オンラインゲーム殺人事件_ユート_13章

殺人者の魔手(26日目)


なんかダルい…。

もうさ、1億の賞金とか考えだした馬鹿どこのどいつだよ。
これさえなきゃ今頃同じパーティーの仲間~みたいな感じでみんなでリアルで会ってたりしてさ…コウは当然彼女持ちなわけだから、俺は楽しくアオイと~みたいな事になってるかもしんないのに。
遠くの1億より目の前の彼女っしょ、やっぱりさ~。
つか、もうエンチャ選んだ時点で1億ありえねえんだから、平和にして楽しい平凡な道歩ませろよ。



なんつ~か…自分の凡人さ加減と今現実に起こってるドラマみたいな出来事とのギャップとか諸々…ついてけないっつ~か…。
せめてコウみたいに武術の一つでもやってて腕に覚えありとかならちょっとしたヒーロー気分にもなれるんだろうけど、マジ絵に描いたような普通の高校生じゃドラマだったとしても良くて脇役、悪けりゃエキストラってなもんよ?
せめて夏休み終わる前にゲーム終わってアオイに会えないかなぁ…。
彼女持ちになって新学期迎えたいってのは贅沢かね?
そんな事を考えながら暇つぶしにPCゲームをやってると鳴る携帯。
アオイだ~♪!
「もしもし?」
もう思い切り浮かれて出ると、いきなり男の声…。
「もしもし?ユート?とりあえず今アオイと○○公園の東口にいるんだけど…俺がアオイ殺しちゃう前に来てくれるとありがたいなぁ…」
誰だ…コイツ…まさかっ?!
いきなり馬鹿な寝言聞かせられて血の気が引く俺。

「ほぃ、アオイ。ユートにとりあえず助けて~だなっ」
と、電話口でおそらくアオイに言ってるんであろう台詞を聞いた瞬間確信した。
アオイが…犯人に拉致られてる!
おかしな事…されてないよなっ?!
妄想してる場合じゃないんだけど…嫌な妄想がちょっと頭をかすめたりして…。
「やだっ!」
と、案外しっかりしてるアオイの声に、まあ今の所は何もされてないのかもと安心しつつ、でもこれで犯人に刺されたりしたらどうすんだよっ、助けくらい求めておけよとも思う。
犯人は幸いそれでいきなりキレて刺したりとかはしなくて
「とりあえず…あちこち切り刻まれて死ぬより良くない?
言う事きかねえなら楽には死なせねえけど…」
と、警告するにとどめているようだ。
アオイ、いいから助け求めてよ…って思ってたら、ようやく小さな小さな声で
「……たす…け…て」
とつぶやいた後、口にしてしまった事で少し気が緩んだのかあとはだ~っと
「コウに殺されちゃうよっ。犯人コウだったんだよ!」
と、口走る。

こっ…の~!!よりによってコウ騙ってやがんのかっ!この犯人!!
ちょっとムッとする俺。
たぶん…俺とコウが面識あるなんて知らないんだろうな、犯人は。
アオイの言葉に満足げに
「ま、そういう事だっ。期限は1時間なっ。それ過ぎたり察連れてきたりしたら、とりあえず切り刻むからっ」
と、宣言した。
「俺が行くまでは…絶対にアオイに手出すな…。でないと本当に警察呼ぶからな…」
と俺が言ったところで電話が切れる。

アオイが拉致されてるって事はいきなり警察はまずいよな…。
もう…勇者呼んでしまおう!
警察より怖いぞ!…たぶん…。
俺は迷わずコウの携帯に電話をかけた。
俺が電話で事情を説明すると、コウは来る事はもちろん了承してくれて40分くらいで指定された公園に着くから待ち合わせようと提案してくる。
だけど遅れれば遅れるだけアオイが一人で心細い思いするからと、俺は先に行く宣言して電話を切った。

たぶん…俺もつくの30分後くらい…で、まあなんというか…コウが来るまで10分くらいはなんとか持つんじゃね?という…なんつ~か…一緒に行くと比べられても嫌だなとか…まあ姑息な考えだったり…。

