「なんだいっ!あれはっ?!」
と、ひどくイライラしているアメリカの隣で、日本は小さくため息をついた。
イライラの原因は言うまでもなく彼の元兄。現在進行形での片思いの相手、イギリス。
酒癖の悪い事で知られる彼が飲み始めると各国がさりげなく距離を置くのが常なのだが、今日はどうやら100年に一度くらいの良い酔い方をしているらしい。
パブったイギリスの面倒見要員として隣に配置されているフランスの手をぺたぺたとご機嫌でいじっている。
「坊ちゃん、どうしたの?お兄さんに触りたかったの?」
と、非常に珍しいデレ状態のイギリスに、フランスはしまりのない笑顔を向けて言う。
「うぅ~手だ。うん。俺大きな手の奴が好きなんだぁ」
と、それに対して童顔をさらに幼く見せる可愛らしい笑みを浮かべながらイギリスが言った。
そこで超大国はガタっと立ち上がった。
そしてそのままツカツカと二人に歩み寄ると、フランスの手をつかんでいるイギリスの手をガシっとつかんで引きはがし、自分の手の平とイギリスの手の平を重ね合わせる。
「ほら、俺の手の方が大きいんだぞっ!」
酔っ払い相手とは言え、想い人の手に触れているのは恥ずかしい19歳。
頬を蒸気させ、視線は彼方に向けながらそれでも言い放つと、その突然の態度にイギリスは一瞬驚いたように目を丸くしたが、次の瞬間ふにゃりと笑った。
「ああ、そうだなぁ。おっきくなったなぁ、アルゥ~」
可愛い…笑顔は可愛いわけだが、セリフが頂けない。
「子供に対するみたいな言い方しないでくれよっ!」
と思わず文句を言うアメリカの言葉もしかし酔っ払いには届かなかったらしい。
イギリスはそのアメリカを完全スルーで
「でも違うんだよなぁ…この手じゃない。もっとおっきぃ手なんだ」
と、少し不満げに眉を寄せた。
「これ以上大きい手って、どんだけなんだぃ?!」
アメリカは身体も大きければ手も当然それに比例して大きい。
それ以上大きい手の持ち主なんていただろうか…と、思っていると、
「それって…僕の事かなぁ?」
と、いつのまに来ていたのか、ロシアが後ろに立っていた。
「ほら、アメリカ君の手よりも大きいよ?」
と自分の手をかざしてみせると、イギリスは酔っているのだろう、普段は絶対に近寄らないロシアの手をグイっと引っ張って自分の手に重ね合わせながらまじまじと凝視した。
「なあに?イギリス君。一緒にロシアに帰る?」
読めない笑顔でにこにこと言うロシアに、イギリスはぶんぶんと首を横に振った。
「違う…この手でもない。」
「そうなの?残念だなぁ…」
と、それほど残念そうでもない笑顔でロシアはあっさり離れていく。
「イギリス…君、酔ってるだろう?」
と、当たり前のことを言ってため息をつくアメリカにかまわず、イギリスはフラフラと立ち上がると、今度は少し離れたところでその様子を物珍しげに見物していたイタリア兄弟の前にやってきた。
「なあに?俺の手も見る?」
アルコールが入っているイギリスに寄ってこられて思わず硬直するロマーノとは対照的に、にこにこと自分の手を差し出すヴェネチアーノ。
「兄ちゃん大丈夫だよ。」
今日は幼児化してるみたいだから、と、それは小声で告げる弟に、ロマーノは自分も恐る恐る寄ってきた。
そうして差し出される双子の手を左右の手に重ねてまじまじと比べるイギリス。
「どう?イギリスの探してる手だった?」
コクリと首をかしげて聞くヴェネチアーノに、イギリスはフルフルと首を横に振ったかと思うと、今度はポロポロ泣きだした。
「ヴェ、ごめんねっ。探してる手じゃなくてごめんねっ。大きい手って言ったら…ドイツ!ドイツならどうかな?!」
大きな目から涙を流す様子は、その童顔もあいまって小さな子供の様で…慌ててドイツを呼びにヴェネチアーノが走って行ったあと残されたロマーノも毒気を抜かれて思わず
「ほら、泣くな。すぐ馬鹿弟がジャガイモ野郎連れてくるから」
と、普段なら絶対にできないのだが、今日だけは幼児化しているっぽいイギリスの頭をなでた。
その瞬間ピタっと泣きやむイギリス。
なんだ?と聞く間もなく、イギリスは自分の頭に乗せられているロマーノの手を取って、また真剣な顔で凝視する。
「な、なんだよ?!」
ちょっと焦るロマーノだったが、イギリスはしばらく眺めてやがて
「違う…」
と、興味をなくしたようにその手を放した。
やがて連れてこられたドイツもプロイセンも…ギリシャにトルコにキューバにカナダ、手が大きそうな国と言う国は全てと言っていいほどヴェネチアーノが連れてきたが、どの手もイギリスが探している大きな手ではないらしい。
最終的にはもう一度、最初ご機嫌で手を触っていたフランスを連れてきたが、今度はもうすっかり興味を失ってしまったのか、違うっ!とプク~っと頬を膨らませて、その後また子供のようにポロポロ泣き出す。
お手上げだ。
「ヴェ~、見つからないねぇ」
と困ったようにしゃがみこむヴェネチアーノ。
「とりあえず泣きやませるのが先じゃねえか?」
と、意外に理性的な意見を述べるロマーノ。
「みつからなくて悲しくて泣いてるんだよ?見つからないのにどうやって?」
