政略結婚で始まる愛の話_02_仕組まれた婚姻2

パタンと閉まるドア。
錆兎は一人になったところで、片手で顔を覆ってため息をついた。


──鬼じゃないとか、どの口が言っているんだ…

相手は自分にとって一番の敵だという事はさすがに認識しているので、そんな相手に弱みを見せるわけにはいかない。

だから動揺を表に出さないのはもちろんのこと、相手の手の内などお見通しで、それくらい自分にとってはどうといったことでもないのだと言う態度でプレッシャーをかけてみた。

それは随分と成功したらしいが、実は相手がいなくなったら全身から汗が吹き出して身体中の力が抜けるほどには、動揺する。


さきほどの見合い相手の写真と釣書の束。

その、かなり年上の女性達と男性に混じった数少ない若い女性。
あれは罠だった。

副社長はおそらく錆兎がその若い女性達のいずれかを選ぶと思って用意したのだろう。
そして…その女性と錆兎が一緒になった時点で副社長の計画は成功する。
つまり、錆兎に自身の子孫を残させないという計画が…。

年上の女性達もあるいはそうなのかもしれないが、数名居た若い女性達は確実になんらかの理由で子どもを産めない女性なのだろうと思われる。

何か婦人科系の病気が…という錆兎の言葉には返答を寄越さなかったが、変わった顔色が何よりの証拠だ。

外部の会社で成功して力をつけられたくない…そんな彼らの要望で、他の会社で自由に働く事も諦めて、上に立たない前提で淡々と会社の業績を上げ続けているというのに、まだ安心出来ないでそこまでやるのか…というのが率直な気持ちである。


今まで自分が半分育てたくらいの気持ちの弟可愛さに色々譲歩をしてきたわけだが、ここまでだと譲歩し続けるかそれとも戦うか、正直迷った。

錆兎自身が小さなもの、可愛いものを愛おしいと思う気持ちくらいはある。
まだ特定の恋人も作っていなかったので現実的に考えてはいなかったが、もちろん将来的には子どもがいる家庭というものを漠然と脳裏に描いてはいた。

それを諦めてこの状況を続けるのがさて正しいのか…と、顔には一切出さずに悩んだのだが、結局錆兎は現状維持を選ぶことにした。

今目の前に差し迫っていない、将来も実際にそんな気になる相手が出来るかどうかもわからない未来絵図のために今後さらに重責を負うであろう弟を見限るのかと思えば、否というしかない。

ということで、どうせなら絶対にこれ以上おかしな警戒心を起こさせてちょっかいをかけてこられないように、そして同時に、いつか気持ちが変わった時にリカバリがきくように…そんな2点から錆兎が選択したのは最年少の16歳の少年だった。

年上の女性陣に関してはただ、庇護欲が強い錆兎なら年上よりは年下を選ぶだろうということで選択範囲に放り込んでおいた可能性もある。
そして相手が望んでいるにも関わらず子どもが完全に出来ないとなると、万が一錆兎の側に別に好きな相手でも出来て子どもを望むということになった時、それが離婚の理由かとひどく傷つけることになるだろう。

その点、男なら気が楽だ。
おそらく向こうも何らかのわけありの政略結婚なのだろうし、気軽な同居生活をしつつ、互いに好きな女でも出来たら別れても良い。
それどころか、もしかしたら婚姻関係が終わったとしても気が合う相手なら友人にくらいなれるかもしれない。

ということで、写真を放り出して釣書を一通り。
まだやり直しがききそうな一番若いのをピックアップした。


こうして決定した結婚。

女性なら完全な政略結婚だとしてもドレスか白無垢の一つでも着たいだろうし式をあげてやっても良かったのだが、男二人でタキシードや紋付を着て並んでも仕方あるまい。
なので今回はそのあたりの面倒な諸々は全てパスすることにした。

決まった1週間後の週末に3LDKの錆兎のマンションに相手の荷物が運ばれてきて、翌日、錆兎が会社に行っている間に相手が来る予定だ。

結婚というより本当にルームシェアでもするような軽さの始まりだった。


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