幸せ家族の作り方_10

「…っざけんなぁ~!!クソガキがぁっ!!!」

世界会議の日…長期休暇中のイギリスが何故かスペインの控え室にいるらしい…そんな情報を得て何の気なしに覗きに行ったフランスが見たものは…嫁入り前の娘を傷モノにされて激怒する父親…ではなく、可愛い弟が何故か可愛い妹になっていて、しかも孕まされていた事に激怒する超ド級のブラコン兄の姿。

今日はイギリスの代わりに兄のスコットランドが世界会議に出席していたのだ。

「あ~、お兄さん会議室の片付けしてくるね~。」
瞬時にやばいと判断して、クルリと反転しかけたフランスはグイっと後ろから襟首を掴まれる。

「アレを何とかしてくれ。お前の担当だろう?」
「無理無理無理無理!!」

ガシッと両肩を掴み直してそう言うと、そのまま容赦なく修羅場に追い立てようとするドイツにブンブンと必死に首を横に振って抵抗するフランスだが、ムキムキの力に敵うわけもなく、ズルズルと部屋に押し込まれた。


そんなフランスを、

「ああ゛クソ髭か。てめえよくツラだせたなぁ!!」

と、元ヤンの兄らしく眉間にシワを寄せつつスコットランドはそう言うと下から上へとすごい目つきで睨めつける。

「いやいやいやいや、お兄さん関係ないよね?何もしてないよね?」
「…何もしてねえだぁ?!良い度胸じゃねえかっ!!
テメエがきちんと見張らず何もしてなかったからこういう事になったんじゃねえかっ!!!」

え…何?お兄さんのせい?お兄さんが悪いの?
…というフランスの心の声はしっかり声に出ていたらしい。

よくわかってんじゃねえか…とニヤリとスコットランドはフランスの襟首を掴んだ。

「……てめえの…悪友だよな?ありゃあ……」
「…え~っと……」
「まさかお前が手引きしてたりしたんじゃ…」
「いえいえいえいえとんでもないっ!!!」

まるでヤのつく自由業の方に絡まれた運のない一般人をみないふりで遠巻きにする通行人のように、各国がソっと目をそらす。


「あんな~、喧嘩やったら外でやってくれへん?
お腹に赤ちゃんおんのに、そんな物騒なモン見せんといて。
胎教にも悪いし、それでなくても体調よおないのに、気分悪なったらどうするんや。」

唯一声をかけてくるのは諸悪の元凶。


「ちょ、他人ごとみたいに言ってないで助けてよっ!」
「いやや~。」
「そうだ、そもそもテメエがアーサーをたぶらかしやがるから…」
「たぶらかしたって…人聞きの悪い。お互い成人しとるんやから自由恋愛やん。」
「ふざけるなっ!!!」

スペインと話している間もフランスの襟首を掴んだままグイグイ締め付けるスコットランドに、フランスの意識が遠のきかけた時、救世主は現れたっ!!

