参戦
それは1人の女の意地から始まった………
「む~り~~!!!ぜぇ~~ったいに無理だからねっ!」
「なによっ!お姉様の言う事が聞けないって言うのっ?!あたしが馬鹿にされたままで良いって言うわけっ?!」
「良くないよっ!良くないけど……俺の範囲でなら協力するけど……」
「じゃあ協力しなさいよっ!海陽の生徒会長っ!しょっちゅう家に来てるあんたの友達なんだからあんたの範囲でしょっ!!」
「違うっ!!」
「違う?!友達じゃないわけっ?!」
「違うよっ!友達だけど…だけど……
姉ちゃんのばかああ~~!!!」
「あっ!待ちなさいっ!!!」
「…で?家出してきたわけか…」
そろそろ冬も近づく11月初旬の週末…
兄のギルベルトは夏休みに巻き込まれた殺人事件をきっかけに付き合い始めた恋人の家なので、ルートは1人ぎりぎりまで生徒会の仕事を済ませて学校を出た。
その兄の恋人は親が海外で1人暮らし。
さらに言うなら少々危なっかしい少年で、最近は休日前ともなれば兄は大抵そちらに泊まりに行っている。
だからルートも1人の週末には慣れたものだ。
初冬ということもあってもうだいぶ寒く、おまけに雨まで降ってきたが、計画性を重んじるルートはもちろん毎朝天気予報はチェックしている。
学校の玄関で雨音を耳にすると、鞄の中から折り畳み傘を取り出してそれをさして帰る。
今日は帰宅したら食事は1人だし簡単に済ませてその後勉強をしようなどと脳内で計画をたて、昨日多めに作って兄と食べたシチューを今日は1人で温めて食べようと閉店間際のパン屋に駆け込んでサービス価格になったパンを買った。
そうしておいて学校指定の鞄とパン屋の袋を手に、それらを濡らさないように普通のモノよりは少し小さめの折りたたみの傘で荷物をかばうように自宅へ向かう。
制服はやはり少し濡れてしまったが、明日は休みなので軽く拭いて乾かしておけばいいだろう。
それより身体が若干冷えてしまったので、食事の前に風呂かもしれない。
そんな事を考えながら濡れて少し心地の悪くなった足元を気にしながら自宅前に辿りついたルートは、それを発見して目を見開いた。
門の前で震える細い身体。
コートは着ているものの傘はさしていない。
「お前は何をしてるんだっ!!」
と、慌てて駆け寄って、それまで濡らさないようにしっかりと庇っていた荷物を気にする事もなく
「いま開けるからこれをさしていろ」
と、青くなって震えているフェリシアーノに傘を差し出して、急いで鍵を出して門とドアを開けた。
「…ったく、傘を忘れたならコンビニかどこかで買うなり雨宿りをするなりすれば良かろうっ!
いくらなんでも風邪をひくぞっ」
自動で湯を沸かしておいた風呂に問答無用でフェリシアーノを放り込み、ルートはその濡れたコートを自分の制服と共に水気を切ってハンガーにかける。
そして風呂ように脱衣場の端にある棚からタオルを出して用意するルートに、
「ヴェ…姉ちゃんと喧嘩して家飛び出してきたから財布持って来なかったんだ」
と、遠慮することもなく湯船にどっぷりつかりながらそう答えるフェリシアーノ。
その答えにルートはピタリと固まった。
「…どうやってここまで来たんだ?」
「えっと…途中まではたまたまコートに入れてた定期で…足りない一駅分は歩いて?」
「………」
「………」
「……この雨の中を…か?」
「うん。ルートの所までたどり着けばなんとかしてくれるって思ってたから…」
――ルートがなんとかしてくれると思ったから…思ったから…思ったから……
フェリシアーノの言葉が脳内をクルクル回る。
フェリシアーノにとってはたいしたことない言葉かもしれないが、その無条件の信頼を示す発言の数々はいつも優秀な兄と比べられて否定され続けてきたルートにとって何より嬉しい言葉だったりする。
これはなんとかしてやらねばならない…。
と、気持ちもあらたに、それでもそれを素直に口に出す事も出来ずに
「本当に…お前は仕方のない奴だな」
と、ルートはわざとため息をついてみせた。
そうしている間にももちろん着ていたものは洗濯機に放り込んで回しつつ、着替えの支度をしようとして、どうしようか…と悩んだ。
別に自分のを貸しても良いのだが、フェリシアーノにはぶかぶかだろう。
まだギルベルトの方が若干サイズが合うだろうか…
そう思って一応許可を取る為に兄に電話をかけ、事情を話す。
『はあ?理由わからねえけどフェリちゃんが来てるって?
