ファントム殺人事件 第二幕_1

名探偵は幽霊の軌跡にため息をつく


「ギルベルト、結果が出たぞ。」
クタクタに疲れて帰宅したギルベルトを出迎えた父フリッツがギルベルトにファイルを渡した。

それは先日回収したカードについた指紋を検出した結果の書いてあるファイルで、ギルベルトが個人的に警察官の父親に頼んでおいたものだ。

「最近家事もロクに出来ねえで外食させてる上に面倒な事頼んじまって悪いな、親父」

母親を早くになくしているため、普段はギルベルトが主に家事を受け持っていたが、このところ学園祭準備で忙しく食事を作れる時間に帰れないため、父親と弟に外食を余儀なくさせている事を心苦しく思っていたギルベルトは、申し訳なさそうに眉尻をさげた。

「何を言ってるんだ。お前は今までが頑張り過ぎてたんだ。親に一切負担をかけずに自力で海陽まで行ってしかも生徒会役員にまでなるなんてすごいことじゃないか。
何を謝る事があるんだ。このくらい親を頼りなさい。」

父の方こそ男手一つで自分と弟のルッツを育ててくれた自慢の父親だ。

そして弟のルッツも母親がいない家庭で家事の手伝いをしながらも常に成績は学年主席という自慢の弟で…こんな素晴らしい家族に囲まれて自分は本当に幸せ者だとギルベルトは思う。

とりあえず今回は出世払いと言うことで父の言葉に甘えさせてもらい、礼を言ってファイルを受け取ると目を通す。


「とりあえず状況を整理するか…」

自分も勉強で忙しいであろうルッツが入れてくれたコーヒーをありがたく飲みながら、ギルベルトはカードに関わる情報を整理し始めた。


カードは全部で5枚。
そのうち2枚はアーサーの元へ花束と一緒に送られてきたものだ。

あとの3枚はミスコンを降りろという脅迫状。

どちらもファントムという差出人。
同じシンプルなカードに普通のワープロ文字。

アーサーの所に送られてきた物については、宛名が“クリスティーヌ”になっていて、差出人のファントムという名前と照らし合わせると、おそらくアーサーの言う通り、“オペラ座の怪人”になぞらえているのだろう。

オペラ座の怪人では確か自分が恋したヒロイン、クリスティーヌを主役につけるようにファントムが劇場の支配人に要求するくだりがある。

それになぞらえているとしたら……う~んとギルベルトは頭を捻る。

脅迫状からすると主役=ミスコン優勝者と取れるのだが、そこで問題だ。

カードを送られた優勝候補者達が全てミスコンの出場を辞退したとしても、優勝するのは“クリスティーヌ”=アーサーではない。

生徒会から出るのはロヴィーノだ。

さらにわからないのは、関係者以外の指紋の付き方。

「これ…どういう意味なんだ…わかんねえ……」

ギルベルトはファイルを凝視しながら大きく息を吐き出した。

まだ物理的に誰かが危害を加えられるような事件は起こってないので、もしかしたら単なる脅しで終わるのかもしれないが…

「俺らの周りで起こってるんだもんなぁ…。楽観視はできねえよな」

そう、ギルベルトを含む4人の周りでは常に事件が起こり続けている。

この件だけ事件に発展しないなどという楽観的な考え方は、さすがにもう出来ないギルベルトだった。



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