アントーニョの可愛い可愛いアーサーはやっぱり可愛かった。
その日は朝から荷造りの手伝いと称してマンションへと押しかけたのだが、そこで前日は早々に買い物に出てしまって気付かなかったあまりに可愛らしいアーサーの趣味を知る。
寝室のベッドに鎮座するクマのぬいぐるみ…。
なんと羨ましい事に毎日抱きしめて一緒に眠っていると、今まさにそれを抱きしめながら恥ずかしそうにクマの頭に顔を埋めるアーサー。
おい、クマ、そこ場所代われっ!!たかだかぬいぐるみの分際で生意気やっ!!!
…と叫ばなかった自分を褒めて欲しいとアントーニョは思う。
ぬいぐるみにすら嫉妬するなど我ながらみっともないと思うが仕方ない。
可愛すぎるアーサーが悪い。
せめて今度は自分がクマを選んで買って贈ろうと心密かに野望を抱いて、怒りを飲み込む
その他にも寝室にはアーサーの自作だという刺繍やパッチワークのタペストリの数々。
さらにベッドわきのサイドテーブルに飾られた昨日贈った花が刺してある花びん。
その下のレースの花びん敷きもなんと自作だと言うのにはびっくりだ。
もうなんやろ…今時女子でもこんな可愛い趣味の子おれへんわ…と、ため息が出る。
森陽に転校させるのは良いが、気をつけてガードしていないと、これだけ可愛い容姿に可愛い性格をしていたら、男子校だけに襲われそうだ。
もちろん、寮内は当然として、学校が始まっても中等部に足しげく通って他を蹴散らす気は満々だが…。
「でも…荷造りするのはいいんだけど、まだ決まったわけじゃないだろ?」
自室の時はギルベルトに任せたまま指一本動かさずにいたアントーニョがちゃっちゃと手際よく持参した段ボールに荷物を詰めていくのを手伝いながら、アーサーがおそるおそると言った風に言うが、もう手は打ってある。
「あれから親分の身の回りの諸々の面倒みてくれとる大伯父の秘書に頼んで、もうアーティの親御さんには転校の許可取ってあるんや。
で、学校側にももう転入させたい旨は言うてあるから、転入試験の日程が決まればあとは引っ越すだけや。
家具はどうする?ここの家具の何かに思い入れがあれば持ってもいけるけど、一応備え付けのがあるで?」
「あ…特にこだわりはないけど…ティディ以外。」
「そうか。じゃあ、必需品だけ運びこんどこな。
明日にでも運送の手配しとくわ。」
「え?ええ?明日?もう?」
「もう、やで~。アーティの成績やったら試験に落ちる事まずあらへんし。
ほんまはもう少しでも1人にしとくの心配やし、今日連れて帰りたいくらいや。」
流されやすい性格のようなので、考える時間を与えなければ勝てる!
押して押して押しまくれとばかりに話を進めるアントーニョ。
昼になり、なんと毎日レンジでチンするプレートのバリエーションで食事だというアーサーのため、近所のマーケットで食材を揃えて簡単な物を作ってやると、驚いたようにまんまるの目をさらに丸くして、ほわぁ~とした顔で頬張っているアーサーに、さらに餌づけもしようと、心に決める。
手段などかまうものかとばかりに、寮の私室にもキッチンがついていて、食堂もあるが自炊も出来て、美味しい食事やおやつをたくさん作ってやれる事なども強調しておく。
元々色々…特に人間関係に恵まれていなかったのだろう。
ちょっとした、アントーニョの周りからすると当たり前のレベルの事でも、いちいち感動してみたり、下手をすると涙ぐんでしまったりするのが、痛々しくも可愛い。
――他にはあんま会わせたないな…
と、ふつりと思う。
そう、自分に対してだけけなげなまでに視線を向けていればいいし、自分の事だけ信頼していればいい。
そうすれば際限なく優しくドロドロに甘やかして、全身全霊をかけて守ってやるのに…。
「ギルちゃんはちょおキツイとこあるし、フランは老若男女に手ぇ出す変態やから、他の人間よりはええ奴らやし、万が一親分が何かあって側におれへん非常時には助けてもろうたらええけど、寮に来たら気いつけてな?
まあ親分の側におったら守ったるから、出来る限り側におり。」
と、それとなく他とも離しておくことも忘れずに。
そこで少し心細げに揺れるペリドットのような瞳に微笑みかけて
「親分は絶対にアーティに悪い事せえへんからな。
寮内ではそれなりに権限あるし、中等部にも多少のコネはあるさかい、心配せんでもええよ。」
と、頭を撫でてやれば、コクンとうなづいて、少し安心したように笑みを浮かべた。
こうしてその日は夕食も一緒に早めに食べ、8時に間に合うぎりぎりに急いで寮に戻る。
アーサーのマンションで二人してフリーメールのメルアドを取ったので、インしてすぐにそのメルアドをメグの所に送った。
そして4人でレベルあげには出かけずに締め切りの21時を待つ。
30分後…メグからまたメッセージが送られてきた。
それを開くと、9人分の名前とジョブとレベルとメルアドのリストと共にメグからの結果報告。
『こんばんは。今回は私の提案に賛同して頂いてありがとうございます。
8人の皆さんが送って下さったので、私のを合わせて9人分のメルアドを送らせてもらいます。
一応21時を待って返答の無かったショウさん、ヨイチさんに声をかけてみたのですが、ショウさんは今回の事で怖くなったのでゲーム自体をやめるから参加しないとの事でヨイチさんは全く無反応なので、参加の意志なしと考えさせてもらうことにしました。
一応間違いないとは思うのですが、各自ご自身のメルアドを確認の上、間違いがありましたらメグまでまたメッセージをお願いします。』
とりあえずメグのメッセージに目を通して、4人でそれぞれ自分のメルアドを確認した。
アントーニョ達4人に関しては確かに全員のメルアドが正しく記載されてるので、ひとまずOKだ。
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