政略結婚で始まる愛の話_32_新婚ごっこ3

別荘についてからずっと、義勇は興奮しまくりだ。

食事の食器も可愛らしいものをと思って、ロイヤルアルバートのトランキュリティシリーズで揃えてみたし、それを並べるダイニングテーブルには当然白いレースのテーブルクロス。
もちろんそこには義勇の大切なティディを座らせる椅子だって用意している。

この日のために飾り切りや料理の盛りつけなども研究したし、食事が終わって寝る前に入るフロは、浴槽にたくさん花を浮かべてみた。
ボディソープは英国王室御用達のヤードレー社のローズソープ。
とびきりの香りをまとって風呂から上がれば、着るのは白刺繍がたっぷりほどこされたアンティーク・ナイティである。

寝室は毛足の長い絨毯で、寝台は幾重にもレースが折り重なった天蓋付き。
もちろんふかふかの布団は真っ白で、フリルがたくさんついている。
諸々が少女趣味を絵に描いたような感じだが、幼げであどけなさの残る義勇にはよく似合っていた。

似たようなデザインのナイティを着せたティディをだきしめて、嬉しそうにふとんにもぐりこむと、義勇は
「なんだかおとぎ話の中にいるみたいだ。
楽しすぎて眠れないかも…」
と、むふふっと笑う。

そんな義勇に、
「はいはい。
でも明日が本番だからな。
眠いなかでやりたくないだろう?
頑張って眠れ」
と、錆兎は笑って頭を撫で、小さな子を寝かしつける時のようにぽんぽんと一定のリズムで義勇の背を叩き始めた。


和やかな時間……

かなり年下で、さらに世間知らずな面もたぶんにある義勇は、錆兎からするとずいぶんと幼くて、そんな義勇といると、それまであまり意識したことはなかったのだが、子どもを持って慈しんで育てる生活というのも楽しそうだなと、今更ながら思う。

まあ義勇と居ることでそんな生活も手放すことになるわけなのだが、自分も義勇ももっと年をとって、うるさい副社長がぽっくりと逝った日には、別に実子じゃなくても養子でももらって義勇と2人で育てていくのも楽しいかもな…と、腕にかかえこんだ義勇の人肌の心地よさに自分もウトウトしながら、錆兎は意識を手放す寸前にそんなことを思った。


こうして翌日。
いよいよ新婚ごっこのメインイベントである結婚式ごっこだ。

朝起きて、二人して朝食を摂ってシャワーを浴びてスッキリすると、刺繍道具とティディとともに義勇をリビングに残して、錆兎は最後の仕上げにと、手配した諸々を運び込ませる。
料理はいったん大型の冷蔵庫へ。
ケーキだけは大型のクーラーボックスに入れて置いておいた。
ワインは義勇が生まれた年の物を用意したし、あとは食べる時に自分で温めるものは温めるとして、料理はそれでよし。
あとは教会もどきに仕上げたサンルームのほうだ。

部屋は極力涼しくしておいた。
そして2人きりでも寂しさや物足りなさを感じさせないように、大量に用意したアマリリスやスイトピー、チューリップにラナンキュラスなどの切り花を部屋いっぱいに敷き詰める。
まるで花園の中にいきなり教会が現れでたようになって、これもおそらく喜んでもらえるだろうと、満足のいく出来に錆兎はうなずいた。
ブーケもそれらの花にかすみ草を足したかわいらしいもの。
それはサンルームを入ってすぐのコンソールテーブルに置いておく。

「完璧だなっ!さすが俺だ」
と、言って、自分自身も着替えねばと、ご機嫌でドレスルームに。

とは言っても、自分はあくまで添え物みたいなものだ。
メインはやっぱりウェディングドレスの花嫁である。
自分はちゃっちゃとタキシードを着て、髪をきちっと整える。
そうやって身支度を終えると、義勇をリビングへ迎えに行った。


「義勇、そろそろ支度できるか?」

開いたままのリビングのドアをトントンとノックをすると、ソファの上で可愛らしい刺繍を刺していた可愛いお嫁さまは、びっくりまなこでぽかんと呆けた。

「ん?どうした?」
錆兎がそれに少し眉を寄せると、錆兎が…と、言ったっきりまた呆ける。
「俺が?」
「すごい服着てる。俳優みたいだ…」
と言う答えに、錆兎は思わず小さく笑った。

「あ~。タキシードのことか。
改まった席ではたまに着るぞ?
義勇がウェディングドレス着るというのに、俺が平服というわけにはいかないからな。
…ってことで、そろそろ着替えないか?」

質問の形式はとっているものの、錆兎はうながすように義勇の手から刺繍を取り上げてテーブルに置き、その手を取ると立ち上がらせて、衣装部屋まで連れて行った。
そして奥の方のマネキンにかかった布を取ると、そこから現れるのはウェディングドレス。

繊細なレースが幾重にも重なった、まるで妖精のドレスのような雰囲気のそれの上には、花をあしらったレースのついたマリアベール。
それをマネキンから丁寧に脱がせると、錆兎は義勇が着るのを手伝ってやる。

まずドレス。
それからウィッグを整えて、軽く化粧。…と言っても、そのままで十分愛らしい顔立ちをしているので、軽くファンデーションを塗ったあと、ルージュを引くくらいだが…
そして仕上げにそっとかぶせるマリアベール。
そこまですると、もう、世界で一番美しい花嫁の出来上がりだ。



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