プロローグ
3月の終わり…イギリスは日本に花見に来ていた。
趣のある日本家屋の縁側で、庭の桜の木からハラハラと桜吹雪が舞う美しさに目を奪われていると、隣で茶をすすっていた日本が唐突に言った。
「もうすぐ…エイプリル・フールですね。これは…チャンスですよ?イギリスさん」
「は?」
唐突すぎて意味がわからない。
イギリスが目をぱちくりさせていると、日本はニコリと微笑んだ。
「嘘を付いても良い日…ですけど、必ずしも嘘をつかなくてはいけない日でもない。
告白…なさってみてはいかがですか?」
あ~…とイギリスは声をあげた。
イギリスの長年の片思いを察しの良いこの友人だけは知っている。
絶対に叶わない思いではあるが、せめてエイプリル・フールの冗談にかこつけて、一度くらいは告白してみては?と日本は薦めているのだ。
「いや…意味ないだろ。絶対に嫌がられるだけなんだから…」
フ~ッと溜息をつくイギリス。
そう、叶う恋ではないのは、昔騙していたのがバレた時『絶対にこの気持は忘れへん!覚えときっ!!』とギラギラした目で言われた自分がいちばんよくわかっている。
これ以上嫌われる事をしてどうする?というイギリスに日本はにこりと
「もうこれ以上がないくらい嫌われていると思われるならいいじゃありませんか。」
と彼にしては傷口をえぐるような事を言ってきた。
そして、
「…日本~」
涙目になるイギリスの潤んだ目元にチョンチョンとハンカチを押し当てて涙を拭うと、ニッコリと思っても見なかった提案を口にする。
「ではあの方の闘争心を煽って見られては?
あの方が嫌いな方、また、ライバルと思っていらっしゃるであろう方にも思いを寄せているような素振りをなさってはいかがでしょう?
煽る役は不肖私にお任せ下さい。
イギリスさんの事をどう思っていらっしゃろうと、あんな奴らに負けるものか!と思わせてみせましょう!」
やけに生き生きとした目でそう言う日本。
楽しんでいるようにみえるのは気のせいだろう。
――ああ…これでとりあえず夏コミネタは確保ですね…
とキラキラした目で言っているのはなんなんだろう…。
ナツコミネタ?
きょとんとしているイギリスの手を日本は両手で握った。
普段なら肉体的接触を可能な限り避ける日本にしては非常に珍しいことである。
それだけ日本がこの件に本気だと言う事だろう。
「大丈夫。不肖この爺、大事な友人のイギリスさんの幸せと自身の幸せ、両方を手に入れるために全力を尽くす所存です。
どうかご信用下さい。」
“大事な友達”
ほわわ~となるイギリス。それはまるで強力な魔法の言葉だ。
イギリスはその言葉で大抵の事を許せてしまう。
「あ…ああ。いつでも俺は日本のことは信頼してるぞ。
なにせ、と、友達だからなっ」
と頬を染めて言う様子は非常に可愛らしい。
「ええ。友達ですからっ。爺にお任せ下さいね」
島国二人、縁組で手を握り合う様子はたいそう可愛らしい。
しかしこれで一部には可愛らしいなどと微笑んでいられない計画が実動にうつされることになることを、イギリスは当然知る由もない。
こうして日本の手によってエイプリルフール告白作戦が決行された翌日…
「もしもし?え?ロマーノ?珍しいな」
のんびりと電話に出ると電話の向こうでは焦ったロマーノの声
『いいから、今すぐ逃げろっ!殺されたくなければすぐ逃げろっ!』
「へ?」
開口一番そんな台詞で、ポカ~ンとしていると、ぴんぽ~ん!とチャイムの音。
「あ、ちょっと待っててね。誰か来たみたい」
『うあぁあああ~~!!!馬鹿野郎っ!出るなっ!!窓から逃げろっ!!お前殺されるぞ!!!』
嵐がヨーロッパを駆け巡った。
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