ローズ・プリンス・オペラ・スクール第二章_1

 太陽のテリトリー


…てぃ……きや……起き…や……

フカフカと身体を包み込む心地良いフトン。
そんな快適な環境で眠っているせいか、夢見も最高だ。
今日はこの1年間くらいずっと憧れていたスターの部屋に来た夢を見た。


最初に見た舞台は主役は別の…確か夢の石の適応者の先輩だった気がする。

アーサーは中等部も最終学年である3年になったばかりの頃、来年の参考にとこっそり一人で有名な歌劇団であるロープリの先輩達の舞台を観に行った。

演目は魔王に眠らされたお姫様の呪いを解くために親友の貴族二人と魔王の元へ王子が向かうといったような、お定まりの冒険ラブロマンスのようなものだったと思う。

正直…そんなストーリーも頭には入って来なかったし、荘厳な舞台装置も美麗な王子も可憐な姫君も目に入らなかった。

アーサーの目を引いたのはただ一人…王子の親友の貴族の当主。

舞台も王子も姫ももう一人の親友も…みんなどこか白い中で、一際目立っていた黒い髪と褐色の肌。
朗々とよく通る声で、舞台の上でよく歌いよく笑う。

プログラムでキャストを確認してみて、その青年が今回の主役と肩を並べる太陽の石の適応者、アントーニョ・ヘルナンデス・カリエドだと知った。

陰気な自分の性格に日々嫌気がさしていたアーサーにとって、それはまさに自分と正反対の、自分が好ましいと思う人物像そのままで、なんだか泣きたいほど慕わしいと思った。

それからはロープリの舞台がある時は万難を排してチケットを取り、劇場に足を運んで観客席からずっと“彼”が歌い踊る様子を見つめていた。

高等部に入ればもっと近くでアントーニョを見られる機会があるかもしれない…。
それはアーサーのささやかにして精一杯の幸せな想像だった。

まあ実際には一般の一年坊主の前に大スターである宝玉の適応者が早々姿を見せることもないだろう。

寮ですら彼らは個別に別棟を与えられていてスケジュールも一般生徒とは違うらしい。
だからたぶん同学年ですら舞台にあがれる一部の幸運な生徒達以外はそれほど姿を見かける事もないのが現実だと思う。

ああ…それでも偶然でも一度でもいいから、薄ぼやけた緑の自分の瞳とは似て異なるあの綺麗な深いエメラルドの瞳に自分の姿を映してもらえたら……

そんな事を考えすぎてたせいだろうか…こんな幸せすぎる夢を見たのは……。



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