清く正しいネット恋愛のすすめ_96_産屋敷学園高等部体育祭当日朝

「………」
「ウサ、どうしたよ?」

不可思議な顔をしつつ上級生の席の方に時折視線を向ける錆兎に、宇髄が声をかけた。
いや…と珍しく歯切れの悪い様子でそう言って首を横に振るものの、やはりそちらの方を気にする錆兎の肩に腕を回すと、

「2年の方か?派手な美人でもいたか?」
と、冗談めかして言って、宇髄もそちらに視線を向ける。


宇髄天元は俺様なようでいて、実はかなり気遣う人間だ。
特に錆兎に関しては、胡蝶から幼稚舎時代の諸々を聞いてから、かなり気を付けている。

錆兎は強い。
自分のことは自分で十分すぎるくらい出来て、さらにいつでも誰かの手助けをするくらい強い。
そう思っていたから幼稚舎時代も心配をしたことはなかった。
が、強いという認識は確かにその通りなのだが、だからと言って気を付けないで良いという事ではないということを宇髄は全てが終わってから知ったのである。

錆兎は他人のことは気にするし、困っている人間にはナチュラルに手を差し伸べる人間だが、自分のことに構わなさすぎる。

普通の人間ならまず守るであろう自分自身は守ろうとしない。
自身を攻撃されると一般人よりはるかに脆い。
誰かが見ていてやらねばあっという間に人生を終えそうだ…と、宇髄は思っている。

だからこそ、まあ普通に『大丈夫か?』と聞けば絶対に…100%の確率で『大丈夫』という答えが返ってくるし、『何かあったか?』と聞けば『何もない』と言われるのが目に見えているので、
「美人でもいたか?」
と、心配されているということを感じさせない問いを投げかけてみたのだが、それには
「義勇以上の美女がいるはずないだろう」
と、これまたはっきりきっぱりとした言葉が返ってきた。

「んじゃ、なんだよ?ガンでも飛ばされたか?」
と、これも冗談ぽく言ってみると、錆兎は
「ああ…そうなのかもしれない。
なんだか2年の方からすごく視線を感じるんだが…。
やはりあれか。
候補者が出ないと言っても学年が下の生徒会長は…ということなんだろうか」
などと、あごに手をあてて考え込む。


そこで宇髄は察するところがあって、ちらりとまた2年の席の方に視線を向けた。
案の定、自分のクラスの女子達と同じようにきゃあきゃあ騒いでいる2年女子が目に入ってくる。

「ちげえよ。お前さ、馬鹿みてえにスペック高いのに、女からの好意って面だとなんでそこまで自意識が地の底まで低いんだよ。
あれは逆だ。
お前がカッコイイって騒いでんだよ。
共学科のうちのクラス来て女子の反応見ていい加減分かっただろうが。
派手にイケメンな俺ほどじゃねえけど、お前も容姿は良いし、運動神経も良いし、成績良いし、教師の覚えもめでてえし?
女が惚れる要素満載男だからな?
そんなとこに来て、今回、教師の側からお願いされる形で会長になるっていやあ、もう良い意味で有名人だろ」

「…ひんしゅく買っているとかじゃなければ、いい。
義勇以外にモテても仕方ないからな」

「ああ、はいはい。初っ端は1年女子短距離だから好きなだけ応援してやれや」

宇髄の言葉にとりあえず悪意を向けられているわけではないということは理解したらしく、ややホッとした様子で、錆兎は整列する女子達の列でちょいちょいと手招きをする義勇に駆け寄っていく。

「どうした?」
と、自分よりはるかに下にある小さな頭を見下ろすと、義勇はそこに巻いた鉢巻をしゅるりとほどいて錆兎に差し出し、

「えっと…お守り。
錆兎は運動神経すごく良いし、錆兎のハチマキもらったらご利益がある気がするから、交換」
と言ってつぶらな青い瞳で見上げてくるので、錆兎はその場に崩れ落ちそうになる。

可愛い…
自分の彼女はなんて可愛いことを言うんだろう…

ああ、もう2年の女子に好かれていようと嫌われていようとぜんっぜん無問題だ。

「わかった。交換な?」
と、笑って自分のハチマキを取ると、錆兎は
「義勇が怪我などせずに勝利を掴めるまじないだ」
と、それにチュッと口づけを落としたあと、真っ赤な顔で硬直する彼女の頭にそれを巻いてやって、彼女のハチマキを自分の頭に巻く。

そして
「勝てれば尚可…だが、一番は義勇が怪我をしたりしないことだからな?
無理はせず全力を尽くしてこい」
と、笑顔で彼女を送り出すと、何故だか周りであがる女子の悲鳴を聞かないふりで、錆兎は宇髄達の方へと戻って行った。

最初の競技…1年女子短距離走。

錆兎が心配するまでもなく、最愛の彼女様は流れる水のように滑らかな走りで、4人並んで走った中で余裕でトップでゴールして、1位の生徒が並ぶ列に座ると、錆兎に愛らしい笑顔で手を振ってくれた。



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