勝てないもんなぁ…どう考えても…。
まあ…コウの方は全然そんな事考えてないっつ~か…はっきり言って興味なしなんだろうけど。

相手は頭良くて顔良くて身体能力高くて名門進学校行って生徒会役員までやってて主な武道の有段者。
おまけに性格も良いと来た。
これだけ揃ってる出来過ぎ男なくせに全然自分がすごいと思ってなくてひけらかす事もしない。
むしろ逆に普通に多少空気読めるだけなのに、その一点のせいで俺の方がすごいとか思ってるっぽいし。
無知の知ならぬ知の無知って感じだよな。

一般ピープルな俺が勝てるはずない…。
せめて体くらい張らないとな…。

俺が公園に着くと犯人から再び指示。
東口から中央に進むとある公衆トイレに向かえって?
俺は迷わず進む。
そしてトイレ前に来て…うっあ~って思った。

本気でアオイだよっ!
ずる賢そうなニキビ面にナイフを突きつけられて立っているのはまぎれもなくあのキャラのままのアオイ。
もうあれだな、ジョブは適当でもキャラの容姿は多分思い切り時間かけて作ったんだろうな~。

俺の姿を認めるとアオイは何を思ったのか小さく笑い出した。
そのまま笑い続けるアオイ。
ちょっと心配になってきた。
怖すぎて…壊れちゃった?
変な事とかされてないよな?
両手をガムテープでぐるぐる巻きにされてる他は特に着衣の乱れもないし、怪我してる様子もないけど…。

「アオイ…大丈夫?」
おそるおそる聞いてみると、なんだか不意に現実に引き戻されたみたいで、今度は
「ごめん…ユートごめんね…」
と泣き出した。

本気で怖かったんだろうな…。
震えながら泣くアオイに、俺は
「大丈夫。大丈夫だからね、アオイは悪くないから。」
と少し微笑んで声をかける。
「大丈夫だからね。」
俺は泣き続けるアオイにもう一度声をかけた後、とりあえず戦意のない事を示す為に両手を上げて犯人に視線を移した。

やばいな…。コウに東口としか言ってない。この場所…わかるかな…。わかんないよな…。
こうなったらアオイだけでも逃がしてやらないと…。
「提案なんだけど…一億円取るの協力させるから…アオイだけは解放して?」
たぶん…つか絶対にそれが目的なんだろうから、そこから交渉に入るか、と、俺は犯人に提案した。

「馬鹿じゃねえの?お前。シーフに協力させてどんだけ役にたつんだよ」
犯人は勘違いしたらしく笑う。
俺だっていくらなんでもアオイに協力させる条件じゃ動かないのはわかるよ。

そこで俺は一か八かの賭けに出た。
「協力させるっていうのはアオイにじゃないよ。コウにだよ。
今たぶん一番魔王に近いのはプリースト付きのベルセルクのコウだろ。
だから俺がゲーム終了までアオイの代わりに人質になってコウに魔王倒さない様に交渉する。
魔王倒すまで俺をどっか人目のつかない場所に放り込んでおけばいい。
コウは絶対に俺を見捨てて一億取ったりするやつじゃないから、そうしたら確実に一億取れるよ」

これで…交渉に応じてもらえればアオイはとりあえず無事。
俺もこいつが魔王倒すまではとりあえず生かされてるだろうし、運が良ければ助けがくる。
つか、コウが必死に探し出してくれるはず。

「顔見られてんだ。一億手にしたって捕まっちゃ意味ねえだろっ。」
犯人のこの言葉でとりあえず一億目的なのは決定。
あとは…交渉しだいだ。

「これまで何人も殺して手を汚してるのに…一億をコウに持ってかれて終わっていいの?」
俺の言葉に犯人は言葉に詰まった。迷っている…あともう一歩だ。

「姫は…ある意味他人の話一切聞いてない子で、さらに言うならコウを妄信してるから、騙してコウから引きはがすの無理だよ?
そしたらもう誰を殺しても絶対にコウには勝てないよ?
コウは…俺らと違って不用意に誘い出されたりする奴じゃないしね。
それなら一億もらって海外逃亡でもした方がマシじゃない?」
さらにたたみかけると、犯人は悩んだ挙げ句、ようやく
「ふん…話はわかった。確かにそうだ…」
と、口にした。
やった~!とホッとして
「じゃあっ…」
と言った俺の言葉をさえぎって、犯人は最終判断を下す。

