そしてアーサー達が店に着いた音にアントーニョは少しだけ身をずらして入口方面にチラリと目を向けた。
そこにはアーサーとアーサーより頭半分ほど背が高いやせぎすの男。
このクソ暑いのにシャツの上にきっちりサマージャケットを着込んでいる。
容姿は中背中肉。まあ普通よりは整った顔はしているが、やや神経質そうに見える。
もっともアントーニョが最初から相手に対してマイナスの印象を持っているからそう思うのかもしれないが…。
座った席を確認するとアントーニョは前を向き直り、ここでもやはり好きでもないのに注文してしまったフライドポテトを齧りながら、二人の会話に集中した。
どうやら注文が決まったらしくさっさと店員を呼ぶ兄。
しかしながらまだアーサーは決まってないらしく、あたふたとメニューを見て注文したものは、どうやらとりあえず目に付いたものっぽい。
どう考えても焦って注文したそれは、アントーニョが知るアーサーの好みとはかけ離れたこってりボリュームのある料理である。
このあたりですでにアントーニョの苛々は限界だ。
自分の方が気になって会って欲しいと言って会っているのに、相手を気遣えないで自分のペースでさっさと店員を呼んでどうするっ。
ぐしゃっとつまんだポテトが見事に潰れてぺちゃんこになった。
ポテトをこよなく愛する男ギルベルトがこの場にいたらとつとつと説教をされそうだ。
それでもなんとか注文が終わると、当たり前にドリンクバーに自分の分だけ先に取りに行く兄。
――荷物みとくね。
と、そこで声をかけるアーサーに返事もしない。
ああ、腹が立つ。
新たにつまんだポテトがまたぐしゃり。
自分が飲み物を取って戻ってきたら、アーサーにも取りに行くよう勧める事もなく、いきなり話を始めたあたりで、アントーニョは血管が切れそうになった。
しかもその内容がやはり森陽の特待生に推薦したアントーニョとの出会いや関係についてばかり。
アーサーの現在の生活を心配する様子など見事に皆無だ。
それでも今まで顧みられる事のなかったアーサーは兄が自分の事を気にかけてくれていると思って嬉しいのか、素直に聞かれるままを語っている。
ああ…もう、アーティ可愛えけど…そいつはろくでなしやって気付けやっ。
と、アントーニョは歯噛みをした。
こうしてどうやら聞きだしたい事を全部聞きだした後、異母兄とやらはなんと自分が食事を終えると早々にアーサーを残して席を立つ。
それを少し寂しげに見送って、元々慌てて頼んだため、あまり好きではない系の料理に目を落とし、アーサーが小さくため息をついた時点で、アントーニョは立ちあがって回り道をしながらレジへ。
会計をすましていったん外に出ると、近くのコンビニのゴミ箱にウィッグを放り捨て、ジャケットは脱いで手に持ち、サングラスも燃えないゴミのゴミ箱に放り込む。
そうしておいて、再度ファミレスのドアをくぐった。
「お一人様ですか?」
というウェイトレスにうなづいて、禁煙席を希望し、さりげなく移動中にアーサーに目を止める。
「あ、アーティ、お兄さんと一緒なん?」
と声をかけると、どこか居心地悪そうに座っていたアーサーがあからさまにホッとした顔をした。
「いや…このあと用事があるからって帰ったとこで…」
「そか。ほな、親分一緒してええ?あのあとちょっと所用すませて、途中までってことで、このあたりまで送ってもろうてん。」
と言うと、アーサーはもちろんと微笑む。
こんなところに人慣れないこの子を置き去りにした事は万死に値するとは思うが、それはあくまで心の中だけで。
アントーニョは素早くメニューに目を通すと、2,3注文し、ウェイトレスが立ち去ると、
「ちょっと待っててな。」
と、立ちあがってドリンクバーへ。
もちろん自分の分と注文したくせに立つに立てずにいたアーサーの分も注いでくる。
「暑いなぁ。アイスティでええ?」
と、一応アイスティとアイスコーヒーのグラスを掲げると、アーサーがこっくりとうなずいたので、アイスティをアーサーの前に。
ずいぶんと心細い思いをしたのだろう。
少し泣きそうな顔をするアーサーに気づいてはいたものの、あえて指摘をせずに、アントーニョはちょっと買いたい物があって大伯父の秘書に車を出してもらったのだと、嘘の話題を口にする。
「でな、どうしてもそこの品が欲しかってん。
ついでやから~って送ってもらって急いで買って郵送してもろうて、寮まで送ってもらおうと思うたんやけど、向こうに急な仕事入ったとかで、ここでええわ~って降ろしてもろうて、気づいたんや。今日、親分まだ飯食うとらんなぁって。
どうりで腹減ったと思ったわ~って、とりあえず目についたファミレスに入ったらアーティいてびっくりしたわ~。でも嬉しい偶然やわ。」
そんなどうでも良い作り話をしながらさりげなくアーサーが落ち着くのを待つ。
ついでに
「な、親分お腹ぺこぺこやねん。
食わんならそれちょっともろうてええ?
代わりに親分注文したもん食べてええから。」
と言うと、アーサーが
「でも…冷めちゃってるけど…」
と、少し躊躇する。
しかし
「とりあえずお腹満たせればええねん」
とさらに言うと、
「ん。じゃあどうぞ。」
と、セットのサラダ以外全く手のつけられていないセットのメインの皿を寄越した。
メニューの最初にガン!と宣伝されているこってりとボリュームのあるそれは、量的にも味的にもアーサーが食べきれそうにない。
おそらく異母兄が行ってしまってからも席を立たなかったのは、注文しておいて全く手をつけないで出ると言う事がアーサーには出来なかったからなのだろう。
「…実は…すごく緊張してて頼んだのは良いんだけど、食べきれそうにないしどうしようかと思ってたんだ。」
と、泣きそうに笑って言うアーサーの様子に、さぞや心細くも居心地が悪かったのだろうと、憐憫と愛おしさがあふれてくる。
その後、アントーニョが注文した料理が来たので、ウェイトレスに取り皿をもらって
「少し手伝ったって?さすがに全部は食べきれんわ。」
と、取り皿にとってやってをさしだせば、腹が全く減ってないわけではなかったのだろう、それを受け取ってちびちび食べだす。
もちろん、注文したのはアーサーが好きそうなメニューだということは言うまでもない。
結局何回かおかわりという形で取り分けてやれば、取り分けてやった分を食べきって、ほぼ交換という感じだ。
まあ、そのために注文したわけだが。
「ほんとは…少しだけ心細かったんだ。こういう店ほとんど来た事なかったし。
…トーニョが来てくれて良かった。」
小さな小さな声で少し泣きそうな声で言うアーサーに、堪らない気分になる。
さすがにここで抱きしめたら嫌がられるだろうが、マンションに帰って二人きりになったら思い切り甘やかそうと、アントーニョは心に決めた。
こうして食べ終わる頃にはすっかりリラックスした様子のアーサーと一緒にファミレスを出ると、そのままいつものようにマーケットで買い物をして一緒にアーサーのマンションに帰り、お菓子をいっぱい作ってやる。
それを幸せそうに頬張るアーサーの可愛い姿を満喫しながら、今後の事、ゲーム内の事などを話しつつ、夕方になると夕食の準備。
夕食を一緒に摂って、名残惜しいが7時にはゲームのアクセス時間の8時に間に合うようにマンションを出た。
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