いつもうっとおしいくらい構ってきてたから、いざ他に気が向くと寂しい?」
世界会議後…いや、会議にならなかった世界会議予定の時間を過ぎたあとの食事会。
元宗主国が大事に大事にお嫁様をエスコートしている図を見ていたロマーノは、声の主を振り返って一言
「うぜえ。」
と、顔をしかめた。
「ひっど~。もっと皆お兄さんを愛してよっ!」
と口ではそう言いつつもそれに傷ついた風もなく苦笑するのは自称愛の国。
「むさい髭男に愛想振りまく趣味はねえよ。」
と、言ってやると、坊ちゃんみたいな事言わないでよ…あ、今は嬢ちゃんか…と、フランスはワイングラスを片手に勝手にロマーノの隣に腰をかけた。
「本当にねぇ、あんなしおらしく可愛らしくなるなら、お兄さんが頂いちゃえば良かったよ…」
というフランスの顔には青あざ。
おそらく身体にもスコットランドの蹴りとポルトガルの頭突きで付いたアザが残っていると思う。
「お前も懲りねえな。スペインに聞かれたらまた殴られっぞ。」
とロマーノは呆れたように肩をすくめた。
そして視線をまた元宗主国に向ける。
「寂しいっつ~より、ホッとした…かな。」
「おや?」
ロマーノのつぶやきに、フランスは片方の眉を器用にあげる。
「あいつはなんつ~か…こええ。」
「あ~、うん。敵対してるとそうだけど、お前には優しかったでしょ?」
「う~ん…まあそうなんだけどな…。そういう意味じゃなくて…」
「……執着が?」
意味ありげにやはり視線をスペインに送るフランスに、ロマーノは
「わかってんなら聞くな」
と顔をしかめた。
「俺は…弟がいたから離れられた。
けど、いなかったら無理だったな。
1人なら引き戻されてたし、他人となら相手を殺されて終わりだ。
スペインが仕方ねえって思ってしまえる実の弟がいたからだ…離れられたのは。
イギリス様は…平気なのかな…」
「あ~、坊ちゃんはねぇ…たぶん平気。
愛情に鈍感だからスペインみたいに愛情過多に注がれてても半分くらいにしか感じてないから息苦しく感じないし、そのくせ愛情に飢えてるから注がれる愛情を信じる事ができるようになれば、あのおも~いスペインの愛情でも思い切り喜んで受け取れるよ。」
「日本のとこでいう割れ鍋に綴じ蓋ってやつか?」
「まあねぇ。」
クスクスと笑うフランス。
「見た目はすご~く微笑ましい若夫婦みたいなんだけどねぇ。」
との言葉とおり、癖のある黒髪に健康的に日焼けした肌の見るからに好青年が、ひどく愛おしげな目で己の華奢で真っ白な妻を労る様子は美しくも微笑ましい。
そのきっかけが青年の方が少女を無理矢理抱いた上で脅して自宅に拉致監禁などというすさまじいものだったとは、あの様子を見ていると到底信じられない。
「何か食べれそうなモンあるか?親分取ってきたるから、座っとき?」
と、整った甘いマスクでそう言う夫に、妻の方は小鳥かリスのように可愛らしい仕草でオードブルのクラッカーの端をちびちびとかじりながら弱々しく首をふる。
つわりの時期はとっくに過ぎたはずなのだが、今度は貧血からくる吐き気であまり食べられず、食べられないからまた貧血に…という悪循環に陥っていると聞いた。
そのせいで元々良くはない体格がさらに細く華奢になって、なのにお腹だけが大きく重そうなのが痛々しい。
「なんか食べへんと…」
と、形の良い眉を寄せるスペインでなくとも、あんなに弱々しくも儚くいられると、自宅に1人残すなんて心配で出来ない気がする。
それが例え…かつては数多いる大国を踏み潰し7つの海を支配し世界を従えた元ヤン覇権国家だったと知っていても…だ。
「あれがイギリス様って……なんか反則だよなぁ……。」
街中で知らずに出会ってたら間違いなくナンパしていると思う。
独占欲と嫉妬心の塊のスペインならずとも抱え込んでしまいこんでしまいたくなるような、なんとも言えない可愛らしい雰囲気がある。
なんかいきなりレース編みとか少女趣味になってるし…とつぶやくロマーノに、フランスはクスリと笑みをこぼした。
「あ~、それはもともとよ?坊ちゃん趣味は手芸で刺繍とかプロ並みだし。」
「げ…」
「掃除、洗濯、裁縫と家事全般、料理以外はそつなくこなすし、マメで綺麗好き。
あれでめちゃくちゃ女子力高くて、しかも可愛いもの大好きな少女趣味。」
「うあ~。まじかよ。」
「それで実は素直に出せないだけで寂しがり屋で甘えん坊って、どこのお嬢ちゃんって感じだよね~。」
「そりゃあ…あいつがおちるわけだ……」
壮絶に納得した。
「うん。それでいて重い愛情も喜んで受け入れちゃうなんて…」
「スペインの好みのどまんなかついてんな。」
「でしょう?でもねぇ…」
フランスはそこで言葉を切ってチラリと部屋の片隅に視線をやる。
そこには日本とカナダの制止を振り切ろうとする某超大国の姿。
「そろそろスペインご夫婦には退場願った方が平和かもね。」
と、そちらに加勢に足を向けるフランスに、
「ああ、そうだな。せっかくのタダ酒を途中で飲めなくなるのはもったいねえ」
と、ロマーノも立ち上がって、こちらはスペインのところへと分かれて向かった。
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