オンラインゲーム殺人事件あなざーその2・魔王探偵の事件簿_1

メグのメッセージ(9~10日目)


アーサーのマンションを出ると、アントーニョは即タクシーを使った。
そして電話。

「もしもし、ああ、俺や。
例のな、特待生制度使いたいんや。
本人には了承取ったさかい、親と学校に連絡して、手配したって。
大急ぎやで。
相手の親の連絡先はこれからメールで送るわ。」

世界中を飛び回っている大伯父の代わりに色々雑務をやってくれている大伯父の秘書の1人にそう伝えると、アーサーに聞いたアーサーの父親の連絡先をメールで送る。
これで必要な事は全て調べて手続きを整えてくれるだろう。

おそらく1週間くらいで書類が整い、その2,3日後に試験。
10日後くらいには一緒に暮らせるだろうか…。

特待生制度を使う…つまり、誰かと暮らすという事など今まで全く考えていなかったので、余分に与えられた私室はほぼ物置きになっていたが、そこに放置してあるものは大抵はすぐは使わないようなものなので、別宅へ送ってしまおうと思う。

帰ったらギルベルトに荷造りを頼まなければ……。
と、当然のように自分でやる気のないアントーニョはそんな事を考えつつ寮に戻った。



「ギルちゃん、荷物整理しといてや。」
と、寮に戻るなりギルベルトの部屋に駆け込んでそう告げるアントーニョに、ギルベルトはポカンと口を開けて固まっている。

「へ?荷物整理?なんの?旅行でも行くのか?」

普段は察しの良いギルベルトでも、さすがにこれだけでは何を言われているのかわからない。
わかるわけがない。

だがそんな事はお構いなしに、アントーニョはその腕を強引に掴んで自分の私室まで引きずっていく。
そして言う。

「親分、特待生入れる事にしてん。
せやから、ここの荷物荷造りして親分ちまで送ったって。」
「はあ??」

あまりに唐突な申し出にギルベルトはぽか~んだ。
それでも手だけはきちんと動いて、荷造りをしてやっているのはギルベルトのギルベルトたる所以だが…。

そして当のアントーニョ自身は、自分は手を動かす事はなく、面倒だからと積み重ねておいた去年の高校1年の時の教科書の上に腰をかけている。

そして
「おい、他人の俺様にやらせておいて、お前は?」
と、呆れて言うギルベルトににやりと
「ギルちゃんの方が手際良うやるやん?親分得意やないからかえって邪魔してまうし。」
と、涼しい顔だ。
それにももう慣れきっていて、ギルベルトは肩を落として作業を続けた。

「で?特待生って、今日でかけたのと関係あんのか?」

紙の整理ボックスに同じくらいの大きさごとに本を綺麗に仕分けしたものを部屋に放置してあった段ボールの中にきちんきちんと詰め込みながら聞くギルベルトに、

「おん。今日な、アーティん家行ったんやけどな、中3で1人暮らしなんて危ないやん?
せやから親分がここで面倒みたろうかなと思うてん。」

と、そう続けられる言葉。
それに、それまでは黙々と動かしていたギルベルトの手がわずかな時間ぴたりと止まる。

「ギルちゃん?手ぇとまっとるで?」
ギルベルトの驚きなど当然わかっているくせに、にやにやと指摘するアントーニョの言葉に、またギルベルトは手を動かし始めた。
そこでアントーニョは疑問に答える。

「せやで?うちのプリーストのお姫さんや。
あの子な、可愛えだけやなくて頭もめっちゃええんやで。
なんと成績オール5やった。」
「お前、今日アーサーに会いに行ったのかよっ!!!」
と、そこで初めてギルベルトの手が完全に止まった。

「おん。殺人事件とかあったあとやし、1人暮らし言うとったから、心細いやろなと思うて様子見にいってんけどな。
なんや危なっかしゅうて放っておけへんし、うちの寮やったら安心やん。」

「そうだよなっ!ああ、それが良いっ!
…でもお前いつのまにアーサーとそんな親しくなったんだよ?」

真剣に年下の友人としてアーサーの事を心配していたギルベルトとしては喜ばしい事ではあるのだが、つい昨日あたりまでは確かに非常に打算的な目でアーサーを見ていると思っていたアントーニョがいきなり態度を翻した事が信じられない。

いや、気持ち的についていけないだけで、誰しもと仲がよさそうに見えて実は完全に気を抜くレベルだと非常にパーソナルスペースが広いアントーニョが自室で一緒に暮らすという時点で、心を許しているのは確かなんだが…。

「ん~、元々やで?ずっと守ってやらなって言うとるやん。」
「いやいや、お前最初は打算バリバリな発言してた気がすっけど……」
と言った瞬間、何かがスッと飛んできた気配に思わず避けると、避けた先にあった木の箱がバラバラに砕けた。

「…言うてたやんな?守ってやらなって」
目が笑ってない笑顔…。
ギルベルトは本来白黒はハッキリ付けたい性格ではあるが、これに関してはアーサーを巻き込みかねない事なので、Noと言いたい気持ちをごくりと飲み込む。
そしてその代わりに言う。

「ま、いいか。
とりあえずまだ中坊だしな。そばで守ってやるってのには賛成だ。
手続きは?何か手伝うか?」
「いや、親元と学校への連絡とか手続き関係は全部おっちゃんとこの秘書に頼んどいたから。とりあえずこの部屋を空けたいねん。」
「おっけぃ。明日、明後日中くらいには完全に空くようにすっから、勝手に入っていいよな?」
「おん。頼むわ。とりあえずもうすぐ8時やからインせな。」
「だな。」
と、そこでギルベルトも片付けをいったん切りあげて、寮長室へと向かった。



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