…ああ、別に着替え貸すのは良いけど。
あ、ちょっと待て。
………
フェリちゃん泊まりならお姫さんもうちに来たいって。
良いか?』
…まあそうなるだろうな…とルートは了承した。
正直あの様子だと何かあったのだろうし、空気の読めない自分だけではフェリシアーノの力になれないかもと思っていたので、アーサーはとにかくとして兄ギルベルトが戻ってきてくれるのはありがたい。
こうしてすぐ戻ると言う兄との電話を切ると、ルートは許可も取った事だしと兄の部屋に兄の着替えを取りに行った。
居ないのはわかっているが一応ノックをしてドアを開けると、そこは自分の部屋とは違い壁際を様々な機械を格納したメタリックな棚が覆い尽くす不思議空間だ。
床もタイルが敷いてあって絨毯はなし。
ベッドさえ金属で出来たロフトベッドで下段にはデスクが収納されていてスペースに無駄がない。
男子高校生というよりはサラリーマンの部屋のようだ。
そんな中で姿見が組み込んであるクローゼットを開けると、そこにはきちんと整頓されたスーツや制服などがかかってあって、下の方には2段の引き出し。
上段にはきちんとプレスされたシャツが、下段には下着が収納されている。
用意周到なことに兄は何故か下着の引き出しの左端に未開封の下着を何枚か用意しているのでそれを使用させてもらう事にして、服の方はもうこれから外に出る事もないだろうと言う事でスウェットを拝借した。
それらと一緒にそれは共通の棚から洗いたてのバスタオルを出して、着替えと共に脱衣場の棚に置くと、ルートは急いでシチューを温める。
パンは翌朝の分もと思って買ったのだが、まあ明日は兄達もいるのだろうしどうせ足りない。
今、全部食べてしまって明日はパンケーキでも焼けば良いだろう。
温めたシチューとパン、そしてそれはコンビニで購入したサラダを皿に移し、全てが整った頃、ほかほかしながらフェリシアーノがキッチンへと顔を出して顔を輝かせた。
「うあ~ご飯だぁ~。
俺お腹ぺっこぺこだよっ」
と駈け寄るその手からタオルを取ると、
「愚か者っ!その前にちゃんと髪を拭けっ!
一応ヒーターは入れたがまだ室内は寒いし風邪をひくだろうっ」
と雫が垂れたままのフェリシアーノの髪を乱暴な口調とは裏腹に丁寧な手つきで拭いていく。
そんな風に髪を拭かれながら、しかしフェリシアーノは気にすることなく食卓へ着いて
「お腹すいたぁ~。早く食べよ~よ」
と手足をバタバタさせた。
そうなるともう何か食べさせるまでは何も聞かないのがフェリシアーノだというのは、夏休み中一緒にすごして悟っている。
「本当にお前は仕方ないな」
と言いつつルートも席についたが、その頬が少し緩んでいる事を指摘する人間はここにはいない。
そう、自他共に厳しいようでいて、ルートは実は甘えられるのが嫌いではない。
今までは周りにいるのは年上の人間ばかりで、同世代からはその厳つく生真面目な様子から一歩距離を取られていたため、甘えてくる相手などいなかったのだが、こうしてフェリシアーノが邪気のない様子で言う他愛のない我儘を聞くのは楽しい。
そんな風に和やかな夕食を摂り終わった頃、玄関の方で物音がする。
「ただいま~」
と言う大きな声と
「…お邪魔します…」
と小さな声が重なって聞こえた。
もちろんギルベルトとアーサーだ。
「あ、アーサーだぁあ~~!!」
と、その声に飛び出そうとするフェリシアーノの首根っこを
「落ち付け」
と掴んでテーブルの方へと戻すと、ルートはフェリシアーノに
「お茶を淹れるから。
片付けを手伝え」
と指示をする。
兄がアーサーと週末を過ごすようになって何度も1人で過ごす自宅にフェリシアーノを招いてはいるので、そのあたりは慣れたもので、フェリシアーノは『は~い』と返事をしながら、普通にコーヒーを淹れるルートの横で洗い物を始めた。