「二人とも人質だなっ。」
「…!」
「我が身可愛さに男売る様な女だしな。また裏切らないとはかぎらねえ」

こいつ…!
普通の女の子がこんな知らない怪しげな男にナイフちらつかされてどれだけ怖かったかなんて本気でわかってない!アオイだって単なる損得だけだったら絶対に俺を呼び出したりしなかったんだ!!
とにかく腹がたった。
「アオイは裏切ったりしないっ!人質は俺だけにしろよっ!アオイを解放しないなら俺は交渉しないっ!」
カ~っと頭に血がのぼって怒鳴りつけると、男は逆に平静に
「んじゃ、二人ともここで仲良く死体だな。」
と、冷徹な口調で言い放つ。
クッソ~!
「ユート…もう…いいよ。もういいんだ。ユートと一緒なら怖くないよ。」
その時アオイが俺を見てちょっと疲れたように力なく微笑んだ。
結局…体張ったところで俺はアオイ一人逃がせないんだな…なさけない…。

「交渉成立だなっ。というわけでまずは車にご~だ。ユート、前歩け」
俺が黙り込んだ所で決定とばかりに男が言って俺を促した。
たぶん…これ以上の交渉の余地はないんだろう。
俺はあきらめて男の前に立つ。
おっ…男がアオイの首に当ててたナイフを俺の背に当てた!
「逃げてっ!アオイっ!!」
俺は次の瞬間振り返って男を突き飛ばした。
男は体勢を崩して一瞬ひるんだが、俺にナイフを振りかざす。
咄嗟に身をかばった腕に痛みが走った。
うあ…すっげえ血!つか痛てえ!!
一瞬俺も腕の痛みに硬直したが
「ユートッ!!」
と言って駆け寄りかけるアオイの声でハッとした。
「いいからっ!警察呼んできてっ!!」
ここでアオイ逃がせなきゃ痛い思いし損じゃん!
俺の言葉に一瞬アオイは迷ったけど、クルリとまた後ろを向いて出口の方へ向かって駆け出した。
俺は犯人を少しでも邪魔しようとタックルをかけて転ばせる。
でも自分も転んで一瞬腕の痛みで硬直してる間に、無傷な犯人が起き上がってアオイを追って行った。
クッソ~!俺って本気で役立たず。

なさけねえなぁ…ホントに。
コウみたいに武道やってたら犯人なんて取り押さえられたのかもしれない…。
正直…こんな風に非日常的なドラマみたいな場面にぶち当たって改めて自分が本当に平凡な高校生なんだって思い知った。
つか…アオイが拉致られるまで頭ではわかってても、感情的にはなんとなくこれが現実って受け入れきれない自分がいたんだよな…。
今も…走って追いかけるべきって思ってるのに痛すぎて歩くのがやっと。本気でなさけない…。
アオイに何かあったら絶対にあの時走って追いかけておけば良かったって後悔するんじゃないかとか他人事みたいに思ってるくせに走れない根性無しの自分が嫌になる…。

いつでもそうだ…。
何か自分の中で言い訳して、本気で頑張ったりしてないんじゃないか…。
姉貴のせいとか言い訳して、本当は振られたら格好悪いとか思ってグズグズしてるうちに、良いなって思った子の方が他の相手に勇気出しててカップルになってて…。

腕の怪我とそんな暗い気持ちをひきずってそれでもアオイが逃げた方に歩いてってると、
「おい、生きてるか?」
と、アオイを連れた勇者が走ってくる。
そのまま俺の前までくると、コウはハンカチを出して俺の腕を止血してくれた。
たぶん…犯人いないところみると、勇者様が退治したんだろうな…
「コウが…アオイ助けてくれたんだ…ありがとう、助かった」
それでもなんとか笑顔を浮かべて言うと、コウは
「お前なあ……」
と呆れた声をあげたあと、まあたぶんコウの事だからその後にはまたバカかとかそういう類いの言葉つけたかったんだろうけど、一応怪我人相手だし、また飲み込んだんだろうな
「まあ…命に別状はなさそうで良かったな」
と、言葉を続けた。

「とりあえず…犯人のとこまで戻るぞ。救急車呼ばせておいたから」
コウがゲームの時さながらに、先に立って歩き始める。
犯人の所にはもうパトカーやら救急車やらが到着していて、警察が取り巻いている。
その場をしきっているらしきおまわりさん、コウの姿を見るといきなり声をかけてきた。
「あ、よりみつさん、お疲れさまです。救急車到着してます。」

