ファントム殺人事件 終幕_3

名探偵、闇に紛れし真実を照らす


部屋につくなりギルベルトはそれぞれ問題の日と同じ位置につくように指示をすると、会長のデスクを開けて参加者名簿を取り出すと、それをデスクの上に置いた。
それからギルベルトは黒河の遺書をPCに一旦落とすと、そのまま人数分印刷した。

そのうち、ローデリヒ、フラン、そして最後に松永が入ってくる。

「ピアノのレッスンを中断してきたんですからねっ。ちゃんと解決するんですよ?このお馬鹿さんっ」
と相変わらずのローデリヒ。
「今黒河先生がそこで自殺したって警察が言ってたが…やっぱり先生が犯人なのか?」
とフラン。
「…ったく…俺はこの中では一番多忙な身なんだぞ。一応サッカー部のOBとしての責任もあるから来てやったんだ!ちゃっちゃとすませろ、サディク!」
と松永もイライラした口調で言った。

全員集まった所でサディクはチラリとギルベルトに合図を送り、ギルベルトはそれにうなづいてまずフランに黒河の遺書を配らせた。

「今回は当校内で起こった事というのもありますので、俺がサディクさんから説明等の役割を一任されてますので、よろしくお願いします。」
ギルベルトはその間にそう言って頭を下げる。

それから全員に遺書を印刷した紙が行き渡ったのを確認すると、
「まず、お配りした用紙に目を通して下さい。」
と全員にうながす。

「これ…おかしくないですか?」
まずローデリヒが口を開いた。

しかしその後の言葉を続ける前に松永がそれにかぶせる。
「どこがだ?!結局黒河先生の老いらくの恋ってやつだろ?
まさにオペラ座の怪人じゃないか。
若い綺麗な奴に惚れた当然相手にはされないであろう男。醜男かジジイかってだけの違いで。
ま、あのジイさん観劇とか好きだったからな。年甲斐もなくロマンに浸ってみたんだろ。」

「先生になんて言い方をっ!!」
その松永の馬鹿にした言い方に、いつも目上には礼を尽くすローデリヒが激昂した。

「ホントの事だろうがっ!先生とか言ってるが結局実は単に現役高校生に血迷って人殺したただのジジイじゃないかっ!」
松永はそんなローデリヒにさらに小馬鹿にしたような笑いを浮かべる。

「二人とも止めろっ!」
ギルベルトはそんな二人の間に入って、二人を引き離した。

「とりあえず…感情的になるのは自体を混乱させるだけだ。
今説明するから俺の説明を聞け。」
とローデリヒに言い、松永にも
「とりあえず不必要にあおるのは止めて下さい。そもそも…本当に黒河先生が犯人だと思いますか?」
と静かに聞く。

「他にないだろっ。」
松永はそのギルベルトの言葉に思い切りうなづいた。
「ようはあれだろっ。生徒会のミスコンの候補者を優勝させるために、そいつに惚れこんだ黒河がライバル消しにかかったってだけだろ。」
その松永の言葉に彼以外の周りがお互い顔を見合わせてざわついた。


「確かに…黒河先生がうち(生徒会)の候補者に惚れ込んだのは確かだと思う。」
ギルベルトはそんなざわめきの中話始めた。

「あの日…丁度こんな感じで今のメンバーが揃ってて、アーサーは最初、入り口脇でサディクさんの相手をしていました。アーサー、サディクさんこちらへ」
と、ギルベルトはアーサーとサディクを入り口の側に促す。

「そして松永さんは確か生徒会長のデスクの上の参加者名簿を見てましたよね?
その後アーサーの横に…ということで入り口脇に同じく立って下さい。
トーニョも同じ」
と、それぞれの立ち位置を指示すると、会長のデスクから紙を手にとった。

「当日…ローデは去年負けた事でOBが怒っているため今年は絶対に優勝をということで、アーサーに出場者申し込み用紙にサインをさせたんです。それは最終的にはここ、会長デスクの上に見える形で置いてありました」
と、ギルベルトは再度それを生徒会長のデスクに戻す。

「アーサーはOBの皆さんへの対応でちょっと緊張してて周りに目がいかない状態でそれ放置したままだったんで、このアーサーが生徒会の候補者という情報がこの用紙が目に入る位置にいたOBの皆さんにはインプットされた可能性があります。」