一方で…同行したギルベルトにリビングに案内されてソファに落ち着くアーサーは、そんな2人のいるキッチンに視線を向ける。
自分の家では毎週のように一緒に過ごしているが、ギルベルトの自宅に招かれるのは初めてだ。
そして…どう見ても初めてではない様子のフェリシアーノ。
別にギルベルトの気持ちを疑うわけではないし、フェリシアーノと同等に扱ってもらえないと言える立場でもないのかもしれないが……
大事な友人であるフェリシアーノに会えるという浮かれた気持ちが少し沈んでいくアーサー。
しかしそこに気づかないギルベルトではない。
「あ~念のために言っておくと…だ」
と、隣に座ったアーサーをぎゅうっと抱きしめながら言う。
「フェリちゃんは両親はやっぱり仕事で海外で爺さんの家に住んでるんだと。
で、爺さんは仕事忙しくてあまり帰ってこないらしいが、姉ちゃんがいてな、この姉ちゃんがフェリちゃんが家に人呼ぶのあんま好きじゃねえらしいんだわ。
てことでな、俺様は週末はお姫さんのとこにいていねえし、ルッツは最近うちで会う事が多いらしい。
まあ俺らほど毎週ってわけじゃないらしいけどな」
そんな事を頬に額につむじにとあちこちに口づけを落としながら語られると、色々恥ずかしすぎて落ち込むどころじゃない。
コーヒーを淹れたルートがリビングに入ってきてもそんなスキンシップが続くので
「ギ~ル~~!もう終わりだっ!」
と引きはがそうとするが、引きはがされない。
「俺の前で俺の親友にあんまりベタベタしちゃやだよ?」
とフェリシアーノがもう片側のアーサーの隣に座ってアーサーの顔が引きつってしまうほどの絶対零度の微笑みを向けても、
「確かにフェリちゃんの親友だけど、俺様の恋人だからな~」
と、唇を尖らせる。
そんな2人を生温かい目で見ながら、ルートはため息をついた。
「2人とも…アーサーが困ってるだろう?
いったん離れろ。
で、フェリは結局まだいきなりうちに突撃してきた理由を聞いてないんだが?」
と、ギルベルトとアーサーのコーヒーをそれぞれの前に、フェリシアーノのコーヒーは当たり前に自分の隣に置いて、フェリシアーノに手招きをする。
たしなめられたのに少し不満そうに頬を膨らませながらも、フェリシアーノは確かに説明もしていなかったので、しぶしぶ席を移動した。
そして話す。
「うちの姉ちゃんの学校ってね、いくつかの姉妹校に分かれてるんだけど、たまに姉妹校同士の交流授業みたいなものがあるんだ。
で、その時に同じ小等部に通ってたけど中学で別の姉妹校に行ったネリーっていう同級生に会ってね、姉ちゃんの学校なんて馬鹿ばかりだし、自分が通ってる姉妹校の方がモテルとかそんな風に喧嘩売られて、買っちゃったんだよね……。
なんだか知り合い集めて3種目競って勝った方が勝ちって。
で、姉ちゃんあてがないからってルートにやらせろとか言うから喧嘩になって…」
「「ふーん、それで?何が問題なんだ??」」
と、フェリシアーノがそこで言葉を切った時、全く同じように腕組みをして聞いていた兄弟が同時に同じ言葉を吐いた。
そしてその後、弟が
「俺では勝てないようなものなのか?」
と、兄の方は
「なら俺様が出てやろうか?」
と、身を乗り出す。
当たり前にやる気満々な兄弟に、フェリシアーノが目を潤ませて首を横に振る。
「そうじゃなくて……」
「「そうじゃなくて??」」
全く同じタイミングで首をかしげる兄弟に、アーサーはなるほど…と頷いた。
「つまりフェリはルートをお姉さんの喧嘩に利用するような事になるのが嫌なんだろ?」
と口を挟んでみるとフェリシアーノはホッとしたように大きく頷く。
「そう、そうなんだっ!
