両手に自分にはコーヒー、イギリスにはホットミルクのマグカップを持って、ミルクの方をイギリスに渡すと、もうだいぶシャクリもおさまってきたイギリスは、小さく、サンクス、と、礼を言ってそれを受け取って、ちびちびと飲み始める。
「で?お前さん、何があったのよ?
この1週間はスペインといたんだよね?
体は若返ってたけど、現代の記憶はあったの?」
日本が500年前の姿に戻ってしまったイギリスの面倒を見たいというスペインのために家を用意したと聞いている。
当然二人でそこに暮らしていたんだろう。
本人は隠しているつもりだろうが、スペインがイギリスを好きだったのと同様、イギリスがずっとスペインを好きだったことなど、フランスはとっくに気づいている。
伊達に1000年以上も隣にいたわけではないのだ。
「お前…スペインの事好きだったんでしょ?
もう知ってると思うけどさ、スペインもそうだったんだよね。
だからお兄さん的にはめでたしめでたしに落ち着いたと思ってたんだけど?」
クシャクシャと頭を撫でながら言うと、自分に関しては気づかれている事に気づいていたらしい。
イギリスは驚いた様子も見せずに、ただ、パシッと頭を撫で回すフランスの手を払いのけた。
「…500年前の…ガキの頃の俺の事が好きなだけかと思ったんだ……」
そう、ぽつりと話し始める。
「あの日、気持ち悪いって言ってたの俺の事だと思ったから…ガキの頃の姿に戻って気持ち悪いっていう声が出なくなれば少しは嫌われねえんじゃねえかって思って…。
色々あって寝不足で疲れてて、半分寝ぼけて魔法使ったんだ。」
「…お前……馬鹿だねぇ……」
真相を聞いてみればため息しか出ない。
フランスは思わずため息混じりにそうつぶやいた。
「でも違ったでしょ?」
と言うと、コクリとうなづく。
「じゃ、何が問題?万々歳のハッピーエンドじゃないの?」
伝えられてなかったわけではないらしいところを見ると、ますます謎だ。
不思議に思って聞くフランスはその後真相を聞いて頭を抱えることになる。
「魔法は1週間で解ける程度のもので…とりあえずガキに戻ってる俺にスペインは優しかったから、最初はそれで終わっても良いと思ったんだ。
でもだんだん終わるのが怖くなってきて…終わらせるくらいならって思って…魔法使った。」
「お~ま~え~ねぇ~~~」
もうなんだろう、なんでこう斜め上な方法を取ろうとするのだろうか、この不思議国家は。
魔法を使った状態でまた魔法?!
呆れ返るフランスに、イギリスはプクリと膨れてみせる。
「うるせえ!しかたねえだろっ!!」
「いやいや、仕方なくないからね?!
お前くらいだからねっ、そんな手段に走るのはっ!!
で?どういう魔法を使ったのよ?!」
ここでこれ以上ツッコミを入れていたら話が進まない…と、いうことに気づいたフランスは先をうながすが、返って来た答えはさらにカオスだった。
「戻ったのがお前んとこの代理戦争の直後くらいで…」
「うんうん。」
「スペインが特に優しかったのは、その時の事にすごく責任感じてるというのもあったみたいだから…」
「うん、それで?」
「消えないように責任感じるような事起こせば、ずっと優しいままかと思って……」
「………(嫌な予感が)……」
「子どもつくろうと思った。」
ブ~~~~ッ!!!!!
フランスは飲んでいたコーヒーを吹き出した。
「なんだよ、きったねえなぁ!」
「いやいやいや、お前なに考えてんの?!!
男だし国だしどうやっても無理だよねっ?!!」
フランスがむせてゲホゲホと咳き込みつつそう言うと、イギリスは
「ばぁかっ。大英帝国の魔法に不可能はねえんだよっ!」
と、さっきまで泣いていたくせに、すごいドヤ顔で胸をはる。
ねえ…そこ、そんなに威張るとこ?…いや…ある意味すごい事ではあるのか??
と混乱する頭でクルクルと考えるフランスに構わず、イギリスは続けた。
「もちろんスペインに責任取らせるためにはスペインの子どもじゃねえと意味ねえし?
子ども普通に産める状態になる魔法かけて、それ内緒で抱かれようと思ったんだけど…」
うん…もうお前の辞書に正攻法って文字はないのかな?
