フェイク!2章_2

フェイク・フェイク

イギリスは意外に朝に弱い。
いや、正確に言うと夜遅くまで仕事に没頭しているため、万年睡眠不足というのが正しい。

からかわれて怒ったり、美味しいものに顔をほころばせたり、意地の悪いことを言われて眼を潤ませたり…クルクルとよく変わるどんな表情も可愛いと思うが、このすやすやと無防備に眠っている顔が特にスペインのお気に入りだ。

本当に可愛らしい。
めっちゃ守りたくなる感じだ。

毎朝この寝顔を見られるだけでも結婚した価値は十分にある。


アントーニョ・ヘルナンデス・カリエド…彼は1週間前に最愛の伴侶を手に入れた。
ただし……偽装結婚という手段を使ってだ。





時を遡ること1ヶ月前…スペインとプロイセンは悪友のフランスの家で飲み会をしていた。
この3人が宅呑みをする時はたいていフランス宅になる。
つまみが美味しいとか、ちょうど中間地点にあるとか、色々理由はあるのだが、スペインがこの家を一押しする理由は、ひそかにイギリスに関する物があったり、運が良ければ本人が訪ねてきたりするからだ。

ずっと好きだった。
それこそフランスの家でまだ幼いイギリスに引き合わされた瞬間から欲しくて欲しくてたまらなかった。
その思いを抱えたまま早数百年。
そろそろ爆発しそうな思いをなんとかしたいと思うものの、きっかけがない。

それでなくても自らに対する好意を信じないイギリスだ。
かつて敵対したまま現在も領土問題を微妙に抱えているスペインの求愛などちょっとやそっとじゃ信じてくれそうにない。

口説き続ける自信はあるのだが、そうこうしているうちに自分が口説いていることで焚き付けられてライバルが出現しないとも限らない。
主に某メタボとかメタボとかメタボとか……

二人きりになることが多いほど親しいならまだしも、普通以上に距離が開いてしまっている時点で、誰にも気づかれずに口説き続けるのも無理がある。
お手上げだ。


こうしてスペインは日々フランスの家に通ってチャンスを探していた。
そしてその日そこにアポなしで押しかけてきたのは某超大国。

「あ~、アメリカ悪いけど今日は先約が…」
と、ドアのところで応対しているフランスに、自分が法律の若造は
「ああ、用件さえ済めばさっさと帰るんだぞっ!俺も暇じゃないからねっ。
居間があいてないなら客室でいいんだぞ!」
と、止める間もなくズカズカと家の中に上がりこんでいた。


こんな傍若無人な態度の若造にイギリスを取られるなどまっぴらごめんだ…と、その態度にムカムカしながらも、とりあえず自分の家ではなく実害はないのでギルベルトと一緒に酒を飲み続けていたスペインは、プライベートの家で防音設備などないために隣室から聞こえてくる大声に、思わず耳を傾けた。


『今度君の家で会議があるだろ?その日にプロポーズしようと思うんだけど、良いレストランを教えて欲しいんだぞっ!
二人の最初の思い出になるわけだから、とびきりの場所をねっ』

ずいぶんと浮かれた口調で言うアメリカに、フランスがため息まじりに返す。

『あのね…一応聞くよ?プロポーズは誰に?それがないと勧めようがないよ?』
『フランス、君、馬鹿じゃないのかいっ?それとももうボケた?
俺がイギリス以外の誰にプロポーズすると思うんだい?』
『いや…ほら、お前がずっと坊ちゃんのこと好きだったのは知ってるけどさ、一応ね…諦めて他に素敵な相手を見つけた可能性とかさ…』
『あるわけないだろっ。なんで俺が彼を諦めないといけないんだい?イギリスは俺のこと大好きなのに』


その言葉にスペインが思わずグラスを持つ手に力を入れたら、繊細なグラスがパリっと割れた。

『イギリスは俺のこと大好きなのに』…だ?

ああ…腹がたつ……
自分が数百年もの間ずっと喉から手が出るほど欲しかったものを当たり前に得ているのに、その“好き”という気持ちに感謝もせず、大事にもせず、その上に胡坐をかいて、それが永遠に続くものと微塵も疑わない。
それがどれだけ価値のあるものかも考えずに否定し続けてきて、今更!!
それから先の会話は脳内怒りがぐるぐるしていたため聞いていなかった。
なんとか告白を阻止しなければ…とそればかりが頭の中を占める。
そんな風に頭が沸騰しているうちに、ずいぶんと時間がたったらしく、アメリカは帰ったらしい。

やがてギルベルトが甲斐甲斐しくスペインの手を手当して、血やガラスの欠片を片付けて、ようやく落ち着いた頃に肩を落としつつフランスが戻ってきた。

そこには手に包帯を巻いてイライラしたスペインと困ったようなギルベルト。
そんな悪友達にフランスは少し眼を丸くした。

「なに?どうしたの?」
「いや、ちょっとスペインがグラス割っちまっただけ。片付けは終わったから呑みなおそうぜ?」
フランスとスペイン…二人それぞれ様子がおかしい中、プロイセンは場をとりなすが、フランスは大きくため息をついて頭を抱えた。

「あ~、もうどうしようかなぁ…」
ソファに力なく座り込むフランスに、プロイセンは
「アメリカの告白のことか?」
と、聞こえていたことを隠しもせずに聞く。

それに対してフランスも気にすることもなく、あ~やっぱり聞こえてた?と返しつつ、グラスにワインを注いだ。

「もう聞こえてたなら言っちゃうけどさ~、あの子ずっとイギリス好きなのよね~。
イギリスの元から独立したのもそれでさ。弟じゃなくて一人の男としてみて欲しいってやつ?」
「ああ。でもイギリスは別に保護国じゃなくなっても自分が育てた子どもには変わんねえってやつだろ?」
プロイセンがそう引き継ぐと、フランスは大きくうなづいた。

