「錆兎兄さん、今週末、お時間頂けないですか?」
渡辺錆兎は20歳の大学2年生だ。
日本でも有数の名門私立、産屋敷学院大学に通っている。
そんな彼に声をかけてきたのは、こちらも顔だけで食っていけそうなレベルの小柄な美少女。
錆兎の事を”兄さん”と呼ぶが、本当の兄妹というわけではない。
幼い頃から実家の近所に住んでいた幼馴染で、たまたまよく勉強などを教えてやっていたのもあって、錆兎のことを兄のように慕っている少女だ。
名を胡蝶しのぶと言う。
しのぶは錆兎よりも2歳年下の現在産屋敷学院大学附属に通う高校生だ。
高校も大学に隣接しているため、校門で待っていたらしい。
──なんだ、用があるならLINE入れとけよ。暑かっただろう?
と、錆兎は駆け寄りがてら途中の自販で冷たい紅茶を買ってしのぶに渡してやる。
別にカフェテリアに誘導してもいいのだが、何か人目を避けているようだったので、それをもって人気の少ない木陰に促した。
しのぶはそこは幼馴染のお兄さんだけに遠慮もなく礼だけ言ってそれを受け取ると、誘導されながら小さく、ふふっと笑う。
──どうした?
とそれに錆兎が少し首をかしげると、しのぶは綺麗に澄んだ大きな瞳で錆兎をみあげた。
──いえ、文章で証拠を残したくないんだなってわかって人目につかない所に誘導してくれる察しの良さが錆兎兄さんだなって思って。
そういうしのぶの顔はどこか誇らしげで、まるで実の兄に対するような信頼を錆兎においているのがなんとなくわかる。
──あ~…それなぁ。お前は賢くて細やかだから、行動に意味があるんだろうと思って。
と、それに対する錆兎の答えも相手の性格についてそれなりに高い評価を持っていることがわかるものだ。
そうして二人で一応パラソルの下で日差しは避けられるものの、外なのでそれなりに暑いこともあって人の居ない中庭のベンチに並んで座ったところで、しのぶの口から出たのが冒頭の言葉である。
錆兎は大学生をする傍らで友人達と企業をしているので、日々多忙ではあった。
暇ではない。
…が、しのぶにとって兄のようなものであるのと同時に、錆兎にとってもしのぶは可愛い妹のようなものなので、
──ちょっと待ってくれ、
と断った後にスマホのスケジュール帳を開き、詰まった予定をさらに詰めて詰めて時間を作ると、
──土曜の午後なら大丈夫だぞ、
と、にこっと笑顔を見せるくらいのことはする。
そう、こわもてな雰囲気のわりに、身内には甘々な男なのである。
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