男達はヒロインを争って牽制しあう
「ロヴィ、料理の腕あげたなぁ。」
「おいっ、アントーニョ、食うなっ!アーサーの分…」
「ええやん。あーちゃんは親分作ったの食べ。あーちゃんの好きなモンいっぱいやで」
あれは昨日の昼休み。
ローデリヒに留守を任せ、アントーニョ、アーサー、ギルベルト、フラン、ロヴィーノの5人で屋上で弁当を広げた。
男子高生としては珍しく、アーサー以外の4人はいつも自作弁当で、4月に悪友3人がこの海陽学園に転校して来て以来、たいてい5人、もしくはそこにローデリヒを加えた6人で食べている。
みんなそれぞれ多めに作ってきて、それぞれが競うようにアーサーに自分の弁当を食べさせるのはいつものことなのだが、その日はちょっと様子が違っていた。
やたらとアントーニョがロヴィーノに構っている。
…いや、正確にはロヴィーノの弁当に……。
やたらと腕を上げただの料理が上手いだの褒めながら、ロヴィーノの弁当に手を伸ばし、洗いざらい平らげていく。
元々ロヴィーノ自身も、そして彼が食べさせるために作っている相手、アーサーも、それほど量を食べる方ではないため、とても手が混んでいて美味しそうではあるが、量は多くはない弁当。
それがあっという間になくなっていく。
こいつ…わざとだな…。
と、ギルベルトはそれを見てため息を付いた。
おそらくこちらもアーサーに特別な想いを抱いているであろうロヴィーノは、日々、実にわかりやすく理由をつけてはアントーニョをアーサーから引き離そうとしている。
それでもこれまでは教室では学年が違うためアントーニョが、生徒会室では役員であるためロヴィーノが主に一緒で、それこそ昼飯の時くらいしかかち合うことがなかったのだが、学祭準備で生徒会室にこもるようになってからはその傾向が顕著になってきた。
しかし他の奴相手ならアーサーに近づくモノには牙をむくアントーニョも、弟のような存在であるロヴィーノにはそれができない。
だがそれを容認出来るわけでもなく、だんだんイライラしてきたのがギルベルトとフランには手に取るようにわかった。
そこでこの行動だ。
ロヴィーノにアーサーに近づくなといえないなら、近づく口実をなくさせてしまえばいい。
その第一弾が弁当だった。
ロヴィーノの弁当を食べるなとは言えないので、自分が食べてしまえば必然的にアーサーは自分の弁当を食べるしかなくなる…。
もうお前は小学生か?と思うような行動ではあるが、ロヴィーノへの牽制という意味なら成功だった。
念のためとロヴィーノ自身の分すら平らげられ、涙目のロヴィーノがさすがに気の毒になって、ギルベルトは
『お前…大人げない嫌がらせすんなよ…』
と、こっそりアントーニョにメールを送ったあと、ロヴィーノに自分の弁当を分けてやった。
『やって……ロヴィやって随分えげつない引き離し方するねんで?』
と返ってきたメールに、まるで小学生の兄弟の母親にでもなった気分で、ギルベルトはため息と共に
『いい加減にしとけ。お前の方が年上だろうがっ』
と、兄弟喧嘩では絶対に言ってはいけないセリフを吐いて、アントーニョを拗ねさせた。
ああ…めんどくせえ…と、その時は思ったものだが、フォローいれなきゃいけない優先順位も間違えていた事に今更ながら気づいた。
アントーニョとロヴィーノ、二人はアーサーをめぐってこんなにわかりやすく牽制しあっているのだが、悲観主義者で自己評価が恐ろしく低いアーサーの目にはそうは映らなかったらしい。
「俺みたいに料理も出来ない、やって貰いっぱなしの面倒くさい同級生より、料理上手の年下の幼馴染の方が絶対にいいよな…」
と本格的に泣き始めるアーサーの斜め上な発想に、ギルベルトは頭を抱えた。
あれは…双方お前の事で牽制しあってるんだ…と言ってしまうのは簡単だが、思い切り自分の気持ちをあらわにしていて公認の仲のアントーニョはとにかくとして、ロヴィーノの気持ちまで言ってしまうのはまずいだろう。
そこでギルベルトは半分だけ伝えることにする。
「あれは…お前にロヴィーノの弁当じゃなくて自分の弁当食って欲しいトーニョの回りくどい嫉妬だから気にすんな。」
「でも…それならロヴィに普通に告げれば良いだけじゃないか?元々ロヴィが俺の分まで弁当を作ってくれるようになったのは、俺の持ってきてた弁当がその…ロヴィ的には好ましいモノではなかったかららしいし……」
うん、自作だったんですね、わかります…と、幾度となくアーサーの料理の被害にあったことのあるギルベルトは遠い目をする。
「もし本当にギルの言う通りなら、俺の昼食は自分が作るから、手間暇かける必要はもうないからって言えば、それで収まると思うんだ」
(収まんねえよ、ロヴィーノだってお前の弁当作りてえんだよ。胃袋から落としてえんだろうよ)
…と言うわけにもいかず、こんな事ならその手の話が得意なフランを巻き込んでおくんだったと後悔しながら、ギルベルトは
「トーニョそのあたり馬鹿だから気づかなかったんだと思うぜ。俺から言っとくから」
と、とりあえずその話を終わりにした。
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