パーティー結成 (3日目)
40…50…59……おしっ20時っ!
毎日毎日他のプレイヤーを探しまわる日々にさすがに飽き飽きして、今日こそはと20時ぴったりにインしたわけだが…なんで誰もいないんだよっ。
街でてすぐの所でインしてるんだけど、他のプレイヤーに会った事がない。
みんなもしかしてもうある程度レベル上がって現地でログイン、ログアウトしてんのか?
あ~もうチンタラチンタラやってんのも飽きてきたな~。
マジ爽快感もないし、つまんね~。
つかさ、他のプレイヤーいないオンゲーなんて意味ないよな。
好きなジョブ選べるだけオフゲーのがまだましだ。
ミッション達成金の10万の話なきゃとっくにやめてる。
しかたなしに近場の敵叩いてるうちにLv4になって装備も買い替えたわけだが…こんな事してる間にどんどん他との距離が離れてってんじゃないだろうか。
俺は決意した。
今日はLv上げ中断!意地でも他のプレイヤーみつけてやるっ!
そして歩き回る事10分。
ようやく人影発見!
見るからにシーフな茶色の皮鎧の女の子と見るからにプリーストの白いドレスの女の子。
協力してやってんのかと思ってみたら、名前の横にパーティーマークついてない。
二人それぞれソロやってるっぽい。意味あるのか、これ。
二人して通常会話を垂れ流しながらそれぞれ狩り。
お互いを無視してるわけでもライバル視してるわけでもなく、なごやかにやってる模様。
様子見がてらちょっと二人から見えない所で敵を狩り始める俺。
「ごめんね~。私魔法もないし何にも役にたてなくて…」
とシーフの子が言うのにプリーストの子が
「自分にだけ回復魔法かけても寂しいから…私の魔法が誰かのお役にたてるのってそれだけで楽しいんです♪(^-^ 」
と答えてる。
俺はその微笑ましい会話で納得した。
たぶん二人ともパーティー機能知らないんだな。
行動開始。
説明するならパーティー会話の方が確実だし、と、俺は二人にパーティーの誘いを送った。
即パーティーに入ってくる二人。
不思議そうに周りをキョロキョロ見回してる。
ちなみに…会話方法は全員に伝わる通常会話の他にパーティーだけに伝わるパーティー会話、あとは特定の個人にだけ話すウィスモードがある。
まあこのままだとただの怪しい奴なんで、おれは姿を現してパーティー会話で
『こんちゃ。急にごめんね』
と挨拶をした。
シーフのアオイと、プリーストのフロウ。
案の定パーティー機能知らなくて、でも二人仲良くなったから一緒にって感じで隣で狩ってたらしい。
そこでパーティー機能とか基本的な事説明してやったら、すごく尊敬の目で見られた。
ネットゲーの中のキャラとはいえ、女の子二人に感心されるのは悪い気はしない。
まあでも二人ともゲーム自体にうといし、俺の予想だとリアル女の子かな。
アオイは…シーフなとこみると、たぶん俺と同様出遅れ組。
キャラの容姿も普通っぽくて、自分に似せたのかななんてそんな気がした。
素朴っぽくて素直で可愛い。
フロウはいかにもファンタジーのお姫様。
まあRPGなんだろうな。リアルでこんなお姫様オーラふわふわ振りまいてる人間みたことないし。
でもRPGにしてもよくできてるっていうか…オフゲーの仲間キャラだったら多分ヒロインとして大事に連れ歩いてる、そんな感じのキャラ。
どっちにしてもこれでようやく落ち着いて経験値稼ぎができる。
プリーストいるとマジ楽。
このゲームはHPやMP減ると座って徐々に回復するの待たないとなんだけど、彼女がヒールかけてくれるおかげで、俺とアオイはエンドレスに殴れる。
もちろん、回復魔法をかける時以外はフロウはお座りで回復魔法使って減った回復。
贅沢言えばあともう一人純アタッカー欲しいとこだけど、エンチャの火力不足もシーフのアオイと二人で殴る事である程度補えるし、もうソロには戻れんね。
『私達…結構すごいよねっ!このまま魔王に一直線?』
アオイもシーフだからそのあたりのダルさは似た様なものだったんだろうな、やっぱりテンションあがってる。フロウはニコニコと…ペース上がってもあんまり変わらない。なんだろう…やんごとない感じの不思議ちゃん。
まあ確かに3人集まって強くなってきた。
魔王は当たり前に無理だけど、そろそろミッション1くらいはできないかね。
それで10万もらえるわけだし…。
というわけで、俺は二人にミッションの説明をした上でミッション1に誘ってみる。
受託自体はプロローグで強引にさせられてるから、ちょっと離れた山の麓の衛兵に手紙とどけるだけ。
道沿いに行けば敵には絡まれないとは思うんだけど、そんなに街から離れた事ないから実際に遠くても道沿いなら絡まれないかは本当の所は謎。
倒せない敵に絡まれて死ねばデスペナルティで多少経験値が減ったりするんだけど、まあこのレベルだと痛くもないしな。逆にそのあたりはあんまりレベル上がらないうちに試した方が良いかも知れない。
てことで、二人を連れてミッションの山へご~。
……たるい…。
山までは直線距離だとたいした事ないんだけど、道はクネクネ曲がってて、道沿いに行くとすごい距離だ。
『もうさ…道沿いいくと一日終わりそうだし、直線つっきっちゃうか~』
俺が提案すると了承する二人。
かくして…俺らはモンスターに絡まれるの上等で草むらをつっきる事にした。
まあ…倒せるはずだったんだ、”地上の”モンスターなら。
ところが俺達はいきなり草むらに隠れてた落とし穴に落っこちた。
ズザザザザ~って感じで転げ落ちるとそこは暗い洞窟。
やばいよな…。
どうみても上級者向けの狩り場。
地上の敵はRPGでは最初の敵としておなじみのスライムとかだったんだけど、こっちコウモリだよ。
強さはわかんないけど、まあスライムより数段強いのは確か。
『ねえ…ここどこ?ユート』
少し心細げにアオイが聞いてくる。
こういう時にふと出る女の子っぽい言葉って、やっぱりリアルの地なのかなぁなんて、こんな時なのに広がる妄想。
ここで一発カッコいいとこみせて株あげたいとこだけど、マジこの攻防共に微妙キャラなエンチャンターじゃどうしようもない。
『死んで戻るしか…ないのかな…』
なんてヘタレな台詞吐くなさけない俺。
言ってから思い切り自己嫌悪に陥る俺を尻目に
「ん~でもさすらってればいつかはどこかに辿り着くのでは?(^-^ 」
と、いきなり元気になって歩き出すフロウ。
おいおいっ!!!
