ジュリエット殺人事件G_8

一人ぼっちのジュリエットの見る夢は……


――ロミオとジュリエットはさ、悲劇だろ?だからジュリエットのお姫さんが悲しい恋の終わりを迎えるのもしかたねえよな。

俺様は悲劇の主人公になるつもりはねえし…
と、そう付け加えて微笑むギルは冷ややかで…なのに泣きたくなるくらい美麗だった。
キラキラと…周りにスターダストのような煌めきが見えるほどに…

寒い…
と、アーサーは白く染まる息を吐き出す自らの口元にやった手をこすり合わせる。

いつもならそんな風にアーサーが寒がっていたらきっと抱きしめて熱を分けてくれていたであろうその逞しい筋肉質な腕の中には勝気そうな赤毛の美少女。

たくさんの取り巻きがいるらしい女子高生…ネリー……

――やっぱりギルベルト君だって貧相な同性より可愛い女の子の方が良いわよね~
と寄りそうネリーの毛先が綺麗にカールした髪がふんわりと豊かな胸のふくらみを彩る。

同じ細いというのでもアーサーのように貧相なわけではなく、華奢で柔らかみを帯びた身体。
綺麗な長い髪。

まったく彼女の言う通りだ…と思う。
だから引き留める…という発想はわかなかった。

だって敵うわけがない。
相手が同性だとしても、見かけも貧相なら性格だって陰気な自分が誰かに勝てるような気は到底しないのに、ましてや相手はこんな風に可愛らしい女性だ。

敵うわけがない…
ギルが他に素敵な相手を見つけたのだと言うならアーサーに出来る事なんて、せめて自分と一緒に居た事が不愉快な思い出にならないように笑顔で礼を言って身を引く事くらいだ。

いつかそんな日が来るのだろうと覚悟はしていた。
その時が来たら最後くらい面倒でうっとおしい人間だったと思われないように、明るく笑顔で…
そんなシミュレーションを繰り返してきたはずなのに、涙があふれて止まらない。

そこで無意識に硬く握り締めていた手の中にふわりと現れる短剣。

――…壊してしまえ…
どこからともなく聞こえる声…

――…壊して捨ててしまえば、幸も不幸も知らなかった少し寂しいけれど穏やかだったあの頃に戻れる…

それは心の声だったのか、それとも……?
まるで気配なくいつのまにやら、ネリーの肩を抱いて立つギルの後ろへと移動している身体。
自分よりも少し上にある綺麗な銀色の髪の下に覗く白い首筋。

真っ白なそれを赤い血のリボンで彩ったらきっと綺麗だ…と、ぼんやりと思う。
ふりあげる手。
その手の中に光る短剣。

――さよなら…ギル……

涙でぼやけるその背中に声ならぬ声でそうつぶやいたアーサーが短剣を振り下ろした先は自らの心臓だった。

――だって…俺は人魚姫じゃない…ジュリエットだから……王子の方に剣を向けるって選択肢は始めから存在しないんだ……

誰にともなくそう呟いて足元から崩れて行く。

ガンガンと痛み始める頭…
ドンドンと不快な音が遠くから聞こえてくる気がする…。

ドンドン!
ドンドンドン!!
それは………


「お姫さんっ?!!!!」

あれ?
何故目の前にいるはずのギルの声が遠くから?
え????

(……夢…か…)

眠りながら夢を見て泣いていたらしい。
アーサーは濡れた目元をグイッとぬぐって、反応がないためかひどく焦った様子になってきたギルベルトの声に、慌ててドアに駆け寄った。




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