ローズ・プリンス・オペラ・スクール第三章_1

2つの宝玉


キラキラと強い光を放つ月の石と、ほわほわと柔らかい光を放つ緑の石。

「これ…どうなってんだよ…」
ギルベルトの声は驚きと焦りで掠れている。

一方
「月の石が光っとるんやから、この子は親分の対やでっ!」
と、アントーニョの方は緑の石の光は無視する事にしたようだ。
アーサーを抱え込んで月の宝玉へと手を伸ばす。

「ちょ、待ったっ!緑の石だって光ってるじゃねえかっ!」

「どうみたってこっちの方がようけ光っとるやん。
この子は親分の対やで?諦めたって?」

「…ざけんなよっ!光り方の方向性の違いだろうがっ!
それ言うならこっちの光り方の方がアーサーのイメージにあってんぞっ!!」

と、ギルベルトもアントーニョが抱え込むアーサーの肩に手をかけた。



――まじか…これ…。

争う悪友二人にフランシスはため息をつく。
助けを求めるように立ち会い人に視線を送るが、彼はそこでようやくハッとしたようだ。

「とりあえず…理事長を呼んで参ります。」
と、言い残したまま出て行ってしまう。

残されたのは喧々囂々と言い争う悪友二人と、その間で呆然と立ちすくむ少年。
フト気づくと顔が真っ青だ。

「ちょ、二人共いい加減に……」
と、フランシスが駆け寄った瞬間、フラリと気を失って倒れた。

「「アー(サ)ティー?!」」

二人が弾かれたように同時にその身体を支えようとして、手がぶつかって睨み合う中、ヒョイッとフランシスが二人の手の隙間から崩れ落ちかける身体を支えて抱き上げた。

「お前らいい加減にしなさいね?!
それでなくても適応者二人に囲まれて緊張してるであろう子を前に何してんのっ?!」

普段穏やかなフランシスの苦言に、ギルベルトは、わりい…と、項垂れた。

しかしアントーニョの方は相変わらず
「…というわけで、アーティ返したって!」
と、手を伸ばしてくるので、手がふさがっているフランシスの代わりにギルベルトがペチコーンと後頭部を叩いた。

「トーニョ…お前お兄さんの話聞いてた?」

フランシスの言葉にアントーニョは納得出来ないという表情で主張する。

「やって、その子は親分の対やでっ!」
「まだわかんないでしょ?」
「わかるわっ。月の石光っとるし。」
「…緑の石もね。」
「せやから、こっちの方が強く光っとるやん!」
「光り方の違いはあっても、両方光っている以上両方の可能性があるよ」
「返したってやっ!」
「だぁめ」

きっぱりとフランシスがそう言い切った瞬間、アントーニョの目がスイっと細くなった。


「…ほなら…ええわ。」

――親分…敵には容赦せえへんで?
プツっと何かアントーニョの中の押してはいけないスイッチが作動してしまったらしい。
ぼわっ!!といきなり右手の中指にハマった太陽の宝玉のリングが燃え上がった。


「ちょ、おま、何する気っ!!」
焦るフランシスにギルベルトが動く。

その手のリングは透明な青い鞭に形を変え、赤い大斧を構えるアントーニョの右手首を抑えるように絡まった。

「うざいわっ!!!」
一瞬それで拘束出来たかとホッとするも、アントーニョは左手でその鞭をガシっとつかんでギルベルトごと振り回し、ギルベルトはそのまま壁に叩きつけられる。

――やべえ…単純な力勝負じゃこいつには敵わねえ…

ウェイト差がある以上、近づいたら圧倒的に不利になるのは否めないのだが、室内だけに距離を取ることができない。

「ほな、死んどき。」
ゆらりと炎を背負ったアントーニョがフランシスに迫って、その大斧が頭をめがけて振り下ろされる。

――うあぁああ!!!!
少年を抱えたまま逃げる事も避ける事もできずに思わず目をつぶるフランシスだが、その大斧はガキン!と金属音をたてて、すんでのところで止まった。

「ギルちゃん…ありがと……」

指輪を今度は青白い盾に変えて大斧を受け止めるギルベルト。
このあたりの石の形態をコロコロ変えられる器用さはギルベルトならではだ。
伊達に戦闘系の授業を総ざらいしてはいない。

しかし単純なパワーの差は歴然だ
両手で受け止めてもなおジリジリと力負けしていくのがわかる。

「フランっ!良いから逃げろっ!!!」
全身に汗をびっしょりかきながらそう叫ぶギルベルトにフランシスはウンウンうなづくが、大斧を受け止める盾の下から出ようとした瞬間、ドスン!!!と、フランシスの顔ギリギリに何かが振り下ろされて硬直する。

身をすくめておそるおそる下を見ると、おそらく振り下ろしたのであろうアントーニョの足が大理石の床をかちわっていた…。


――…自分…逃げられると思っとるん?
静かにそう言って見下ろしてくる笑顔がこの世のものとは思えないほど怖い…。
ちょっとしたリアルホラーだ…。



そうこうしているうちにもジリジリと大斧に押されて下がってくる盾。

ギルベルトを完全に圧倒するような力で押しながら、逃げようとするフランシスの動きを察知し、足で威嚇するなど人間技じゃない。

攻撃ならば他を圧倒する太陽の力に風の力が徐々に薄れ始めて盾に小さな亀裂が入る。

――うあああぁああ~~!!!
ピキっと音がして赤い刃がフランシスをかばうギルベルトの額に迫る。
チリっと炎で前髪が焦げる匂いに、ギルベルトは死を覚悟した…………

………

………

しかしそこで大きな人影。

ドガラガッシャ~ン!!!
かつて太陽、風、夢、鋼の宝玉を飾ってあったケースを巻き込んで、アントーニョが壁に吹き飛ばされた。



――喧嘩してえなら石使わず素手でやれ、ガキどもっ!
野太い怒声にギルベルトがおそるおそる目を開けると、そこには自分はもちろん、アントーニョより体格の良い褐色の肌の大男。

「理事長……早く来てよ……」

は~っと安堵の息をつくフランシスに、ギルベルトも力が抜けてへなへなとその場にへたり込んだ。







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