…その場で一番偉いらしい警察官に敬語で話されちゃう人なわけね…。
俺達はコウにうながされてそのまま救急車に乗る。
そこでようやく落ち着いて、俺はとりあえず状況を確認した。

俺より少し遅れて東口に到着したコウは、とりあえず犯人の物かも知れないってことで路駐の車のナンバーだけチェックして、即公園のマップを確認。
車を降りて移動したんだろうと踏んで、俺を呼び出すのに何か目印になるものがある場所で、さらにアオイ連れての移動じゃ目立つから東口からそう遠くない場所って事で公衆トイレに当たりをつけて向かってる最中に犯人に追いかけられてるアオイと遭遇して、犯人を撃破&拘束、その後俺の様子を見にまたトイレの方に向かってる最中に俺と遭遇という事らしい。

この判断が…違うよな、すでに。
俺じゃあ東口に誰もいない時点で終わってる…。
ましてや万が一取り逃がした時用に車のナンバー控えるなんて事思いつくわけもない…。
もちろん…ナイフ持った殺人犯をホントに素手で撃破なんてありえんしな…。
マジ格好良いよ、コウ。…俺とは大違いだ…。

病院ついて俺は処置室に連行。
ずっと無言のアオイの事は気になるけどしかたない。
幸い…傷は広かったけど浅かったらしくて、そんなにたいした事はないぽい。
ま、範囲広いから包帯巻かれる範囲も広くて怪我人ぽい雰囲気はでてるけどな。

意外な事に…ネット上ではあれだけ揉めた二人だったんだけど、リアルだとまた違うらしい。
シン…とした廊下からアオイの楽しげな笑い声が聞こえてきた。
なんか…終わったかな…。
それでも重い気持ちを押し隠して治療を終えた俺は
「なんだか…たのしそうだね、何話してたの?」
と、何食わぬ笑顔で処置室から出て二人に話しかけた。

「ん~、とりあえずまあ俺の正体とか。それより傷平気か?深くはなかった気はしたけど」
それに対してコウはそう答えると自分が少しずれてアオイの隣の席をすすめてくれる。
「うん、傷自体は全然。大きいけど浅いからすぐ治るって。」
俺がそれに答えると、コウは
「な、言った通りだろ。」
と、アオイに少し笑いかけた。
…が、
「…ごめ…」
とアオイが急に泣き出す。

たぶん…広い範囲巻かれた包帯のせいですごい怪我に見えるからだろうなって思ってフォロー入れようとした瞬間、ため息まじりのコウの一言…
「……おい……なんとかしろ、ユート。俺なんかまずい事言ったのか?こいつ真面目にわからん…」
なんだかホッとした。
思わずクスクス笑いをこぼす俺。
なんだ、ネット内と変わんないんじゃん。

「コウは相変わらずだなぁ……女の子は色々複雑なんだよ…」
俺はやっぱりネット内と同様リアルでも調停役を演じる。
「ね、アオイ。実はね、俺あの時は確かに怖かったしまずいよなとは思ったんだけど、その一方でちょっと楽しみだったんだよ」
と、アオイの頭をなでながら笑いかけると、アオイは
「……楽しみ…?」
と、可愛い涙目で俺を見上げた。
俺はそのアオイに笑顔でうなづく。

「あの状況だしアオイが絶対に怖がるのわかってたから強くは言えないでいたんだけど…俺さ、アオイにすっごく会ってみたかったんだ。」
もう思い切り素直に本音をぶつけてみると、さっきまで泣いてたアオイの顔がパ~っと赤くなった。
可愛い。

「だからさ…あの時まず思ったのが、俺の所に連絡きて良かったなって事で…。
アオイに会えないままどんな子かわからないままアオイがいなくなっちゃわないで良かったなって思ってた。
コウとかからすると緊張感ってものが欠落した史上最大の大馬鹿野郎なんだろうけど」
とそこで俺がいったん言葉を切ると、コウが
「よくわかったな。」
と、お約束のツッコミを入れて、アオイが吹き出す。
なんていうか…ネット上では当たり前だけど見る事ができなかったコロコロ変わるアオイの表情…めっちゃ可愛い。