「このドアホがぁああ!!!!」

ぱっこ~ん!!とどこから出したやら大きなハリセンでスペインの後頭部を張り倒す男。

「自分、何しとんねんっ!!お義兄さんに謝りやっ!!!」
「兄ちゃん、何すんねんっ!!」
「何すんねんじゃないわっ!!自分こそ、あ~ちゃんに何しとんねんっ!!!」

頭をさすりながら怒鳴るスペインに負けず劣らない声で怒鳴る男…ポルトガル。


「あ~ちゃん、うちの馬鹿弟が堪忍なぁ。ああ、こんなにしてもうて。」

気配もさせずどこからともなく現れてスペインを殴り倒して怒鳴りつけた男は、ソファに座るイギリスの前に膝まずいて、大きくなったお腹をさすさすとさする。

「ぽぉ、久しぶりだな~」
そんな事をされてもイギリスはニコニコ応じる。

なにせ二人は仲良しだ。
ずっと友達、ずっ友。
1373年から今まで世界最長の同盟を現在進行形で続けている大親友なのである。

あ~、兄ちゃんに言うとらんかったな、そう言えば…と、スペインは今頃思い出した。


「堪忍な~。うちの馬鹿弟がふざけた真似しくさって。」

きゅうっと男の頃より一回り小さくなったイギリスを抱きしめるポルトガルに、さすがにスペインがムッとした。


「兄ちゃん俺のお嫁ちゃんに勝手に抱きつかんといてっ」

とポルトガルをイギリスから引き剥がしたスペインの頭をぺちこ~んとまた叩くと、ポルトガルは

「自分、その前に言う事あるやろっ!ほら、兄ちゃんも一緒に謝ったるから土下座しっ!!」
と、強引にスペインを床に座らせる。


そこでようやくこのテンションの高い兄弟のやりとりにさすがに呆然としていたスコットランドがハッと気づいたらしい。

コホン!と咳払い一つ。

「まあ…謝ってすむことじゃねえけどな。」
と言うのに、ポルトガルは、ごもっともですと、強引にグイっとスペインの頭を下げさせた。

「兄ちゃん、謝る事ちゃうやんっ!」
と抵抗する弟の頭を、ググ~っと怪力で下げさせたまま

「謝ることやろっ!!
お義兄さんかて色々楽しみにしつつあ~ちゃん育てはったんやでっ!!
それをこんなウェディングドレスも着させへんで!!
世の中には順番てモンがあるんや、あほうっ!!
―あ~ちゃんせっかく細い綺麗な腰しとったのに、これじゃあウェディングドレス着られへんやんっ!!!!」


「突っ込むとこそこかいっっ!!!!!」

絶叫する兄に、ベタッと勢いで弟は床に突っ伏した。


「ほんますんませんっ!!
うちのアホ弟のせいで一生に一度の晴れ舞台も踏ませてやれへんでっ。
赤ちゃん無事生まれたらこの馬鹿にはちゃんとした式あげさせますんでっ!!」

「…い、いや…お前怒るとこが…」

「もちろんっ!!お義兄さんも招待させますんで、ヴァージンロード歩くのにもう傷モノにしてもうてホンマ申し訳ないんですけど、一緒に歩いたってくださいっ!
その代わりこの馬鹿が用意せんのやったら、俺が責任持ってあ~ちゃんに似合いのめっちゃかわええウェディングドレス用意しますんでっ!!」

「…ドレス…か。」

「あっ赤ちゃん女の子らしいから、ママとお揃いのドレスで一緒に参列とかでも可愛いかもね~♪
もし良かったら俺ん家で請け負うよっ?」

そこでそれまでは怯えてドイツの後ろに隠れていたイタリアがピョンピョンと飛び跳ねながら手をあげる。

「女かっ?!!」

その言葉にスコットランドが食いついた。

「女の子なんっ?あ~ちゃんに似た女の子なんてめっちゃかわええやろな~!」

ポルトガルもほわわ~っと音がしそうなくらい嬉しそうな顔をする。


「ふんっ。できちまったもんは仕方ないな。
とりあえず…姪に罪はねえ。
許してやらんでもないが、家のセキュリティはしっかりしろ。
愚弟と姪に何かあったらそこのクソ髭ぶっ殺すからな。」


「え?ええ??なんでそこでお兄さんっ?!!!」

それまでかやの外だったのが、こんな時にばかり引きずり込まれて動揺するフランスに、

「隣国のてめえがしっかり見張ってねえで、てめえの悪友がしでかした不始末だよなぁ?ああ゛?」

と、また襟首をつかんでニヤリと凶悪な笑みを浮かべるスコットランドにフランスは涙する。

美味しいところは脳天気なラテンの悪友に全部持っていかれた挙句、何故か被害だけは人一倍…。
ああ…どうせこんなことになるなら、お兄さんが美味しく頂いちゃえば良かったよ…。

思った言葉を無意識に口に出していた事にフランスが気づいたのは、スペインのパンチとポルトガルの頭突き、それにスコットランドの蹴りが同時に降ってきて、気を失うまでのほんの一瞬の事だった。



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