のっと・フェイク!後編_4

来訪者


それから少しして、内線がなって来客を告げる。

誰にもここを告げてないのに?とスペインは一瞬首を傾げるが、来訪者の名前を告げられて思い出した。
あ~、そういえば泣きながら電話をかけたのだ。

入室許可を告げるとやがて息を切らして入ってきたのは取るものもとりあえずといった感じの上着だけひっかけたロマーノ…と何故か日本。

「お前、大丈夫なのかよっ、コノヤロー!」
と、少し心配そうに眉を寄せるロマーノに、スペインは決まり悪げに頭をかいた。

「あ~、なんかな、子どもの泣き声聞こえて生まれてきたはずやのに、なかなか手術終わらんかったから、親分焦ってもうて…」

正直に言うと、日本があらあら、と、口元を袖口で覆って笑った。
ロマーノはスペインの答えにホッとしたように肩の力を抜く。

「お前なぁ…ほんと後追いでもしそうな勢いで電話してくっから、マジ焦ったじゃねえかっ!」
呆れたように言うロマーノに、スペインは、やって…と、口を尖らせる。

「子ども生まれるまでより全然長い時間終わらへんかってんもん。」

「ああ…帝王切開でしたね。切って赤ちゃんを取り出すより、取り出したあとに縫合する方が時間がかかるんですよ。」

「あ~、そうなん」
「…ったりめえだろっ!てめえ馬鹿かっ!!」

元親と元養い子かそんな会話を交わしている間に、日本がベビーベッドとイギリスのベッドに目を向けて、声にならない悲鳴を上げる。

「双子ちゃんっ!双子ちゃんなんですねっ!!!」
いつもの穏やかな様子から一転、声こそトーンを抑えているものの、バンバンっ!!!と、ロマーノを腕を叩きながら興奮気味に言う日本に、ロマーノもそこで初めて子どもに目を向けた。

「うあ…双子かよっ!」
「そうやで~。アーティーに似てべっぴんさんやろっ。」

にへら~っとしまりのない笑みを浮かべるスペインの言葉に、ロマーノは今後の赤ん坊争奪戦を思って内心冷や汗をかく。

可愛らしい顔のイギリスのバランスを崩す太すぎる眉だけを取った、完璧に可愛らしい顔立ちをした双子の女の子の赤ん坊。

幼女趣味のオランダならずとも、可愛らしいドレスの一つでも贈ってやりたい気分になる。

「コスはアリスとハーマイオニーですかね…いやいや、せっかく双子なわけですし、それを生かした何かを……」
と、ぶつぶつと別の方向の贈り物に思考を向けている日本。

「ところで…なんで日本ちゃん?」
そこで初めてその存在に疑問を抱いたスペインが聞くと、ロマーノは答える。
「あ~、馬鹿弟のとこに遊びに来てたんだ。で、イギリス関係でトラブってるなら一緒にきてもらやあ何かしら手伝ってもらえるかと思って…」

さらに
「で?当のイタちゃんは?」
とのスペインの質問には
「あいつが来て何が出来るって?邪魔なだけだから置いてきた」
と、辛らつな答えを返す実の兄。
まあ…物理的なトラブル対応には確かに不向きな気もするが、本当にはっきりと物を言う。

「さてさて、イギリスさんの無事も赤ちゃんが無事生まれたのも確認したことですし、爺達はティールームでお茶でもしてましょうかね。
そろそろイギリスさんも目を覚まされるでしょうし、ここはやはり親子水入らずで。
イギリスさんが目覚められて手が必要でしたらご連絡下さい。
この棟はイギリスさんしかいらっしゃらないから、携帯使用も許可されてるんですよね?」

さすが空気を読む国ナンバーワンだけあって、興奮しつつも気遣いを忘れない。
お礼を言うスペインをあとに残して、二人はとりあえず病室を出て行った。

こうして再び静かになった病室でイギリスが目を覚ましたのはそれからまもなくのことだった。




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