ファントム殺人事件 第二幕_4

名探偵は主役を争う俳優達に一言モノ申す


「お前ら…いい加減にしねえと俺が掻っ攫うぞ?」

夕方…まだまだ残って作業中の生徒は多いのでアーサーとローデリヒ、それにフランをその対応にと残して、ギルベルトは半ば強引にアントーニョとロヴィーノを屋上に呼び出した。

「なんや、ギルちゃん張り倒されたいん?」

その言葉にいち早く反応したのはアントーニョで、それは必ずしも冗談のような口調ではなく、本気がチラホラと見え隠れしていた。

普段ならそこで引くギルベルトだが、今回は違った。

「おう!ガチでやったらお互い無事じゃすまねえかもしれねえけどなっ。
このままアーサー泣かしとくくらいならやってみる価値はあるな。
俺が黙って身を引いたのはアーサーがお前の事好きで、お前もあいつを裏切る事はねえって思ってたからだ。
みすみす不幸にすんなら身体張ってでも奪ってみせるぜ?」

そう言ってボキっと指を鳴らして臨戦態勢に入るギルベルトをスルーで、アントーニョは慌てて叫んだ。

「なんやそれ?!親分あーちゃんの事裏切ったりしてへんで?!浮気なんてしてへんし、する気も全然ないし、そもそも、おはようからおやすみまで一緒なんやからする暇なんてないやん!!」

「へ?おはようからおやすみまでって……」

アントーニョの言葉に今度はロヴィーノが目を丸くする。

「あ~知らなかったのか…」
ギルベルトはポリポリと頭を掻いた。

「どういうことだ?」
「トーニョとアーサーは一緒に暮らしてんだよ。去年の夏から半同棲状態だったんだけど、今年の春にアーサーの兄貴に挨拶行って公認になってからは完全にずっと一緒に住んでる」

「それって……」

「もちろん恋人同士やで」
と、ロヴィーノの言葉を遮って、アントーニョが宣言した。

「ま…じ…?」
大きく目を見開くロヴィーノ。

「残念ながら…な。でもって、昨日の昼のトーニョの行動、アーサーはいたく傷ついてるぞ。やっぱり料理上手い年下の幼馴染の方がいいんだろうなってな」

小さく息をついてそう告げるギルベルトの言葉に

「まじかぁ~!!!あかんやんっ!!ギルちゃん張り倒してる場合やあらへんやんっ!!あーちゃんとこ行ってくるわっ!!」
頭を抱えてそう絶叫すると、アントーニョは疾風のごとく駆けて行った。

それを呆然と見送ったあと、ロヴィーノはまだ信じられないような顔でギルベルトを振り返る。


「今の…ほんとか?トーニョのために言ってるとかじゃなくて?」
そう言うロヴィーノがギルベルトに向ける目は、アントーニョのともアーサーのとも違う色合いだが、まだ若干幼さの抜けない大きな緑の瞳は少しアーサーを思わせて、若干心が痛んだ。

しかしここで耳に優しい嘘を言っても仕方がない。

「ああ、そうだ。去年の夏休みに巻き込まれた事件のさなかに会って、たぶんお互い一目惚れに近くて…すぐ半同棲状態になったみてえだな。俺が二人の関係に気づいた時にはもう毎日どちらかがどちらかの家に泊まる状態だったし…」

「なんだよ…夏休みかよっ…」
ポロっと涙をこぼしてロヴィーノは自嘲気味に笑った。

「俺アーサー好きになったの去年の6月だぜ?すぐ告れば良かったのかよ…」
グイっと服の袖で涙を拭くが、涙はまた途切れる事無く溢れてくる。

「早川にびびって遠慮してる場合じゃなかったんだな。馬鹿じゃん俺…」
これだからヘタレは…と、ロヴィーノは笑みを消して吐き捨てるようにつぶやいた。

「まあ…俺も同類だから気持ちはわかるけどな…」
ギルベルトはその場に腰を下ろした。
ロヴィーノもそれに習う。

「二人の仲知ってからしばらくは、先に会ってたらって思ってたな、俺も。」
「…今は違うのかよ…」
抱えた膝に顔を埋めてロヴィーノが聞くのに、ギルベルトは言った。

「ん~、アーサーはな、すごく悲観主義者で…悪い方に悪い方に考えるやつだから、俺じゃあ不安に思ったことを払拭してやれねえんだよな。
フォローして慰めて…でもどこかアーサーの中で払拭しきれなかったモンが蓄積される。
でもほら、トーニョはもう前向きさが違うだろ。
悲観的な考えなんて吹き飛ばす勢いがあるっつ~か…。」

「…わかる…」
ロヴィーノはそこで顔をあげてじ~っと前方に視線をやった。

「それでも…勢いある分大雑把だからな、あいつは。
今回みたいに全然考えなしな行動取ってアーサー泣かしてんのに気づいてねえとか、そういう時にな、アーサーが頼ってきてくれて、フォロー入れられればまあいいかなと…。」

「…うん……それもわかる気する…。あいつKYだからな…。デリカシーって文字辞書にねえし…。」
「だろ?」
「…うん。」

悔しいし悲しい…。
でもギルベルトの話を聞くとなんとなく…恋人には出来ない愛し方があるというのもわかる気がした。

まだギルベルトのように達観は出来そうにないが…とりあえず最低限、アーサーを傷つけない努力をしよう…と、ロヴィーノは思った。



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