というイタリアの言葉に、プロイセンはどういう方向に話を持って行くつもりなのかを確認せずにイタリアに主導権を渡した事を後悔した。
…今から全員殺るか……
ふとそんな事も考えてみるが、この世界がローマの手の中らしいと思えば、他の2人はとにかく、イタリアを殺すのは無理だろう。
それでも感情を出すのは状況を不利にするだけと気合いと根性で殺気を抑えてポーカーフェイスを貫くプロイセンの目の前でフランスがハッとしたようにイタリアを振り返った。
「…まさか…アリスちゃんて坊ちゃんだったり?!」
と一番到達して欲しくない答えに到達するのは、この流れだと当たり前の事である。
「なんだい?イギリスが女装してるのかいっ?!」
と、アメリカがさらに言って欲しくない事を言う。
ああ…終わった……
これどう介入するべきだ?
と、クルクルと脳内で考えていると、イタリアは相変わらず呑気な様子で
「ん~…半分は当たりで…半分は外れ?」
と、唇に人差し指で触れて小首をかしげた。
「どういう意味?」
とフランス。
それにイタリアは言う。
「えっとね、正確に言うと、アリス=イギリスではないんだ。
アリスはイギリスの要素を入れてイギリスを模して作られた存在って言うのが正しい…かな」
そのイタリアの答えは本来状況を把握しているはずのプロイセンをも混乱させた。
「えっとね、この世界は神様から依頼された爺ちゃんの精神世界みたいなものなんだ。
だから…う~ん…ある意味この世界では爺ちゃんが神様なんだよ。
で、今回ね、爺ちゃん下界覗いてて、イギリス好きなのかな~って感じの国がいるのが面白くなっちゃったみたいでね、イギリスだけ呼ばずにアリスを造ったんだ」
「ん~まあ面白がりのローマ爺らしいけど…それどういう意味あるの?」
と、自身もローマに育てられたフランスが聞くと、イタリアはニコリとプロイセンに視線を向ける。
「…?俺様に何か?」
「ん。プロイセンさ、今回アリスにすごく信頼されてるし懐かれてるでしょ」
「…あー…まあ、そうだな。頼られてるな」
「それってね、直前の会議でプロイセンがイギリスかばってイギリスのプロイセンに対する信頼がすごくあがってるせいなんだ」
「わかったっ!つまりアリスは坊ちゃんの今現在の対人好感度で態度が変わるってことね?」
「そういうことっ。
逆はないから、ここでアリスの好感度があがってもイギリスの好感度があがったりはしないけど、アリスは基本的にイギリスの性格とかをそのまんま模してるし、アリスが喜ぶような事はイギリスも喜ぶし、アリスが嫌がるような事はイギリスも嫌がるから、イギリスの好感度をあげたいと思ったらどんなことをすればいいかが、アリスといるとわかるようになってくるよね。
しかも失敗してもこの世界でのアリスの好感度が下がるだけで、現実のイギリスには影響しないから安心だし」
「それはおかしいんだぞっ!」
と、フランスも納得のイタリアの説明にアメリカが大声で異議を唱えた。
「じゃあなんでアリスは俺に邪険にするんだい?!
イギリスは俺の事大好きだぞっ!」
ああ…殴りたい……と、思ったのはプロイセンだけではないと思う。
正面に座るフランスもヒクヒクと口元を引きつらせている。
だが、そんな2人のもやもやも、続くイタリアの発言で吹き飛ばされた。
「うん!おかしくないよっ!
だってイギリスがアメリカにかまうのは、過去に育てたって記憶があるからだからさっ。
アリスにはそれがないから、全ての国に対するしがらみを全部取っ払った好き嫌いが出てるから、アメリカに対する評価は毎回毎回注意するたびにくたばれとか暴言吐く相手ってだけだから、それじゃあ好意は持たないよねっ」
実に良い笑顔で空気など読む気はありませんとばかりに断言するイタリア。
可愛がられて育てられて実はメンタル打たれ弱いアメリカは涙目で口をぱくぱくしている。
それに対してもさらに空気を全く読まず
「たぶん、アリスがなんとなく嫌悪感を感じる国ナンバーワンなんじゃないかなっ」
とトドメを刺すイタリアに、プロイセンはさすがにアメリカが気の毒になった。
そしてイタリアは返す刀で…とばかりにフランスに言う。
「もしかしてフランス兄ちゃんも最初アリスにすごく警戒されてたでしょ」
と、それまでアメリカの事を笑っていたフランスはギクっと身を固くした。
それにどことなく満足げに微笑んで、イタリアはまたプロイセンに視線を向ける。
「でも…今はそうでもないよね?」
と、それは自分に向けられているのだろうと頷くプロイセン。
そこでイタリアはまたフランスに視線を戻した。
「それはね、最初の新密度が低くても、その後“イギリス“が好感を持つような態度をアリスに取り続けたことで、新密度があがったからだよ。
つまり…現実でそういう態度を取り続ければ、イギリスの好感度もあがるってことなんだ」
「ふ…ふ~ん…?」
興味なさげな応対をしていても、悪友のプロイセンにはフランスがかなりそれを気にしているのは手に取るようにわかる。
そして涙目なアメリカも……
そんな2人に全く構う事なくイタリアは
「爺ちゃんね、今回のこれ楽しかったらしくてね、またやりたいって言ってるから、今度は俺も早い時期にアリスに会えるように爺ちゃんにお願いしようかなぁ~」
と、最後の最後まで空気を読まない意味不明な台詞で締めた。
もちろん主旨を知っているプロイセンは、うまくまとめたな…と感心する。
アメリカはおそらく過去の事がなければ自分は嫌われてしまうのだと危機感を持っただろうし、次もあると言われればそこでアリスにさらに邪険にされればさらに嫌われ度が増したと思って怖い。
だから現実世界のイギリスへの態度を改めるだろうし、フランスは全くわからなかったイギリスの好感度がアリスの態度わかると知れば、それを上手に利用して現実の好感度をあげようとするだろう。
現実のイギリスと違って良くも悪くも過去の確執がなく、照れ隠しなどもない、本当にわかりやすいイギリスの好感度をはかる手段。
それをあげるために…または下げないように必死になる2国の姿が目に浮かぶようだ。
「まあ…魔王はね、ヒーラーなしじゃ勝てないし、今回はプロイセンの勝ちかな?
お願いはね、一応あちらの世界に大きな影響を与えない範囲の事だからね?
言わないでもわかってるよね?」
と、ニコニコと最初の条件をさりげなく当たり前に覆すイタリアの言葉にも、イギリスの好感度がわかるという話の前に全く聞いてないフランスとアメリカ。
もちろんプロイセンはどちらにしてもそのつもりだったので
「ああ、わかってる。
こっちの世界の普通のヌイグルミを現実世界に持って行く程度の願いならありか?」
と、聞いて
「それぐらいなら大丈夫だよ」
と了承を得てホッとする。
小さな約束ではあるが、イギリスとの約束だ。
出来れば守ってやりたい。
「んじゃ、そう言う事で。
とりあえず2,3日中にはサクっと魔王倒しに行くぞ」
と、それはフランスに言って、プロイセンは立ち上がった。
これでスペインの願いの方の問題も解決する気がする。
全てはめでたしめでたしだ。
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