アントーニョは今それを痛感している。
「はよ電話したって!あっち側に取られてまうやん!!」
と、可愛い妹から電話を押しつけられて、しぶしぶギルベルトに電話をかける。
2回ほどのコール音の後に電話に出たギルベルトはいきなり大きく息をはきだした。
『トーニョ、お前もか…。わりぃ…先にフランから話きてる』
「…そうやんなぁ。なんとかならへん?」
『あっちが先約だし、前回の事件でちょっと可哀想な事したしな。わりい、今回は他あたってくれ』
じ~っと睨んでいる妹、ベル。
その無言の圧力に
「そこをなんとかならへんの?」
と食い下がっては見るが、ぷつっと向こうから通信を打ち切られた。
「ギルちゃん…やっぱり先にフランから話きとるから無理やって」
おそるおそるそう告げると
「だから早くって言うたやん!!お兄ちゃんのばかぁ!!!」
と半泣きのベル。
そこに相変わらずカリエド家に泊まってアントーニョの勉強を見ていたアーサーがシャワーを浴びて出てきた。
「兄妹喧嘩か?」
と、髪を拭きながら言うアーサーに
「ううん!お兄ちゃんがひどいねんで!アーサーさん、聞いたって!!」
とベルがアーサーの腕をつかんで自分の前に座らせた。
「ちょ、アーサー関係ないやろ!」
とアントーニョが慌てて止めにはいるも、
「お兄ちゃんは黙ったって!この前携帯貸したったん忘れたん?!」
と、前回の誘拐事件の時に借りた携帯の一件を出されて一蹴される。
「ベル、ちゃんと話聞くからまあ落ち着け。な、紅茶入れてきてやるよ。」
とアーサーはベルの頭を軽くなでて立ち上がった。
そのまま電気ポットの沸騰を押しつつ、カップとティーポットを取りにキッチンへ向か
うアーサーを見送って
「お兄ちゃんもあのくらいうちに優しくなれんの?」
と、涙目のベルに恨み事を言われて、俺かてつきあっとるやん…と、アントーニョはため息をついた。
アントーニョとギルベルトとフランシスは幼稚園が一緒の幼馴染だ。
小学校になってアントーニョとギルベルトは公立へ、フランシスだけ別の私立のミッション系の小学校へと進んだが、フランシスの学校は中学は女子しか取らないという学校だったため、フランシスは反対する親を説得して別の中学を受けることなくそのまま二人のいる公立の中学へ…ということで、今にいたる。
もちろんいる時間が長いので、3人はそれぞれの家族とも顔見知りだ。
そして先日、たまたま街に買い物に出たベルは、小学校の同級生と一緒だったフランシスをみかけて挨拶をした。
これが間違いの元だったのだ。
いかにもブランド物の高級そうな服をまとった少女はごくごく普通のTシャツにショーパンでフランと親しげにしているベルの事が非常に気に障ったらしい。
くすりと鼻で笑って
「フランは優しいから。街中にでるのにオシャレもしないような女の子でも可哀想だって相手にしてあげちゃうから誤解されちゃうのよねぇ」
と、いきなりかました。
そう、いきなりだ。
一瞬いきなりすぎて驚いて、次に怒りがこみあげてくる。
ベルとて別に身の回りを構わないわけではない。それなりに気は使っている。ただ高級ブランドとかでないだけだ。
「うちはお金に任せてジャラジャラ着飾ってまで気ぃひかへんでも困りませんねん」
ツーンとそう返したら、相手が逆上した。
「あら?貧乏人のひがみかしら?それなりの人間関係を築こうとしたら、それなりの費用はかかるわ。貧乏人の周りにはそれなりの相手しか集まらないものじゃない?」
「そんなことありませんっ。うちの周りにはそりゃあ優秀な人がいっぱいおりますわっ」
「まあ、じゃあぜひ私の友人たちと手合わせ願おうかしら?」
「ええ!ぜひ!」
