新婚夫婦
「イギリス…君、結婚したからって我慢しなくていいんだぞ?
嫌になったら別れればいいよ。
寂しかったらしばらくはヒーローの俺が休み取って君ん家にいてあげてもいいんだぞ。」
日本と二人招きいれられた居間で香り高い紅茶と美味しそうなクッキーを前に、食いしん坊な彼にしては珍しく何にも手をつけず、アメリカは正面のソファに並んで座る家主夫婦の顔を交互に見ながらそう言った。
「あ、アメリカさんっ!!いきなり何をっ!!」
いきなりのストレートな暴言に日本は慌てるが、当のスペインは気を悪くする風でもなく、
「嫌になったらって…結婚祝いに来ていきなり言う言葉やないで~」
と、苦笑すると、隣に座るイギリスの肩を抱き寄せた。
「イギリスにベタベタしないでくれるかいっ?」
そこでピキっとアメリカのこめかみに血管が浮き上がるのに満足げな表情を浮かべるところを見ると、実は確信犯かもしれない。
「そんなこと言われたかて…おれら新婚やしな~」
ちゅっとリップ音を立ててイギリスの頬に口付ける仕草は実に自然で、何よりイギリスの方も少し気恥ずかしげにはするが、それを拒む様子がないのに、日本はさすが欧米の方は違いますねぇ…と、ほぉ~っと感嘆の息をついた。
「やめなよ、イギリスが嫌がってるじゃないかっ!」
と、テーブル越しに乗り出しかけるアメリカを、慌てて止める日本。
「べ、別に嫌がってないぞっ!結婚したんだしなっ!」
と、イギリスも慌ててそう主張する。
羞恥のあまり真っ赤になっているのがなんとも初々しくも可愛らしくて、日本はアメリカを押さえるのに手が埋まっていて、カメラをもてないことに臍をかんだ。
「嫌がってへんて。な~、アーティー。」
実に嬉しそうにイギリスの頭を引き寄せて今度はつむじに口付けを降らせ始めるスペインに、アメリカが爆発した。
「イギリスっ!なんの弱み握られてるんだいっ?!言いなよっ!俺が助けてあげるからっ!!」
「なんでそうなるん?」
と、あきれたように首をかしげるスペインに向かって、アメリカはピシっと指をさした。
「決まってるじゃないかっ!君達は今までどちらかというと仲が良いほうじゃなかったからおかしいと思ってきてみれば、イギリスは明らかに寝不足な真っ赤な眼してるしっ!
弱みを握って結婚なんて非道な事はヒーローが許さないんだぞっ!!」
勢い込んで言うアメリカに、日本は無言で赤くなり、イギリスは少し動揺したように眼をそらせる。
そしてスペインは……
「あんなぁ…」
と、苦笑した。
「寝不足は…うん、親分が悪かったわ。いくら新婚やって言うても、お客さんくる前日くらいは無理させたらあかんわな。」
「うあぁああ!!何言いやがるっ!!」
と、それに瞬時に真っ赤になったイギリスが反応して、慌ててスペインの口を手でふさぐが、スペインにそこでペロリと手のひらを舐められて、ひゃあっ!と悲鳴を上げて慌てて手をひっこめた。
「しゃあないやん。アーティー可愛すぎやねんもん。
しかも数百年ごしの想いがかなってようやく結婚してまだ1週間やしな~。
我慢なんてできひんわ~」
照れもなく言うスペインに対し、イギリスは真っ赤だ。
「ち、違うからなっ!俺はそんなことして…」
「してへんの?」
必死に弁解しようとするイギリスに、スペインはにやにやと聞く。
「あ…え…っと……」
ここでしてない…性交渉が無いというのは、普通の夫婦としてはありえないんじゃないだろうか……。
恥ずかしすぎて死ねそうなのだが、ここでばれたらなんのために結婚までしたのかわからない。
「……してなくはない……けど……」
と、イギリス的には言うしかない。
羞恥で真っ赤になる様子が、なまじ堂々とやっているというよりもリアリティがあって、アメリカは呆然と口を開いてほうけた。
日本は…もちろんもう大人しくなったアメリカから手を離し、恥ずかしさのあまり真っ赤な顔をして涙目なイギリスを抱き寄せて、
「堪忍な~。親分が悪かったから泣かんといて~。」
と宥めているスペインにカメラを向けていた。
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