兄さんVS兄ちゃん
「ざけんなっ!この変態っ!!姪はてめえみたいな変態ドケチ野郎の嫁にはやらんっ!!」
「何言うとるんじゃっ!!俺の方がずっと前から嫁にするって決めとったんじゃっ!ドアホがっ!!」
でかい図体の無駄に迫力のある男二人が可愛らしいベビーグッズに囲まれた未来の子供部屋で言い争っている。
片や首にリボンをつけたでかいティディベアを抱えたスコットランド、片や耳にリボンをつけたでかいミッフィーを抱えたオランダ。
確か発端はティディベアとミッフィーのどちらをベビーベッドに置くかだった気がする。
大男二人がぬいぐるみを抱えながら怒鳴りあう淡いピンクで統一された子供部屋……シュールすぎて泣けてくる。
イギリスは胎教に悪いからと早々にスペインが避難させた。
そしてそのまま落ち着かないイギリスに付き添っている。
そこで二人だけで放置も出来ないと配置されたロマーノ。
なんとかイギリスも安定期に入り、特に隠すこともなく他に子どもが出来た事を伝えてからは、なにかと訪ねてくる身内二人。
いきなり訪ねてきて子供部屋に入り浸る二人がかち合うことは初めてではなく、そのたびこうやって怒鳴り合いに発展することももちろん初めてではない。
最初の頃こそ涙目で震えていたロマーノも、今では慣れたもので、それぞれフランスとベルギーに引き取りに来いとメールしている。
(そもそも…これで男だったらどうすんだよ……)
子供部屋を一面埋め尽くすのはピンクのベビー用品の山。
そのほとんどが今怒鳴り合っている大男達からの贈り物だ。
そしてところどころにある白や淡いクリーム色の物は日本。
「男の子さんでも女の子さんでも問題ないようにと思いまして」
と、さすがにみかけは若くとも伊達に自分たちより遥かに長くは生きてはいない。
はしゃいではいても気遣いが大人だ。
フランスもイギリスともスペインとも付き合いが長いせいか別の意味で心得ていて、
「坊ちゃんはナーバスになってるし、スペインは子育て中の野生動物みたいに防衛本能全開で他に攻撃的になって坊ちゃん抱え込んでるでしょ?
だから坊ちゃんが食べたそうなお菓子だけ置いてくね。」
と、定期的にイギリスが好きなお菓子を作って持参して、それだけ置いて帰っていく。
こちらもそういう意味ではなかなか心得ている。
確かにイギリスに子どもが出来てからのスペインはいつもにもましてイギリスにベッタリだ。
最初は寝てろの一点張りだったのが、動かないのも身体に悪いと言われるやいなや、今度は散歩に連れて行くのはいいが、歩かせる予定の道から小石や雑草など全て前日に取り除いて置くくらいの神経質ぶりで、ふざけてイギリスに手を伸ばそうなどした日には手を切り落とされそうなくらいピリピリしている。
いくら腐れ縁の通常運転とか言っても、じゃれついたら殺されるのは火を見るより明らかで、しかし、だからといって変にいつもと態度を変えて距離を取ると、今度はイギリスがナーバスになる。
ゆえにフランスのこの対応は実に正しい。
他は…アメリカは未だに認めていないらしい。
ヨーロッパ全体で自分をはめようとしている、ありえないと半分拗ねているらしい。
カナダは一応フランス、スコットランドと、自分の知人に確認を取って、どうやらスペインの暴走ではないと判断し、時折カードとメープルシロップを送ってくる。
メールでのやりとりが多くなった現代だが趣のある物が好きなイギリスのため、出先で珍しいカードを見つけたから、庭で育てている花を押し花にしたからと、何かにつけて送ってくるカードをイギリスは楽しみにしている。
こちらもやはりイギリスと長く一緒にいる人間だけあって、喜ばせはしても負担にならないようにとの気遣いが感じられる。
他の英連邦はどうやらカナダが仕切って今あまり騒がないようにと言われているらしく、それぞれささやかながらも心のこもったお祝いのカードと贈り物が届いているが、それ以上に押しかけてきたりとかはしない。
もちろん、他のそこまでイギリスに近くはない国々も同様だ。
そんな中で唯一、イギリス、スペイン二人にそれぞれ近い大男達だけがこの状態だ。
生まれる前からこの状態で…生まれたらどうなるのだろう、と、確実にそこに巻き込まれるであろう自分の身の上を考えて、ロマーノはため息をついた。
もういっそのこと…男が生まれた方が平和なんじゃないか?
実兄に手のひらを返されてイギリスは多少落ち込むだろうが、男でも日本や英連邦、フランスもイタリアも…それからシーランド、あ~あと、あれだ、ハンガリーあたりはもう大はしゃぎだ。
取り合いへし合いで落ち込み続ける余裕はきっとそうはない。
ロマーノは目の前で繰り広げられる舌戦を見ながら、そんな事を思った。
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