「じゃ、そういうことでフラン、場所の手配お願いねっ。競うのは…そうね、テニスとフェンシング、それにチェスでいいかしら?」
「フェンシングにチェス…?」
テニスはとにかくとして、そんなものたしなんだ事がなくてベルは一瞬躊躇するが、
「あら?貧乏人のお友達にはちょっと無理でした?」
と笑われた瞬間
「いいえっ!そのくらいお茶の子さいさいやわっ!」
と、つい乗ってしまった。
「…というわけですねん」
しょぼ~んと肩を落として説明するベルに苦笑するアーサー。
「まあ、あちらもフランを通してギルに頼んでいるってことは見栄はってみただけで人材いないんだろうな」
「そうやねん。だから引き分けって事でええやんと思うんやけど…」
「そういうわけにはいかんわっ!うちいきなり路上であんなに馬鹿にされて引きさがられへん!テニスはお兄ちゃんできるやろ?!」
「できなくはないけど…あっちたぶんフラン出してくるんちゃう?あいつ強いで?」
「ううん。フランさんは場所の提供と審判てことで中立保つことになっとるらしいねん」
「…ギルちゃんに頼んどる時点で中立やないけどな。」
「……そうやね…でも他やったらお兄ちゃんテニスいけるやろ?」
「まあテニスなら出たってもええけど、チェス要員も学校の氷川をひっぱったたし…でもフェンシングなんてさすがにおれへんで?ギルちゃんかて部でヘルプ頼まれて付け焼刃で1カ月ほど練習しただけやしな。」
「フェンシングの試合って…フルーレ?エペ?サーブル?」
それまで黙って聞いてきたアーサーの突然の質問に兄妹は目を丸くする。
「何それ?」
というアントーニョの言葉にアーサーは当たり前に
「フェンシングでは3種の武器があって、これらがそのまま種目名となっているんだ。フルーレなら俺出ても良いけど…。」
と答えた。
「なんなん、それ?!!あーちゃんフェンシングできるん?!」
「お兄ちゃん、ギルベルトさんはどうせなんでもかまへんのやろっ?!じゃ、それで出来るよう交渉したってやっ!!」
と、アーサーの方に身を乗り出すアントーニョにベルがグイッと携帯を押しつけた。
それを受け取るとアントーニョはとりあえずフランシスの方へと確認の電話をかけた。
『う~ん、ギルちゃんはどうせこだわりないだろうし、今回は出し抜いて取っちゃったしね。いいよ。フルーレで用意しとくね』
と、フランシスからの了承をえて、兄妹は、やったぁぁ!!!!とガッツポーズをする。
「さすがボンボン学校やなぁ。あーちゃんクラブかなんかでやっとったん?」
「強いんですか?」
と、矢継ぎ早に聞く兄妹にちょっと圧倒されながら、答えるアーサーの言葉。
「中学2年の時に全国少年フェンシング大会フルーレ個人戦で優勝したことある程度だけど…」
「全国優勝ぉぉ~~??!!!」
ブー!!とアントーニョは紅茶を吹き出し、ベルは
「ほんまですかっ!!やったぁあ~~!!!」
と飛びあがった。
「な、なんなん?海陽なんて日本一の進学校の生徒会長なだけやなくて、そんな経歴まであるん?」
タオルで紅茶を拭きながら驚きの声をあげるアントーニョに、アーサーは、
「当時は別に生徒会長じゃなかったし…」
とこともなげに言う。
「いや…そういう問題ちゃうやん。あーちゃん見かけによらず文武両道だったんやなぁと…」
「見かけによらずってなんだよ」
アントーニョの言葉にアーサーはぷく~っと膨れるが、かわええ~と思わずアントーニョが抱きつく前に、
「あ~、うちもう感動やぁ!アーサーさんがお兄ちゃんやったらよかったのに~!!」
とベルが抱きついて、今度はアントーニョがふくれることになった。
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