした。

ご両親が生きている間はいざとなれば家族で引っ越しとか、最悪海外へ移住なども検討できるということで、真一氏も表立って動くことはなかったようですが、今回ご両親が亡くなって、蔦子ちゃんと義勇君だけでは取れる対応もあまりなくなったので…」

そんな風に非常に遠回しな説明があったわけなのだが、ようは義勇の叔父は祖母を女性として執着しており、まあ、無体を働かれて祖母は自死を選んだ。
そして祖母が亡くなったことで、彼女によく似た甥の義勇に目をつけた、そういうことのようだ。

叔父が義勇にそういう意味で執着しているということまでは錆兎も予想していたことではあるが、祖母の諸々は本当に想定外だった。
本当にあり得ないというか…そんなことも真面目にあるんだな…と、遠い目になる。

さて、どうするか…。
義勇が成人すれば義勇の父母ではないが、本当に最悪は長期出張と言う名目で海外に移住させてやると言う事もできるが、叔父が生きている限りはそれも最終的な解決にはならない気がする。

それでもとりあえず、さきほど義勇から通学時に痴漢にあったということで村田を向かわせて、さらに学校に到着後、何故かそれを知った叔父が義勇を迎えに来るというのを嫌がる義勇のために再度村田を送り込んだのは正解だったようだ。

まあ義勇に関しては蔦子の許可もあり、こちらには後見人としての手続き途中の弁護士もいるので、身柄は理由をつけて預からせてもらうこともできる…というか、そうした方がよさそうだ。

錆兎の手が空いてなければ村田など、その時に時間が取れる人間が学校の送り迎えをして、学校後は錆兎のオフィス、その後は祖父の家で錆兎も一緒に泊まり込みで、近寄ってくることは防げそうだ。

そうなると…義勇を身軽な状況にするために必要なのは蔦子の護衛だろう。

「えっとですね…勇也さん、お願いがあるのですが……」
と、おそらく断られることはないだろうとみて、錆兎は切り出した。

「はい、なんでしょう。俺にできることで冨岡の一族に迷惑がかからないことでしたらなんでもおっしゃってください」
と返すあたりは、さすが一族の未来の跡取りである。

錆兎はそれに
「あ~…冨岡の一族にも微妙に関わるかもしれませんが…」
と苦笑。

「俺が説得するので、蔦子さんを本家の嫁候補としてしばらくガードしてもらえませんか?
飽くまで候補で、暮らしてみて蔦子さんが合わないと感じたり、逆に冨岡の家の方が何か違うと感じたら別の嫁候補を探すという名目で…」

「ぜひっ!!蔦子ちゃんに何か違うと感じることなど絶対にありませんっ!!」
錆兎の言葉をさえぎって、勇也が身を乗り出した。

うん、まあ、あなたはそういうだろうなと思った…と、錆兎は内心笑う。

そして説明。
「義勇君の方は俺と社で信頼できる面々と…あとは依頼中の弁護士できっちりガードしますし、彼自身も暴走することはあまりないタイプなんですが、非常に仲の良いこの世で唯一の姉に何かあるとおそらく流されるので。
彼女の方を完全に危険からガードしてほしいんです。
女性ですからね。
俺の家に泊めるわけにも行きませんし、会社の友人も皆男なので。
俺の幼馴染の姉妹は頼めば泊めてくらいはすると思いますが、彼女達も護衛できるわけじゃありませんからね」

「任せてくださいっ!!
蔦子ちゃんが来てくれるなら、屋敷で一番安全で広くて居心地のよさそうな部屋を即用意しますっ!!」

もう過度にはりきっているが、まあいい。
蔦子に関しては何があってもガードしてくれるだろう。

こうして互いに協力体制が整ったところで、連作先を交換の上、勇也との会談を修了する。

あとは義勇と蔦子にそれぞれなんというかだが…その前に義勇のメンタルのフォローと学校側とのやりとりについて村田に確認しなければならない。

(仕事は当分は天元に丸投げだな…)
と錆兎は思いがけず大ごとになった諸々にため息をつきながら、村田と義勇を迎えるためにオフィスの入口に足をむけたのだった。






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