ペナルティらぶVer.SBG_28_セコム

目を覚ましたのは翌朝だった。

──義勇、朝だぞ。
と、泊まっている間ずっとかけていないアラームの代わりに起きる時間を教えてくれる言葉。

自宅だとあまり寝起きは良い方ではないのだが、あまりに耳心地の良すぎるいわゆるイケボに薄目を開ければ、目に飛び込んでくるのはまばゆいばかりの顔の良さの男。

──茶を飲んで目を覚ませ。
と、そこで無理に起こすこともせず、綺麗な黄緑色の冷茶の入ったグラスを差し出す錆兎。

それは夜に飲むのとは違って、目が覚めるようにとやや苦めに出してあることは、ここ数日の日常で知った。

それを飲んで苦みに少し意識がはっきりしてくると、次に感じるのはベーコンが焼けるいい匂い。
スン…とその匂いを嗅ぐと胃が空腹を訴えてきゅうっと小さな音を立てた。

──目が覚めたら顔だけ洗ってダイニングにこい。
と言われて義勇が頷くと、錆兎は朝食を並べにダイニングに戻っていく。

家だと身支度をすべて整えて時間があれば食事という形なのだが、義勇はどうも食べ方が下手で万が一こぼしたらと思うと朝の食事はやや緊張感を伴うものになるため、リラックスして食事をとれるように食後に身支度だ。

そう、不死川あたりだとその不器用さで怒鳴られたりするのだが、錆兎は不器用でも大丈夫なようにと考えてくれる。

食事は基本的には和室なのだが、たまに洋室の時もあって、そういう時はたいていが洋食で、今日もそうらしい。


昨日は号泣してそのまま寝たと思ったのだが目の腫れもなく、普段は食べてもパンをかじるくらいなのにサンドイッチと副菜、スープ、サラダまでしっかり食べられるくらいには食欲もある。

特に週末に錆兎と一緒に裏庭で収穫したトマトで作った、出汁に漬けこんだ冷たいトマトのサラダが美味しくて、おかわりまでしてしまった。

朝に限らず、一人だとあまりきちんとした食事をとる習慣はなくて、レンチンで出来るパスタやピザ、あるいはコンビニ弁当ばかりだし、たまに外で食べる時はたいてい誰かが一緒なので、緊張して料理を味わうどころではない。

こんな美味しい食事は姉と一緒に住んでいて姉が作ってくれていた時以来だ。

──義勇、美味いか?
と優しく言いながら嫌な顔一つせずに義勇の頬や口元についた食べかすを取ってくれる錆兎の笑みは、なんだか

──義勇、美味しい?おかわりあるからいっぱい食べてね。
と同じように世話を焼いてくれた姉の優しい笑顔を思い出させた。


そんな和やかな朝食だったが、終わりが近づいてこれから会社に出勤しなければならないと思った時に、ふと昨日のキレながら逃げて行った不死川の顔が思い浮かんで、少し不安を覚える。

昨日は錆兎が根回しをして不死川とかち合わないようにしてくれたが、これからずっとそういうわけにもいかないだろう。

──錆兎、あの……

もう完全にシャットするのは無理としてもせめて昼食は美味しく食べたい。
そう思って、今日の昼食を一緒にとってもらえないかと義勇がいったん箸をおいて顔をあげると、錆兎はすべてお見通しどころか、対応もしてくれていたのだろう。

「不死川の事なら何も気にしないでも手を打っておいたから大丈夫だぞ。
今後お前に不快な思いをさせることはないはずだ」
などと言いつつ、大きな手を伸ばして義勇の頭をなでてきた。

え?どうやってあれを?
と思いながらも、錆兎がそうしたというならそうなのだろう、と、なんとなく信じてしまえる自分がいる。

だって先週の金曜日、あれだけ絶望のどん底にいたのに、錆兎に救いを求める手を伸ばしたら、今はこんなに全てが上手くいって幸せなのだ。

義勇があまりに泣いていたから錆兎が朝食の時に教えてくれたのだが、昨日の暴漢に殴られたのも上着を切られたのも、追い払うために多少の手を出しても法的に正当防衛と認めさせるためで、わざとだということだった。

しかもそれを義勇に動画に撮らせているために、今後相手がまた絡んできたら今度は警察沙汰にして、二度と近づいてこられないように手配するという。

──俺はその都度撃退するという形でもいいんだが、義勇はいちいち絡んでこられるのは嫌だろう?
と、彼らの暴力なんて錆兎にはたいして問題ではない程度のことで、飽くまで義勇のメンタルのためだというのだから、すごいと思う。

彼らだってバカじゃないだろうから、義勇に直接的な恨みがあるとかいうわけでもないし、不死川への恨みは別の方向ではらそうとするだろう、だから義勇は何も心配することはないのだ。
義勇が嫌がるものは全部自分が遠ざけるから、身体だけではなく心も全力で守るからと言われて、なんだか少し気恥ずかしいが嬉しくなった。

自分が誰かに大切に想われるというのは本当に蔦子姐さん以来で、心がほわほわと暖かくなる。

その日、就業後に遊びに来た宇髄にその話をすると、宇髄は
──日本どころか世界でも有数の優秀なセコムだからな。まあ安心しとけ。
と、なんだか自分もどこか嬉しそうに笑って言った。







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