世界の警察ブルーアースの本部に与えられた部屋の中で寛いでいた羽子の目の前に現れたのは、掌に乗ってしまうくらいの大きさの可愛らしいアーサーとフェリシアーノ。
いわゆる天使ルックというのだろうか…。
二人してお揃いのヒラヒラした短めの白いチュニックを着て、何故か背中に白い小鳥のような羽、頭の上には小さな金の輪っか。
そんなけしからん可愛らしさの生き物が窓枠からつぶらな瞳で自分を見ていることに気づいた羽子は、読んでいた邪(よこしま)な内容の雑誌をパササっと慌てて枕の下に隠すと、窓の方へと駆け寄った。
「ヴェ~っ…怖いよぉ~。落ちちゃうよぉ~」
窓枠のあたりに仁王立ちになるアーサーの横ではフェリがカーテンにしがみついて泣いている。
背中でパタパタとはためいているそれは何なのか?
宙を飛ぶための機能ではないのか?
そんなツッコミは入れてはいけないお約束だ。
「大丈夫ですか?」
と、両の掌を差し出すと、アーサーは
「ああ、悪い」
と、フェリシアーノは
「ありがと~」
とそれぞれ言って乗ってくる。
何これ、何これ!!もうこのままこの子達持って失踪して良いですか?!
と、内心悶えながらも、手乗り天使組をソッとテーブルに下ろすと、どうぞ、と、文庫本を数冊重ねた上にミニタオルを置いて椅子代わりに勧める。
礼を言ってそこに揃って座る二人。
「あ、あのっ!1枚だけっ!1枚だけ写真撮って良いですかっ?!」
とそこで勢いこんでデジカメを撮り出す羽子にアーサーは
「勝手にしろ。そのかわりそれ撮ったら話聞いて協力しろよ。」
と息を吐き出した。
そんなやりとりに、
「なんだか…動じない人なんだね。こんな姿で訪ねたらびっくりされちゃうかと思ってたよ、俺。」
とフェリシアーノがアーサーに言うと、アーサーはきっぱり
「極東支部は変わった奴多いから。
こいつは特に写真が趣味らしくてジャスティス撮りたいって言ってよく撮らせてやってて知ってる奴だから大丈夫だと思った。」
写真が趣味なわけではない。単にアーサーを撮るのが趣味なだけだ…というのは言わないでおこうと羽子は思う。
そして代わりに聞いてみる。
「来ていただけたのは光栄なんですけど、なんで私なんです?」
「窓全開にしてて、さらに本部の人間じゃねえから昼でも部屋にいる可能性高いし…。
迷惑ならいい。他探す。」
と、立ち上がりかけるアーサーの進路を羽子は慌てて手で塞いだ。
「違いますって!頼って頂けるなんてとっても嬉しいんですけど、アーサーさんならアントーニョさんとかの所行かないのかな~とか。あの方すごく喜びそうじゃないですかっ」
羽子の言葉にアーサーもフェリシアーノも苦い顔をして顔を見合わせた。
「…聞いちゃいけない事…でした?」
その様子に思わずそう聞く羽子に、フェリシアーノはその時の様子を思い出したのか瞳を潤ませた。
「…食べられちゃうかと思ったよ…」
「はぁ?」
「最初あいつの所へ行ったんだ。ジャスティスは今休暇中だし、あいつ窓開けっぱなしがほとんどだしな…」
アーサーは遠い目をする。
「俺達見るなりアントーニョ兄ちゃん、すごい勢いで駆け寄ってきてね…」
「いきなり掴まれて顔の近くに持ってかれて…」
「目とか普通じゃなかったよね?」
「ああ…なんか悪い薬でもやってたんじゃねえの?」
というわけで慌てて逃げてきたんだ、と、最後にアーサーがそう締める。
うん…自分も叫びだして頬ずりしようとしなくて正解だったよ…と、内心羽子は思う。
手乗り天使組…これを見て興奮しない輩がいたら会ってみたい。
二人して自分たちの可愛らしさの破壊力を自覚していないのがおかしい。
これは…なんとか乙女ジャーナル編集長のエリザに報告せねばならない。
いや、全国の乙女達に知らしめなければっ!!!
一瞬違う世界に行っていた羽子の目の前までパタパタと飛んできて、お~い、戻って来いっ!と叫ぶアーサー。
「うあぁっ…と!すみませんっ」
ハッと我に帰る羽子。
「で?助けるっていうのは?アントーニョさんから守れとかそういう事です?」
と聞くと、また二人は揃って苦笑した。
「いや、それ以前に何でこうなったかとか聞かないのか?」
アーサーの言葉に
「えっと…あまりの可愛らしさに不自然に思う気持ちがふっとんでました。」
と、羽子が正直に答えると、
「お前…そういうヤツだったよな…」
と、アーサーがガックリ肩を落とした。
「あのね…実は今キッチンが大変なんだっ!」
そこでフェリシアーノが説明を始めた。
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