寮生は姫君がお好き1041_輝く援軍

悔しいがその時の銀虎の寮長は実に凛々しくカッコよかった。
そもそもが宇髄は寮長の中でも屈指の顔の良さで体格も良い。
そのうえ洒落者だ。

この、劇で言うなら一番の見せ場であろうところを意識しているのか、普段は後ろで結んでいる自寮を象徴するように美しい銀色の髪を今はほどいているため、それが風にたなびいている様子が、なんとも言えず華がある。

いつだって物理的なことで必死で、それこそ今まさに小郎を矢からかばって地面に転がったため土埃にまみれた自分とはえらい違いだと錆兎は思った。


あとで聞いたところによると、援軍を出すべきと言うことに両虎寮の寮長達は異論はなかったのだが、金虎寮の寮長である童磨は前回に他に任せて姫君達を危険に晒したことが念頭にあってこの状況で自寮の姫君から離れるのを嫌がったらしい。

一方で幸いにして銀虎の姫君の煉獄はすでに姫君として守られるというよりも、むしろ来期の寮長候補で戦力になる。
なので宇髄が援軍に向かうことに決定。

どちらにしてもそれは両寮長の判断で、接近戦をするであろう銀狼の補佐をするには遠隔が良いだろうということで、率いていくのは剣術や棒術が得意な金虎ではなく、弓術を得意とする銀虎の寮生の方が良いだろうということになったらしい。

確かにかなり密着している状況なのに銀虎の寮生達は、互いにぶつかり合うこともなく、互いの矢が他の矢の邪魔をすることなく、驚くほど正確にまっすぐ標的に向かって矢を射かけていた。

もちろん敵と違って学生達には極力害を与えないようにと、その矢尻は綿入りの布でしっかりとカバーがされている。

それでも当たれば痛いのだろう。
金狼寮生達は大騒ぎだ。

その混乱に乗じて錆兎は首根っこを掴んだままの小郎と共に宇髄の方へと避難する。


こうして命からがら駆け寄れば、小さくはない錆兎から見ても大柄な銀虎の寮長は錆兎の手からひょいっとこちらは錆兎よりもやや小柄な金竜の寮長を取り上げて、首根っこを掴んでつるし上げた。

「てめえ、毎度毎度舐めた真似ばかりしてくれるなっ。
とりあえずこの戦が終わったら臨時寮長会議と言う名の裁判だ。
すでに学園長の許可は得てるから、逃げられねえぞっ」
とすごんだと思えば、
「縛りあげとけっ!」
と今度は連れていた銀虎の寮生の中へと放り投げる。
そう、比喩ではなく、本当にぽぉ~んとまるで人形のように放り投げて見せた。

すごい怪力だな…と思わず呟けば、力だけはお前にも負けねえぞと2学年上の先輩寮長は笑う。

そうしている間にも前方に居る金狼寮の寮生達の混乱は続いていた。

──え?俺達なんで将軍に喧嘩売ったんだっけ?
──うあ…やばくね??
──一郎が銀狼がうちのヘタレ姫を拉致したとか言ったからじゃなかったっけ?
──考えてみれば…でもそれ、何か問題?
──てか、ヘタレ姫攫う意味あるか?どう考えても銀狼のお姫ちゃんに敵うわけねえし?
──だよなっ。なんで俺達ついてきたんだ??
──つか、銃とかやばくね?!学園クビにならね??

どうやら一郎以外は洗脳されていたらしい。

それが何故解けたかと言えば……
──あ~射人が矢の先になんかふりかけてたが……
と言う宇髄の言葉で理解した。


そして…小郎とは違い、プロらしい一郎は形勢が不利と即判断して逃げ出している。

──逃がすかっ!!
と追おうとする宇髄だが、錆兎はそれを止めた。

「たぶん相手はプロだ。
下手に深追いすると無駄に怪我するぞ。
それより柏木亜子の方を確保してそっちからたどる方が安全確実だろ」
と、錆兎的には非常に当たり前のことを口にしたのだが、それに宇髄はヒクっと顔を引きつらせる。

「…まさか逃がしたとか言わんよな?」
と口元をヒクヒクさせる錆兎に
「悪い。確保してねえわ」
と頭を掻く宇髄。

「あぁ~?!まじかっ!!」
と、計画変更、一郎を確保しようと思った時にはすでに逃げられていてため息をつくが、宇髄は
「あ、でもあの女と組織とのやりとりが記録されてる携帯確保してるわ」
と思い出したように言うので、
「それ、早く言ってくれっ」
と、錆兎は再度、今度は安堵のため息を零した。









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