「そうなのよっ。イギリスがアメリカ好きなのは確かなんだけどね、それはあくまで親愛で、恋愛的な意味じゃないのよねぇ…。告白して失恋までは仕方ないとしても…お兄さんの家ではやめてっ。絶対にあの子振られたあとうちに来て荒れる気がするっ!!」

そういってまた頭を抱えるフランスに、
「気がするってより…確実にここで荒れるな。賭けてもいいぜ。」
と、プロイセンがニヤニヤ笑って止めを刺す。

「ちょ、お前友達甲斐なさすぎじゃないっ?!せめてその日一緒にいてやろうか?くらい言えないのっ?!」
と、白いハンカチをかみ締めるフランスに、プロイセンは
「あ~、もうしょうがねえなぁ。優しい俺様もその日はここでつきあってやるよ。」
と、はいはい、と、笑う。

ぷーちゃん…なんて男前っ!と、感動に眼をウルウルさせるフランス。
そしてそのあと流れでスペインにも眼を向けた。

「もちろんスペインもだよね?」
と、当然のように言われて、スペインはようやくハッとわれに返った。

「あ~堪忍。その日親分約束あんねん。」

まだ予定は未定だが…なんとなく見通しが立ってきた気がした。
求婚を断りたいイギリスに、断る理由を提供してやればどうだろう……?
心(中身)を信じてもらえないならまず形から始まる関係があってもいいかもしれない。
変化を嫌うイギリスのことだ。
永い時を共にすれば、始めは仮だったとしてもどんどん固まって正式な日常に思えてくることも十分ありうる。

ようは…きっかけ一つだ。

「ほんま堪忍な。どうしても外せん大事な用事やねん。今度埋め合わせするわ。」
と、珍しく神妙に謝るスペインに、悪友二人不思議そうな顔をしてはみせたが、すぐ
「まあ俺様がいれば大丈夫だから気にすんな」
「まあいざとなればぷーちゃん盾に逃げるから気にしないでいいよ」
と、うなづいた。

「おいっ、お前最初からその気かよっ!!」
と、そこから二人のやりとりが始まるのをスルーして、スペインはイギリスとの一番近い会議のスケジュールを確認した。





こうして世界会議の1週間前、スペインはイギリスにプロポーズした。

愛しているから…などと言ったら速攻脳内から消されることは目に見えているので、飽くまで便宜上という形を取る。
もちろんそれでも断られるわけだが、それは想定の範囲内。
本番は一週間後だ。

そして1週間後。
思ったとおりイギリスはスペインのプロポーズを受ける旨を告げてきた。
理由は言わなかったが、スペインはわかっているので敢えて聞かない。

ただ考え直す間を与えないように、入籍とお披露目までを急いで済ませた。
実にプロポーズしてからOKを貰うのに1週間。
その後籍を入れて一緒に住み始めるまでに1週間。
計半月の超スピード婚である。


こうして一緒に暮らし始めて、スペインはあらためて自分達の相性がいい事を発見する。
スペインが相手にしてやりたいことは、すなわちイギリスがして欲しい事な時が非常に多い。

情熱の国だけあって普通の人間なら引いてしまうレベルであふれ出てしまう愛情を、愛情にずっと飢えて育ったイギリスは喜んで受け取った。
もちろん素直に…ではないのだが、その、欲しいのに欲しいといえない、嬉しいのに恥ずかしいのか嬉しさを隠そうとするのだが隠し切れない…そんなところもむしろ可愛くて仕方が無い。

美味しいものを作ってやればリスのようにほむほむと頬張りながら、
「まあまあだな。」
とそっけなく言うくせに、眼はキラキラとおかわりの皿に注がれていたり、頭をなでてやれば馴れ馴れしいと言いつつ、それでも手をどけるどころか、無意識に少し手にすりよってくる。

一応偽装という事になっているので、性交渉はないものの、大の大人が3人くらいは余裕で寝られるほどの大きなベッドの端と端で眠って朝を迎えると、これも双方無意識なのだろう…スペインの懐に潜り込むようにしてイギリスが眠っていて、スペインが起きようとするとむずかるように胸元にすりすりと額をこすりつける。
最初の日にこれをやられた時には、可愛さのあまり危うく叫びだすところだった。

もちろん朝にこういう状態になっているという事は、熟睡中のイギリスは知らず、スペインだけの秘密である。

さらに人間関係が希薄なせいで人との距離感に非常に疎いイギリスは、夫婦は普通そうするものだ…という言葉にも弱く、あっさり騙されてくれるため、朝はまるで小さな子どもにするように、あ~んとスプーンを持ってイギリスに食事を食べさせれば食べてくれるのだ。

こうして結婚して1週間。
数百年もの年月をかけてスペインの心の日記帳に書きためてある『イギリスと一緒になれたらやりたいことリスト』にリストアップされていることがどんどん叶っていった。
、 

そして今日、そのうちの一つがまたかなうことになる。
『自宅に客を呼んで夫婦として客をもてなしたい』

それは同時にライバルに対する牽制の意味もあったし、さらにいうなら日本に見せればいやでも自分達の仲を世界中に広めてくれるだろうから偽装と疑われる可能性をなくすためとイギリスにいい含めて、思い切りいちゃいちゃできる良い機会にもなる。

色々な意味でスペインにとって、今回の日本とアメリカの来訪は重要な意味合いを持っているのであった。



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