「でさ、アオイ、犯人が助け求めろって言った時、ヤダって言ったでしょ。
もうさ、あれ止めてくれ~って思った。
あれで殺されちゃうんじゃないかって思ってハラハラしたよ。
でもそれがアオイらしいなってちょっと思った。
で、現場行ってみたらホントにアオイってキャラのまんまでさ、おお~、アオイだ~って感心したよっ。
ジョブとか損得に関する事にはてんで無頓着なのに、キャラの外見はすごい時間かけて作ったんだな~そこがアオイだよな~とか裏で思ってた。」
って俺が笑うとアオイも
「私もユート見た時そうおもったんだけど…」
と笑った。

「コウもなんだけどさ…アオイもしっかりしてるようでいて、実は損得とか肝心なとこ全然計算してなくて…ハラハラするんだけど、逆に安心して信用できるっていうかさ…」
という俺の言葉にコウは即
「俺は違うぞ。」
と否定したけど
「コウさ、リアル明かさないとか言いつつ、自分そっくりのキャラ作ってるし…。
意味ないじゃん。初めて会った時さ、マジ笑ったよ?」
とからかってやると、
「俺は良いんだっ。」
と口をとがらす。
リアルスペック高くてもやっぱりコウはコウだなぁと思ってると、そこでアオイが口を開いた。
「やっぱり…二人リアルで会ってたの?コウ…私には駄目って言ったくせに……」
少し非難の目を向けるアオイにコウは肩をすくめる。

「お前が成り済ましメールでヘタ打った時にな。
ユートがリアルで連絡取れないとアオイに何かあった時に動けないから出て来いって強引に自分の特徴と待ち合わせ場所よこして、来ないんなら来るまで待つって言い張るんで…
ま、俺は親までいかなきゃ俺個人をつけまわされる程度なら返り討ちにする自信あるし。」

あ~あ、また地雷を…って思ってたらやっぱりアオイが泣いた。
まあ…客観的な事実ではあるわけだけど、そういう言い方されると自分のせいで…って気になって来るのがアオイ…っていうのをコウにわからせるのは無理かっ。

「おいっ…またか~~?!もうあれか?俺口開かないのが正解か?!」
思わずジワっとアオイの目に涙がうかんできたところで、コウががっくりと肩を落とした。
彼女いても女心にはとことん疎いらしいコウ。
本気で困ってるその様子がおかしかったらしく、アオイがクスっと笑いをもらすと、
「……今度はなんだ?本当にわけわからん女だなぁ…」
とコウはまたため息をつく。

まあ…彼女に似ているらしいお姫様へのネット上での態度見てると、彼女にはそういう言い方しないんだろうな。逆に…アオイをそういう意味で女と意識してないコウにかなりホッとする俺。
ま、それ以前に彼女いて浮気するタイプには見えんけど。

色々安心したとこで思わず笑みをもらしつつ、俺は
「女の子にそう言う言い方しちゃだめ」
と言った後、これ以上アオイを滅入らせない様に
「そう言えばさ」
とサラリと話題を変えた。

「結局犯人って誰だったの?本名わかんないあたりって来なくなったからって死んだかどうか確認できないし…コウ情報ないの?」
やっぱり…アゾットだったんだろうか…と思ってるとコウは意外な事実を明かしてくれる。

「ん~今はまだわからん。とりあえず…死んだの確定なのはゴッドセイバー、ショウ、メグ、エドガー、アゾット。
これは遺品からディスク回収してるから確定。
でもってな、今コネでアゾットの日記を見られるように手を回してるから。
一応証拠物件だから今すぐとはいかんが、近日中にはなんとかする。
だから核心についてはもう少し待て。
俺が知ってる限りの和は…あ、アゾットの本名な、早川和樹だから…すごく頭のいい奴で…絶対にある程度情報持ってたと思うんだよな。だから日記読めば少しは状況わかる気する」
まあ…色々つっこみどころ満載なわけなんだけど…何からつっこもうかと思って俺が悩んでると、アオイが先につっこんだ。

「コウって…リアル晒しちゃだめとか言いつつアゾットにまで会ってたの?」
…なんだか…それ聞いちゃいけない話題だった気がする…。
コウが少し視線をそらした。
ま、それでも答えるのがコウだけど…。

「本名でた時点でわかったんだけどな…同級生で…さらに生徒会で一緒だったんだよ。
俺会長で、奴は副会長。」
ようは…ダチだった?リアルの友人関係とかで死なれるとそりゃきついよな…。
「うあ…絵に描いた様な優等生?コウ。」
アオイも…こういう時にコウ並みに空気読まない子なんだよね…つか、空気読まない同士だからもめんのか。
そのアオイの空気全く読まない言葉にもコウはムスっと
「悪友がシャレで推薦しやがってな、そのまま間違って当選して押し付けられたんだ」
と口を尖らせて答えた。