やっぱりアーサーはわかってくれるよねっ!」
「まあ…俺もギルにしてもらうばかりで何も返せてないし…」
「俺もだよ~。
ゲームでもゲーム終わってからもずっとやってもらうだけなのに、姉ちゃんまでとか…」
「だよな…。別にそんなつもりないんだけど、結果として利用してる気がして……」
わかりあうフェリとアーサーを前に同時にため息をつき、そして同時に顔をあげる兄弟。
「ちょ、待ってくれ。違うってっ…
俺様、最初の日に言わなかったっけか?
俺達が一緒にいたくて誘ったんだし、俺様、アルトに一緒にいてもらうためならもう何でも謹んでさせて頂く所存なんだが?
アルトとやれば何でも楽しいしアルトにあれこれしてやんのも楽しい。
てか、今の俺様の生活、アルトなしでは成り立たないくらいなんだが?」
「やっぱり…俺のように勉強くらいしか取り柄のない愛想のない人間といると重いか?
俺はフェリと一緒にいるようになって日々楽しかったんだが…」
兄はワタワタとテンション高く、弟はず~んと暗く落ち込みつつ異議を申し立てる。
それに対しては対照的に、兄の想い人は真っ赤になって黙り込んで俯き、弟の想い人はワタワタと手を振りながら
「そ、そんな事ないよっ!
おれもルートといるとすっごく楽しいし、ルートすごく何でも出来て助かるしっ!
でも俺なんにも出来てない気がするからっ」
と、落ち込んで俯くルートの顔を覗き込む。
「…お前はいつも楽しそうで…そんなお前といると俺はとても楽しい気分になるし、落ち込んでいても元気になる。
お前の幸せそうな様子は他人をも幸せにするものだと思うぞ」
「え?えへへ、そ、そうかな?
だったら嬉しいっ。
俺はルートといると幸せだけど、ルートも俺といて幸せだとすっごく嬉しいよっ」
ぎゅっと自分よりやや大きなルートの手を握り締めて嬉しそうに笑うフェリシアーノに浮上して不器用ながらも微笑むルート。
そんな心温まる風景を見ながら焦るのはアーサーだ。
(や…やっぱり何も出来ないならフェリみたいにちゃんと言えないと……
不器用で何も言えないくせに何も出来ないとか最悪だ…)
と、気ばかりは焦るのに言葉が出てこず、代わりにジワリと涙があふれてくる。
しかしそこで
「お~ひ~め~さ~ん…可愛すぎるから泣かねえでくれ」
と、兄の方はそれを見て片手を顔にあて、もう片方の手で最愛の恋人を引き寄せた。
「…可愛くねえ」
グズっと鼻をすすりながら抗議の声をあげる恋人の赤くなった鼻先にちゅっと口づけを落としながら、ギルベルトは少し眉尻を落として笑う。
「笑っててもすましてても可愛いんだけどよ、泣いてるとなんていうか…ちょっと黒い男心を刺激されるっつ~か……やばい方向に可愛がりたくなるから…」
との発言にひくりと顔をひきつらせるアーサー。
止まる涙。
「一応…R18な事はアルトが18歳になるまでは我慢するつもりではいるから。
俺様の理性をあんま苛めないでやってくれ」
との言葉にぶわっと真っ赤になって
「ばかあっ!!」
と胸を叩く恋人に、ギルは笑って目尻に口づけて目元に残った涙を吸い取った。
――やはり…恋人にはああいうやりとりもするべきなのだろうか……
と、今度はそんな兄の手腕にコンプレックスを感じて落ち込みかける弟。
しかしこちらも完全に沈む前に、隣のフェリがぎゅうっとルートの腕にしがみつきながら、
「あのね、本当に俺はルートが一緒にいてくれるだけで楽しいんだけど…だけど、もしルートが協力してくれたら、姉ちゃんが少しルートとの関係を認めてくれるのかなぁとか思ったりもするんだ。
でも、でもね、認めてもらえないでも俺はルートが好きだからっ!
