策士は嵐の後にほくそえむ
「なんか…たいして演技なんか出来なかったのにばれなかったみたいだな。」
泊まっていくのなら(一応)一つのベッドで寝ている寝室くらいは見せてやろうかと思っていたのだが、意外に早くダウンしたらしいアメリカは、日本と共に昼食後早々に帰っていった。
並んで洗い物をしながらホっと息をつくイギリスは可愛い。
これも当然ながらスペインが選んだ繊細な感じのエメラルドグリーンのエプロンがよく似合っている。
ちなみに…スペインのほうは普通のシンプルで厚手の黒いエプロンだ。
「そりゃあ…付け焼刃やなくて、普段からスキンシップとっとるから自然に見えたんや。
もともとアーティーはベタベタするほうやないから、それ許しとる時点で特別な感じするやん。」
と、スペインは横を向いてまたチュっとイギリスの額に口付ける。
「あ~…そうなのか。最初はラテン男はスキンシップ過剰だなと思ってたんだけど、そう言われてみればそういうの効果あるよな~。」
すでに慣れすぎてしまってキスをされても全く当たり前に気にせずに、イギリスは心底感心したようにうなづいた。
そう…慣れてしまっているという意識すらすでにない。
そのことにスペインは内心ほくそえむ。
これがそのうちスペインが居ないことに不自然さを感じるように変化してくればイギリスの方は完璧だ。
あとは邪魔者を一掃すれば楽園に手が届く。
「次はフランあたり招いたるか」
さりげなくスペインが提案をしてみると、イギリスは案の定
「はあ?ヒゲ?なんで?」
と眉をよせた。
「自分の交友関係、あとフランあたりが信じれば疑ってくるもんおらんやん。
いつバレるか思いながらビクビクして過ごすの自分もしんどいやろ?」
邪魔者を早々に排除したいのはスペインの方も同じなのだが、そんなことは知らないイギリスは、スペインが自分よりもイギリスの方の心情を慮って、優先してくれることに感動したようだ。
もちろんそうは言わないものの、耳まで赤く染めて隠し切れず緩んだ口元と少し潤んで揺れる瞳が言葉より雄弁に気持ちを物語っている。
「お…お前がどうしても招きたいなら…いいぞ。」
と、言葉は素直ではないものの、スペインがイギリスのその細い腰を引き寄せ
「おおきに。じゃ、あとで今月のスケジュール教えたって」
と、目元に唇を寄せると、
「…うん…」
と、少し嬉しそうに顔を綻ばせるのが犯罪的な可愛らしさだ。
ああ、早く全てを手にいれたい…
しかし焦りは禁物だ。
ゆっくりゆっくり甘やかして、下準備は万全に。
そして…いつか…全てを頂きます。
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