コウもアゾットが死んでそれがリアル友人だと知るまでずっと、俺に話した様にアゾット黒幕でイヴ共犯て思ってたらしいから、今の時点では犯人の目星がついてないらしい。
まあ…犯人捕まったわけだし、今後来なくなった奴が犯人て事なんだろうけどね。


結局…魔王を倒したのはそれから3日後。
とどめ刺したのはなんとアオイ。
ほとんどコウが削ってたわけなんだけどね…俺が魔法かけ直し中にお姫様の近くに雑魚敵湧いて、コウがとりあえず魔王をいったん放置でその雑魚敵を片付けに走った所でたまたまアオイがプスっとやった一撃がトドメとなった。
もう本人もびっくりな結果だ。
魔王が倒されると強引に全員魔王退治お疲れさま~平和が戻りました~みたいな感じのテロップと共に、エンディングが始まって、あっけなくゲーム終了。
んでもって明日に祝賀会と賞金の授与式あるから迎えに行くという主催のメッセージ。
迎えにくる時間は多少人によって前後するから各自に直接メールで伝えるそうだ。

ふ~これでようやく終わったか~。
まあ…本気でお疲れだったよな。
結局事件後3日間、俺ら以外の参加者はほぼ姿が見えなかったんで誰が犯人かもわからずじまいだけど、それも明日になればわかるな。

とりあえずホッとしたらすっげえ気が抜けた。
こういう時が一番危ないんだよな…って思ったらちょっとコウの事が気になった。
ほとんど他人事感覚で言われるまま動いてた俺ですら気が抜けすぎてやばいのに、コウ平気かね…。
たぶん今回誰も頼れない自分だけが頼り状態で周り守って引っ張ってきたんだろうから、今頃倒れてたりしてかねなくね?
ま、命の恩人でもあるし…ちとお礼がてら電話かけてみるかな…と俺は携帯を手に取った。
5回くらいのコール音でつながる。
「もしもし?コウ?」
コウにしては出るのが遅くてちょっと心配になって言うと、電話の向こうからは本当に死にかけてんじゃないの?ってくらい疲れたコウの声。
『ああ、どうした?』
それでもまだ何かこっちの事情があるのかと思ってこうやって聞いて来るのがコウだよな。
これ…何か助けてくれって話だったら自分死にかけててもかけつけてくるかも…。

「やっぱ…ゲーム終わって脱力してた?」
思わず苦笑する俺。
こいつも…いくらリアルスペック高いっつっても考えてみりゃ俺らと同じ高校生だもんな。
それが殺人事件が次々起こる中、自分の身を守るだけならとにかく、意味わからず暴走する仲間を守って奔走してりゃ疲れもするよな。

「ごめんな。俺らが思いっきりおんぶに抱っこで振り回し続けてたから。ようやく終わったら気が抜けすぎて倒れてんじゃないかと思って心配になった。平気?」
と聞いてみると
『…ああ。』
と全然大丈夫じゃなさそうな声で短く答えた。

それでも大丈夫じゃないんじゃね?とかツッコミいれんのもなんだしな、
「そか、良かった。あとさ、お礼言いたかった。コウいなかったら俺もアオイも今頃死体だしさ、それ別にしてもあんな状況でもさ、コウと遊ぶのって結構新鮮で楽しかった。ゲーム終わってもさ、また遊びに行こうぜ。今度はアオイも姫も誘って4人でさっ」
ととりあえず礼を言う。

一瞬コウ無言。倒れてんじゃね?とか不安になった頃にいきなりポツリと口を開く。
『ユート…』
「ん?」
『ありがとう…』
はあ?なんでありがとう??
「へ?何が?なんでコウが礼いうんさ。逆っしょ。俺なんかやったっけ?」
もう考えんのも疲れてるんで直接聞いちゃえと思って聞くと、コウはさらに
『いいから言わせておいてくれ。』
と謎の言葉…。
マジよく意味わからん…。

まあ疲れてる所に長話もと思って適当な所で切り上げて、俺もベッドに倒れ込む。
は~、つっかれたぁ…。


Before <<<     >>> Next


0 件のコメント :

コメントを投稿