ダメなら良いんだけど…ルートが良いって言ってくれるなら、協力してもらっていい?」
と、上目遣いにねだってくる可愛さに暗い気持も霧散した。
「もちろんだっ!
なんでも言えっ!」
と答えると
「ありがとうっ!ルート大好きっ!」
と、花がほころぶように笑う恋人。
何を落ち込む事があるのだ。
この愛らしい恋人は兄ではなく自分の事を好きだと言ってくれるのだ。
完全に浮上したルートは
「で、結局何で勝負をしようというのだ?」
と、本腰を入れて話を聞き始めた。
「結局ね、相手の人の幼馴染さんがとことんやれば?って別荘貸してくれることになったんだって。
で、お互いが集めた人材でテニスとチェスとフェンシングで勝負することになったんだけど、この中でチェスだけは色々あって姉ちゃん激おこで絶対に負けたくないって…」
「チェスだけ?何かあったのか?」
「うん。姉ちゃんの学校って女子校なんだけど、小等部だけは共学なのね。
で、その頃の同級生で校内のチェス大会で優勝したロイって人がいてね、姉ちゃんはその人にヘルプを頼んで了承してもらったんだ。
なのに翌日にいきなり相手の方で出るからって断られちゃって…」
「なるほど…」
それを聞いたルートがちらりとギルに視線を向ける。
向けられたギルはまだポカポカとやっている恋人のつむじにキスを降らせている最中だったが、その視線にそっと手のひらでアーサーを制する。
もちろんアーサーもそれに気づいて、視線を向けたルートと向けられたギルの間に視線をさまよわせた。
「…俺が出ても良いのだが……」
と、お伺いをたてるように口にするルートにギルはきっぱりと断言。
「俺様が出た方が良いな。
完膚無きまでに潰すんならな」
「2人ともチェスが出来るならルートでも……」
とちらりと恋人を見あげるフェリシアーノに、普段なら自分が申し出るルートは苦笑して言った。
「単純にチェスの勝負に勝つだけなら俺でも良いんだがな、“チェスに強い人材”を連れてくる事が目的なら兄さんの方が良い。格が違う」
「どういうこと?」
「兄さんは国際チェス連盟に認定されたグランドマスターのタイトル保持者だ」
「うあああ~~~」
うあああ~~と思ったのはフェリだけじゃない。
それまでその胸をポカポカやっていたアーサーもおそるおそる視線を送る。
にっこりと自分を見下ろす恋人。
「俺様、称号や資格を取るのはライフワークっつ~か…趣味なんだ。
お姫さんも遠慮なくなんでも頼ってくれよ?」
で、最後にまたちゅっと鼻先にキスを落とされる。
イケメンでスタイルが良くて料理も出来て、頭が良くて勉強も出来て日本で一番賢いと言われる高校に通っていて、その上各種資格や称号の保持者だと?
どれだけスペックが高いんだ!!
目の前の恋人は全くもって現実離れしている。
まあその相手と出会ったのだって高校生連続殺人事件の真っただ中にネットゲームの中なわけだから、現実離れしているわけだが…。
一方の自分はイケメンどころか貧相な体格のフツメンで、性格も暗くて友人の1人もいないという、普通よりもまだ下のスペックの…しかも女の子ですらない可愛げのないDKだ。
本当に自分のどこがそんなに良くて一緒にいるんだと聞いてみたい気もするが、そうしたらきっとこの想像力にも観察力にも優れた恋人は、その豊富なボキャブラリを駆使してアーサーが恥ずかしくてのたうちまわるような美辞麗句を並び立てるであろうことは想像に難くないので黙っておく。
決して賢くはない自分だが、多少は色々学ぶのだ。
こうしてチェスはギルが、あとの二つ、テニスとフェンシングはルートがやる事になった。
そして色々聞いてみるとなんとフェリの姉が通っている学校と言うのはアーサーの学校の姉妹校で、さらに場所の提供者と言うのは同じく姉妹校に通うエリザだと言う。
そんな事もあり、そして何よりギルが参加する条件がアーサーの同行だった事もあり、アーサーも一緒に行く事になって、今こうして高級ハイヤーに揺られているのである。
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