【親分とAちゃん】その後詰め合わせ_1

次の方…だと!?撫子さまっ!


「終わっちゃいましたか…」

アーサーを救出後、アーサーを伴って自宅に帰る途中のトマト親分ことアントーニョに、男同士のアレコレの時に必要な物一式を入れた、白地に祝の金文字を刺繍した自作の袋を手渡すと、桜は、ほぅっとため息をついた。

思えば中学の時、同じクラスのフランソワーズから『弟よ。ネタに使えそうでしょ?』と、まだ小学生の可愛らしい少女のようなAちゃんことアーサーを紹介されて早6年。

天使のような可愛らしい所作、言動などに萌えながら、こっそり彼をモデルに【天使シリーズ】を書き始めたのは桜だった。

もちろんそれは、それまで桜達が描いていたBLとは全く別なもので、ただただ可愛らしい男の子の可愛らしいエピソードを綴った、ともすれば大人のお姉さま達のための癒し系絵本のようなもので、その天使のような男の子を天使のままで居させること、それがアーサーと出会ってからの桜の目的でもあった。

ひたすら可愛がり、守り、慈しんではきたものの、アーサーとて何時までも子どものままでは居られない。

今回こうして桜も認める事のできる相手に託したからには、やはりあまり口を出しては、上手くいくものもいかなくなる。

手を離してやらねば…ということは頭では理解しているものの、実に6年もの間見守り続けていた相手と距離を置くとなると、やはり寂しい。

出せない言葉、零れ出る思いの代わりに、ポロリと落ちる涙。

その時、何故か両側から差し出されるハンカチに顔をあげると、自分の頭上で睨み合う2人の男。


「兄貴、お疲れっ。撫子は俺が送っていくから、弟のところに帰って休んだらどうだ?」

先に言葉を発したのは、アントーニョほどではないが少し日に焼けた肌の茶色の髪の男。
少し尖った感じの整った容姿だが、クルンと跳ねた一筋の髪が、なんとなく可愛らしさを醸し出している気がする。

「いや、お前こそ疲れたろ?帰って爺さんに礼言っといてくれよ。桜は俺が送ってくからっ。知らない仲でもないし、こいつ人見知りだしなっ。」

というのは、アントーニョと一緒にアーサーを保護していた仲間、兄貴、紅眼ことギルベルト。

どうやら二人示し合わせて来たわけではなく、たまたまかち合ったようだ。
まあそれには気付かないふりで、

「お二人…仲よろしいんですね。」
ニコリと微笑むと、2人は揃って桜を見下ろして
「「悪くはねえけど…別に特に仲いいわけじゃ…」」
と口を揃える。

(この2人…じゃダメかしら?まあ…ダメでも色々と協力していただく事はできそうですわね)

心の隙間を埋めるには、やはり新たな目的を見つけねばなるまい……二人が牽制しあう中、当の乙女がそんな事を考えていようとは、全兄弟の組み合わせの中でも1番女性に夢をいだきやすいと言われる男兄弟の長男達には思いもよらない。

俯き加減にクスリと笑う桜。

「お二人とも…わたくしが気落ちしていると思って来て下さったんですの?」
と、交互に顔を見あげれば、示し合わせたようにパッと双方少し頬を染めて視線を反らした。

そんな二人に確信を持って
「守って…あげたくなりました?」
と、少し冗談めかして胸の前で手を合わせると、さらに言葉をなくす兄二人にクスクスと、桜は今度は楽しげに笑う。

「わたくし…アーサー君をアントーニョさんに託してしまって、少し気落ちしてたんですけど…次の幸せを探そうという気持ちになってきました。協力…していただけます?」

小柄でおとなしめな容姿の大和撫子の上目遣いでの申し出……

「「もちろんっ!」」

揃って兄気質な二人が断るはずもなく……

「じゃあっ次の幸せを探しに行きましょうっ!」
とにっこり浮かべられた笑顔の本当の意味を彼らが知るのは、もっと先のことである。

そう…いずれ“幸せのお手伝い”と称して画像ソフトを駆使したり、学校の男の友人の話を語らされたりする…その時まで……。





0 件のコメント :

コメントを投稿