「ちょっと待て!お前の言ってる事がよくわからん」
そこで松永が話をさえぎるが、ギルベルトはそれに対して
「おそらく松永さんが疑問に思っていらっしゃる点については、今後の説明で納得して頂けると思いますので、しばらく静聴のほど、お願いします。」
と返して続けた。

「ここで松永さんはそのことについて『今年はやっぱりカークランドが出るのか』とおっしゃってたので、確実にそう認識。サディクさんもアーサーと雑談してたにしてもこの距離なので、その言葉が耳に入っている可能性があります。

で、その後、黒河先生が登場。入り口あたりでアーサーと挨拶を交わした後、ローデの席へ。
なので、先生は直接的には見てないわけですが、部屋に入る前に会話を聞いていた可能性が0ではありませんので、その判断は保留ということで。

で、その後皆さんお忙しい事もあって、帰路につかれます。
ということで、少し離れて頂けますか?」

とのギルベルトの言葉に松永はめんどくさそうに少し離れて机の上に腰をかけた。

「こうしてOB3人がそれぞれ生徒会の候補者が=アーサー・カークランドだという認識を持って帰宅した可能性が生じます。」

「ちょっと待て、それどういう意味があるんだ?」
机の上で腕組みをして聞いていた松永が眉をひそめると、ギルベルトはデスクの上からもう一度用紙を手に取ると、皆に見えるようにかざした。


「…!!!???」
目をむいてピョンと机から飛び降りる松永。

「皆さんが帰られたあと、ロヴィーノがアーサーに代わってミスコンに出ることを申し出て、生徒会からの参加者はその時点でアーサー・カークランドからロヴィーノ・ヴァルガスに代わってるんです。
ということで、これ以後はアーサーが出場者だったと知る機会はなくなるので、今回の犯人はアーサーが生徒会からの出場者という認識を持つ事のできた当日の来訪者にしぼられるということで、皆さんにこちらに来て頂いた訳です」

「ちょっと待てよっ。犯人はだから黒河だったんだろ?!この遺書にもそう書いてあるじゃないか」
松永はヒラヒラと黒河の遺書のコピーを振った。
その様子にギルベルトは小さく息を吐き出した。

「先生は確かに”ファントム”です。でも殺人を犯したのは別人ですよ。
それをこれから立証しますので、繰り返しますが静聴をお願いします」

ギルベルトの言葉にサディクがギロっと一同をにらみつけると、渋々全員が口をつぐむ。
「続けます。」
ギルベルトは言って先を続けた。

「その日、黒河先生はアーサーの後を尾けて、自宅を確定したんだと思います。
そこからは松永さんがさきほどおっしゃった通り。
現役高校生であるアーサー。年齢的に釣り合う恋人もいるとなると、叶う恋ではない。
立場上の事もあるし、尾行と言う手段で自宅を割り出した以上、通常の手段で思いを告げる事もできない。

それでも何か伝えたかったんでしょう。
先生は観劇が趣味な事もあって、その時の自分をオペラ座の怪人の”ファントム”になぞらえて、叶わないとわかっていても伝えたい気持ちがある事を表現しようとした。

先生がやった非合法な事といえばその程度の事で、まあ…とがめられるほどの事でもないと思います」

「ちょっと待った…。ヴァイルシュミット、それじゃあ…」
驚くサディクにギルベルトはうなづいて
「はい。ここからはクリスティーヌに恋をした”ファントム”ではなくて、”ファントム”の正体を知った普通の人間が彼を騙って行った、ロマンも何もないただの犯罪です。」
と、言いきった。

「ここで終わればただの切なくも悲しいロマンティストな男の恋物語で済んだんですが、問題は…その先生の様子をコッソリつけて全て見ていた人間がいたということです。
その人物は先生が花をこっそりアーサーの自宅に置いたあと、さらにこっそりその花に近づいてカード等を確認。
それで先生の名乗った”ファントム”の名を利用して、自分が殺害したい相手を殺害しようと考えました。

脅迫状はその人物…”偽ファントム”が送りつけたもので、サッカー部の候補者を殺害したのもその”偽ファントム”です。」

「誰がその”偽ファントム”なんですっ?!先生を殺したのもそいつなんですねっ?!」
憤るローデリヒを制して
「落ち着け、ローデ。これからそれを説明すっから。」
と、ギルベルトはとりあえず興奮状態のローデリヒを椅子に座らせた。


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