アルマダで思い切り反省したんじゃなかったの?
色々言いたいことはあるが、
「で?」
と、続きを促してみる。
とりあえず状況把握が先だろう。
「でもあいつ、今の状態じゃまだ体もできてねえし、壊しそうだから、もうちょっと育ってからとか言いやがって…」
「…ああ…うん。まあスペインがってのは少し意外だけど、対応としては正しいよね。
で?」
「でも明日には今の姿に戻っちまうし、そしたらスペインも俺の事嫌になると思ってたから、今日じゃないとダメだって言ったんだけどきかなくて」
「うん、きかなくて?」
「そうこうしてるうちに日付が変わって元の姿にもどっちまったんだ。」
「なるほど?でも別に戻っても好きなままだったでしょ?何か問題?」
そう聞いたフランスの顔に、本日3つ目のクッションがぶつけられる。
「問題だろおっ!!
あいつ元に戻っても俺の事好きだとか言って…あろうことか、昨日はあれだけ言っても抱こうとしなかったのに、これだけ育ったんならとか言って抱こうとして…俺、まずいと思って抵抗したんだけど……」
と、そこまで言って、4つ目のクッションを抱え込んでそれに顔を埋めるイギリス。
うん…その流れならお兄さんだったとしてもそうなるね。
何が問題よ?と思い、実際に聞いてみたら、やっぱりクッションが飛んできた。
「お前、俺の話聞いてなかっただろっ!!!」
「なによ?!聞いてるよ?だって両思いで、別に抱かれても良いと思ってたんでしょ?
昔の姿だと良くて今の姿じゃダメな理由って何よ?!」
「子どもっ!!
今の姿じゃ嫌われるから責任感じさせようと思って子ども出来るような魔法かけてたって言っただろうがっ!!
その効果が続いてたんだよっ!!
なのに抱かれて中に出されて……まずいだろ…。」
急にそこでトーンが落ちる。
「昨日ぜったいに出来ないと困るから……すれば絶対にできるように魔法かけてたし……」
と、そこでまた大きな目にまたじわりと涙が溢れだした。
ああ…そこだったのね。
色々がようやくつながった。
いや、つながっても何も解決はしないわけだが…
「…それ……スペインは?」
「言えるわけねえだろ…。
なんて言うんだよ?
お前に責任取らせようと思って子どもが出来る魔法かけて抱かれようとしてたんだって告白しろって?
さすがに呆れられるだろ…。
そうじゃなくても、普通に考えて、俺に子ども出来たとか…引くだろうがっ」
うあ~~と思う。
しかし自業自得…というにはあまりにも……
「で?坊っちゃんはどうしたいの?」
あまりに色々が斜め上すぎて、スペインがどう思うとかまで想像が出来ない。
が、とりあえず今の本人の話を信じるならお腹に赤ん坊を抱えているらしいイギリスを放置するわけにもいかないだろう。
子どもを生むまでイギリスを匿うとすると…スケジュール調整をどうするか…と、脳内で今年の外せない仕事の日程を思い出しながら聞くと、イギリスはまたクッションに顔をうずめた。
「体調不良って事で外交は兄さん達に任せて……スペインの事はなかったことと思って諦めて、こっそり子ども生んで一人で育てる。」
あ~、ぼっちゃんならやっぱりそう来るよねぇ……と、予想通りの答えにフランスは小さく首を振る。
しかしようやく長年の片思いを成就させて手に入れたと思ったイギリスがいきなり目の前から忽然と消えたなんて事になったら、あの、片思い時代から恐ろしく執着していた情熱の帝国様が大人しく諦めるわけがない。
――親分のイングラテラに手ぇ出してみ?スペインブーツ履かしたるで?
飲みに行くたび周りの空気が10度は余裕で下がるような怖い笑顔で言っていたスペインだ。
どんな行動に出るのか、考えるだに恐ろしい。
そんな事を考えていたのが悪かったのだろうか…。
いきなり鳴る携帯。
発信元を見ると、やはりスペインだ。
ああ…お兄さんピンチです。
日本…お兄さんも春コミ参加したかったよ?
でもその頃には天国かもしれない。
「ちょっと…仕事の電話。ごめんね。席はずすね」
フランスは声の震えを根性で抑えて、まだクッションを抱えたままグスグスと鼻をすすっているイギリスをリビングに残して、重い足を引きずるように廊下へと出たのだった。
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