と、隣に立つ双子の兄を見上げるヴェネチアーノに、ロマーノは当たり前の顔で
「ガキの子守なんてやるやつ決まってんだろっ」
と、これは自分でやる気はサラサラないらしく、今日はホスト国と言う事で料理の手配などのため離席していたスペインに電話をかけて呼び出す。
「なんでスペイン兄ちゃん?」
「ペドじゃなくて子供好きを名乗るんなら、みかけだけじゃなくて中身子供の面倒くらい見れるだろっ」
と、もう思い切り無茶な論理を振りかざすロマーノ。
「そういう無茶ぶりやめてんか…」
と、その会話をいつのまにか到着して聞いていたらしいスペインがそう言ってため息をもらす。
「あ、スペイン兄ちゃん、あのねっ…」
ヴェネチアーノが経緯を説明してチラリと日本とフランスとプロイセンに囲まれて泣いているイギリスに視線を移した。
「あ~、そういう事かいな」
意外に戸惑った様子もなく、スペインはその集団に近づいていくと、ちょっと代わってな~と、3人の代わりに泣いているイギリスの前に立った。
「“イングランドが”探してる手ぇはな、もうないねんで。」
いきなりイギリスの頭をなでつつそう言うスペインに周りはぎょっとする。
「ない…のか?」
こしこしと目をぬぐいながら目線だけをスペインに向けるイギリスに、スペインは、そやで~と、少し困った笑みを浮かべた。
「もう随分昔に消えてしもうてん。ま、消えてなかったとしても、イングランドはもう大きなったから、こうやって手ぇ合わせても、あの頃ほどの差はないと思うで~。たぶん今の俺の手くらいの大きさやったんとちゃう?」
と、スペインはイギリスの頭をなでていた手でイギリスの手をつかむと、自分の手に重ね合わせた。
せいぜい一回り程度しか大きさの違わない手。
事務作業や刺繍、あとはせいぜい庭の花の手入れくらいしかしないイギリスの柔らかな指先と違って、昔は武器を今は農具を扱うため、ごつごつと硬くなった褐色の手。
その感触や色形はあの大きな手と同じだ。
「大きさは…自分の手ぇとそんなに変わらんやろ?せいぜい一回りくらいや。」
すっかり泣きやんで重ねていない方の手でスペインの手をぺたぺた触りだすイギリスにスペインは笑みを浮かべる。
「でも“イギリスが”欲しいのはこの手なんやろ?」
言われてコクコクとイギリスはうなづいた。
「大きな手だ…」
と、嬉しそうに言うのに、スペインも、そうやな、と笑みを浮かべる。
「じゃ、フランス、あとたのむわ~。この子限界みたいやし、寝かせてくるさかい」
と、探し物が見つかって安心したのかウツラウツラし始めたイギリスのひざ裏に手を入れ、よっこいしょと横抱きにしたスペインが、そのまま会場になっている広間を出ていく。
「さすがスペイン兄ちゃんだね~」
と深く考えずにぱちぱち手をたたくヴェネチアーノに、アメリカは
「なんだい、あれ?わけわかんないんだぞ!」
とぷく~っとふくれる。
「あ~、要はですね…」
とそこでそれまで黙って事の成り行きを見守っていた日本が、解説者よろしく一歩前に出た。
「大きいというのは物理的な大きさではなく、比喩だったんですよ。イギリスさんを慈しんで守ってくれる大きな力とか気持ちみたいなものを感じられる手…とでも言うのでしょうか…。ね、フランスさん?」
そこでニコリと日本にふられたフランスは
「あ~うん。そういう事だったみたいね。幼児返りして“あの人”を探してたのね。初めて保護してくれた相手だったしなぁ。
面倒見てた中でもなんだか感情的にはイングランドの事は特に可愛く思ってたみたいだからなぁ…。あいつの国にウサギなんてあいつがいかにも喜びそうなモノ持ち込んだのも“あの人”だしね。
そこでなんで自分の亡き後にあいつを託す相手としてお兄さん選ばなかったのかだけがすご~く謎なんだけど…」
と、苦笑する。
「ああ、だってそうするとイギリスさんが遠慮なく相談できる相手がいなくなってしまうじゃないですか。」
「ヴェ~、そうだったんだ~。じゃあ俺でもよかったのに…」
「お前は強さの部分で無理でしょ?」
「え~。俺イングランド任せてもらってたら、頑張れたかもしれないのにっ」
「ヘタリアが生言ってんじゃありません」
「ちょっと君達!何言ってるか全然わかんないんだぞっ!!」
知ってる国…わかっている国…なんとなく想像できた国…そして全くわけがわからない国…。
そんな国々が広間で喧々囂々としている中、会場となっているホテルの一室では西英ktkr…けしからん…状態になっている事と……
「ちょ、日本、君どこの誰に向かって話してるんだいっ?!」
「ああ、アメリカさん。それはもう…決まってるじゃないですかっ。ディスプレイの向こうの…」
「……君…顔に出ないけど、かなり酔ってるんじゃ……」
「酔ってませんよっ。酔うものですかっ!私はこれからRECしに行くと言う義務があるんですっ!皆さんにお伝えするという崇高な使命を帯びているんですよっ!!」
「にほ~ん!!戻ってきてくれ~~!!!なんか君目が怖いよ~~!!!!」
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