錆兎さんの通信簿_25_いじめっ子と学校の作戦

不死川君と言い争っていた大垣君はいわゆるいじめっ子らしい。
1年生の時に不死川君が俺にそうだったみたいに、クラスメート全体に対して乱暴で、なかでも3年生から同じクラスになった秋山君に特に意地悪をしているそうだ。

不死川君は1年の時に担任だったカナエ先生から知り合いだということもあって錆兎さんに連絡が行って、話し合いでいじめっ子じゃなくなったけど、大垣君は当時の担任の先生がいくら言ってもダメで、そのまま2年生へ。

俺は全然知らなかったけど、俺達の学校は1組を学年主任というその学年で一番ベテランで偉い先生が受け持つことになっていて、扱いの難しい子どもは1組に集められることが多いので、大垣君は1組になったそうだ。

1組の悲鳴嶼先生は錆兎さんよりも8歳くらい年上のベテランの先生なんだけど、そんな先生のクラスになっても大垣君はいじめっ子のまま。
とうとういじめられていた秋山君が学校に来なくなってしまった。

そうしてしばらくは秋山君は学校をお休みして、それから保健室に登校するようになったんだけど、保健室だと休み時間に大垣君が来てしまう。

なので大垣君が来れないようにということで、秋山君は今度は校長室登校になって、校長室で校長先生に勉強を教わっていたらしい。

でも校長先生だってずっと秋山君だけに関わっているわけにも行かない。

…ということで、元々知り合いだった悲鳴嶼先生から個人的に相談を受けた錆兎さんが、5年生になってクラス替えがあるまでの期間、隣のクラスで勉強をさせたら良いと提案したそうだ。

学校内の都合だけで1年の途中でクラス替えは出来ないけど、隣のクラスで学ばせるだけなら校長先生が良いと言えば出来る。

俺達の学校は幸い別のクラスの教室には入っちゃいけないというルールがあるから、秋山君が2組の子という扱いになれば、大垣君は秋山君を追ってはこれない。

もちろん事情を知らない子ども達は何事か?と思うだろうから、クラス留学という風に言えばいい。

そんな話がPTA会長の錆兎さんと校長先生、1組の悲鳴嶼先生と秋山君を受け入れる2組のカナエ先生の間であったそうだ。

3学期の間だけのクラス留学。
そして5年生のクラス替えでは大垣君は1組のまま、秋山君は別のクラスにする予定らしい。

すごいな、びっくりだ。
そんなことを思いつくなんてさすが錆兎さんだ。

俺が感心してそう言うと、錆兎さんはまた、し~っと指を唇に当てて
「これは俺とお前の秘密の話だからな。お前ももうだいぶ善悪の判断がつくようになったから打ち明けたんだ。誰にも言うなよ?」
というので俺は頷いて、それから二人で指切りげんまんした。

「でもさ…」
指切ったっと言ってつないでいた指を放したあと、俺はふと思いついて錆兎さんを見上げて言う。

「秋山君がいなくなったらまた大垣君は1組の別の誰かをいじめるんじゃないかな?」

俺はそれは大問題だと思ったんだけど、錆兎さんは俺の言葉に少しびっくりしたように目を瞠って、それから
「そこに気づくなんて、さすが俺の義勇だ!賢いぞ!」
と嬉しそうに言った。

いやいや、錆兎さん、そこは喜んでいる場合じゃないよ。
俺の成長はいいとして、またいじめが始まるのなら喜んでちゃダメだ。

俺がぷくりと頬を膨らませて抗議すると、錆兎さんは、すまんすまんと、でもやっぱり嬉しそうに笑っている。

そして                                                                                                                                                                                                                                                  
「そのあたりも先生方はちゃんと考えているから大丈夫だ」
と俺を抱き寄せて、なだめるように背中を軽くポンポンと叩く。
                                                                                      
「考えてる?
大垣君は悲鳴嶼先生が言っても全然聞かなかったんでしょ?                               
もしかしてまた錆兎さんがお話をするの?」

俺に思いつく解決方法なんてそれしかない。
錆兎さんならできるはず!

