ギル&アーティ、ライブパニック5

――にらまれている…
と、ステージに立ったギルベルトはもう何回も思った。

前列2列目あたり。
ディスプレイで見た時も、自分達のファンっぽくないなと思った男。


男のファンがいないとは言わないが、どうも空気が違う。
明らかに楽しんでいないどころか、嫌悪感とか敵意とか、そういうマイナスの感情を感じる。

まあアーサーに害がなければ自分的には仕方ないと思わないでもないのだが……
と、念のため警告をしておこうと、隣で澄ましてギターを奏でる恋人の肩にトンと軽く背中をあてる。

しかしそこで気づいていないのかとばかり思っていたアーサーは、

(…気になるのはしかたねえけど…歌の間はちゃんと集中しろよ?)
と、ファンににこやかな笑みを浮かべながらも、こそりと逆に注意を促して来る。

(なんだ、気づいてたのか…)
と、全く表情に出ないアーサーに驚くギルだが、アーサーは
(気づくだろ、そりゃ。俺の方がお前より他人に見られるの慣れてないし)
と、やはり澄まして軽く肩をすくめた。

なるほど…それは確かに。

子どもの頃から芸能界に居たギルベルトと違ってアーサーがこの世界に入ったのはたった3年前で……

(オーディションでは緊張してプルプル震えてたのにな)

と、初めて2人が出会った映画のオーディションで自信なさげにぎゅっと手を握り締めて泣きそうになっていたアーサーを思い出してしみじみした。


体格はいくらギルベルトが食わしても細いままだが、アーサーはこの3年間でなんというか…どことなく逞しくなった気がする。

捨てられてダンボールで震えている元家飼いの子猫から、野良で雄々しく育って来た野良猫くらいには……

まあその分無茶をするようになったし、放っておけないのは一緒なのだが……


(ま、俺様はアルトに実害がなければ何でも良いけどな)
と、その耳元に唇を寄せて言葉を落として離れ際にカプっと軽く耳朶を甘噛みをすると、2人の絡みも楽しみにしているお嬢様達から、ひときわ大きな黄色い悲鳴があがる。

それに対してアーサーが軽く蹴りをいれてくるのを交わして、ギルベルトは笑って演奏を再開した。


こうして視線が気になりつつも何事もなくコンサートの最後の曲が終わり、その後アンコールに応えて再度ステージへ。
そしてアンコールも歌い終わって、ファンから直接花束を受け取る。
これも小人数ライブならではだ。

…と思っていると、客席の方から悲鳴が聞こえた。

振り返ると目に映るのはステージから飛び降りる恋人と、客にナイフを振りかざした男。


「レディに何しやがるっ!地獄に堕ちろっ!!!」

と、アーサーは飛び降りた勢いでナイフを持った暴漢の手を蹴り飛ばして、客を庇うように腕の中へ抱き寄せるが、いったんは体勢を崩した男はしかし体勢を立て直してアーサーの方へ。

「アルトーーー!!!!」
と、必死にそちらに駈けつけるギルベルト。

男が振りかざしたナイフから身をかばうアーサーの腕をかすめるナイフ。
その瞬間、頭が真っ白になる。

それはもう反射的に男の手を蹴りあげると、ナイフは宙を舞った。

だがそれにも気を止めず、
「くっそおぉぉ!!!!死ねっ!!!死ねよっ!!!!!」
と、素手になっても今度はギルベルトの方に向かってくる男に

「死ぬのはてめえだっ!!!
よくも俺様のアルトを傷つけやがったなっ!!!」
と、本気で死ねば良いと思って思い切りその腹に蹴りをいれる。

――殺してやるっ!!!!
と、そんな怒りだけが脳内をしめて、ギルベルトの蹴りで床に吹っ飛んだ男に駆け寄りかけるが、そこで腕を掴まれた。

「警備員来たからやめとけ」
と、目の前には大事な大事な恋人様。

そこでようやく暴漢以外の景色が戻ってくる。

男は駆け付けた警備員に取り押さえられて連れて行かれかけているが、ギルベルトの怒りは収まらない。
無言で腕を掴む手を振りほどこうとすると、アーサーがまた

「やめとけ」
と繰り返した。

「でもっ!!あいつアルトを傷つけやがったっ!!」
そういうギルベルトにアーサーは少し呆れた口調で

「かすめただけだ。
それよりやりすぎて過剰防衛で捕まっても馬鹿みたいだろ」
と言う。

過剰防衛だ?捕まるだ?
それがなんだと言うのだ。
大事な大事な、ギルベルトにとって世界の中でなにより大事な恋人を傷つけた相手に鉄槌を下すためなら、そんなこと、些細なことだ。

そう主張すると、アーサーは、些細な事じゃねえ!とぷくりと頬を膨らませた。

……可愛い。
すっっごく!!可愛いわけだが、ごまかされねえぞっ!!

…と、ギルベルトは思ったわけだが、続く言葉

――ギルが捕まったら、誰が俺の飯作るんだよっ!
で脱力する。

うん…そこは大事だ。

「悪い、そうだよな」
と、いつも美味そうにギルベルトが作った食事を食べる顔が最高に可愛い恋人様を抱きしめると、腕の中のアーサーは極々当たり前に
「そうだろ」
と、頷いた。



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