そう思って言ったのだが、錆兎さんは
「あ~…実弥の時の事でそう思ったのかもしれないが、大垣君に関しては無理だなぁ」
と少し困った顔をした。

「え?なんでっ?!」
と、その答えに俺は驚いてしまう。
錆兎さんに出来ない事なんてないと思っていた。

ちなみに…不死川君に関しては彼の方が錆兎さんに懐いたのと、あとはあのあと不死川君の弟さん妹さんが入学してきて不死川君じゃややこしくなってきたので、錆兎さんは彼を名前で呼ぶようになっている。

そんな呼び名事情はさておき、5年のクラス替えで秋山君と引き離すのは良いけど、大垣君が他の子をいじめないかという話で、錆兎さんでさえ彼を説得できないなんて…と俺は驚いてしまって、それに対して錆兎さんが説明をしてくれた。

「まず実弥の場合な、あれはまだ善悪の区別がつかない子どもだったんだが、それでも弟や妹がたくさんいて、その面倒をよく見る良い兄だという話は聞いていたんだ。
母親に対しても労わりの気持ちが強い。
…つまり、まあ表現の仕方や方向性がわからないだけで、元々は世話好きで思いやりのある子どもだというのがあった。
プラス、まだ7歳で先生や大人の方が自分よりもずっと立場が強いという認識もある。
そんな時期に、それで自分が望むような…実弥の場合はみんなが実弥を頼って感謝してくれるような反応が返ってくるような行動の仕方を教えてやれば、自然とそういう方向へと流れてくれる。
でも大垣君の場合はもう自分で考えて自分の行動が相手にどういう影響を与えるかをわかる年齢で…それをわかってなおやっている。
だから彼には弱者を労わってやれば感謝をされるとか教えても意味がない」

「じゃあもう放っておくしかないの?」
「いや?それではみんな困るだろう?」
「うん。じゃあどうするの?」
「…ずっと先生が教室にいるとか?」
「それでも効果はなかったから、今、秋山君がクラス留学中なんだろう?」
「うん……」
「大垣君ははっきり言ってしまえば弱者に対する思いやりはない。
だから弱者をイジメるわけなんだけどな。
自分より強い相手…例えば悲鳴嶼先生とかに喧嘩を売ったりはしないだろう?」
「うん」
「どうしてだと思う?」
「そりゃあ悲鳴嶼先生は大人だから」
「なぜ大人には喧嘩を売らないんだ?」
「そりゃあ…敵うわけがないもん。負けちゃうのわかってるから」
「だろう?」

錆兎さんは俺をそこまで誘導すると、
「大垣君は負ける相手には喧嘩は売らないんだ。
だったらどうすれば大垣君が自分から喧嘩をしなくなると思う?」
と、たどり着いた結論から答えを聞いてきた。

「…大垣君を…喧嘩で勝てない強い子ばかりを囲んじゃう?」
「正解だっ!」
「え?!ほんとに?!でも大垣君より強い子なんて一クラス分もいないよ?」
俺がびっくりして身を乗り出すと、錆兎さんはにやりと笑う。

「一対一じゃなくてもいいんだ。
大垣君より強い勢力があればいい。
あとはそうだな…大垣君と一対一で敵わなくても、泣き寝入りをしないくらいの強さがあれば十分だ。
大垣君がちょっかいをかけてきたら、ちょっかいをかけられて嫌なんだと主張できれば、あとは彼よりも強い面々がガードしてくれるし、そのおかげでちょっかいをかけられた相手がダメージを受けないどころか自分が強い面々にやり返されたら、大垣君も楽しくはないだろう?
だから来年の5年1組は強い子と強い友達が居る子で構成されることになる」

本当に?
本当にそれで大垣君がいじめをしなくなるんだろうか…

俺はさすがに半信半疑だった。
でも1年の時から強い女子達と仲良しで、錆兎さんが仲裁に入ってくれてからは不死川君も俺をかばってくれるようになったから、俺は5年1組になったんだけど、驚いたことに大垣君は本当にいじめをしなくなって、むしろ気の強い男子たちと楽しそうに遊ぶようになった。

もちろん良い子になったとかじゃなくて、授業が始まってもうるさかったりとか、先生には随分と迷惑をかけてはいたのだけど、とにかく俺達の学年ではいじめをみかけることはなくなったのだった。








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