『うあああ~!!フロウちゃん、待ってっっ!!!』
またも情けない俺の悲鳴。
だってさ、コウモリに突っ込んでますよ?このお嬢さん。
アクティブかどうかも確認せずに……
マジ、RPGじゃなくて天然なのかよっ!!
案の定絡まれる。一撃でHP真っ赤。
あ~あ…って半分あきらめのため息ついてたら、ザクっと一刀両断にされるコウモリ。
かっけ~!
闇に浮かびあがる青白い大剣を担いだベルセルク。
俺もやっぱりこういうジョブ取りたかったな、ちきしょ~!
フロウは…助けられて安全になったにも関わらず、回復もせずその場をクルクル回ってる。
なんつ~か…マジ不思議キャラ。
例のベルセルク、コウはそんなフロウに
「とりあえず自分を回復しとけ」
と声をかける。ま、もっともな意見だ。
そろってレベル4な俺らと違ってレベル10。
3日でLv10か~。
やっぱりジョブ格差でけ~とか思ってると、コウは俺らにも気付いたらしくビシっと指をさして叫んだ。
「そこの馬鹿二人っ!!いますぐコウモリの群れに特攻して100回死んで来いっ!!」
あ~そうきたか~。
確かに攻防微妙とは言え一応このパーティーの中じゃ前衛な俺ら二人がいて、一番柔い後衛のプリーストを前面で歩かせてたら外道だよな、俺ら。
でもまあ…初対面の人間にそこまで言われる筋合いはないわけだが…。
「初対面でそれってあんた何様よっ?!!」
俺は心の中で思ってただけなんだけど、アオイはそのまま口に出した。
まあ…気持ちはわかる。
つか、俺もそう思うけど、今の現状考えたらさ、突破口になるのは、おそらくこの辺りの敵撃破できるLvと力があって、とりあえずフロウの事は助けてやってもいいって思ってるらしきこのベルセルクだけなわけで…。
喧嘩しても良い事ないよな、なんて非常にあざとい考えの元に俺はそれをなだめる事にした。
「パーティーメンを助けてくれてありがとう。俺ら慣れてない上に、落とし穴に落ちてここにきちゃって戸惑ってるうちに絡まれちゃって…」
ヘラっと表でベルセルクに言いつつ、パーティー会話では
『とりあえずお礼が先。助けてもらったんだし、ねっ(^^)』
とアオイをなだめる。
「フロウちゃんを助けてくれた事は…お礼言うわ。ありがとう。でもいきなり100回死んでこいはないんじゃない?」
一応説得されつつも不満が隠しきれないアオイ。
これじゃ相手の機嫌取るの無理ぽ~。
最悪…やっぱり死に戻りかなぁ…なんて考えてると、ベルセルクのコウはもう名前の通りカチカチの硬質で生真面目な感じで、でも今度はいくらか冷静な感じに
「敵から後衛守るのが前衛の仕事だろうが。後衛は装備できる防具も柔いし受けるダメージも違うんだからな。前衛がちゃんと守んないとすぐ死んじまうだろっ」
と、諭し始める。
そんなのわかってるんだけどさ~、しかたないじゃん?とか思ったのは俺だけだったらしい。
なんとアオイはあっさり
「ごめんなさい…ゲームってほとんどした事なくて、パーティー組んだのも今日初めてだったから全然知らなかったの。これから気をつける。」
うあ…なんていうか…やばい、可愛い。
いかにも女~みたいな風に振る舞わないのに、変なとこで妙に女の子っぽい。
それがいかにもリアルな感じでもうやばいかも、俺。
そこでチラリとコウを伺うと、コウは
「わかればいい、覚えておけ」
と、これまたあっさり収めた。
…けどまあ…別にアオイに興味持った風もないかな。ちょっとホッとする俺。
怒りはとりあえず収められたみたいだから、これで交渉可?とか思ってると、コウはなんと自分の方から
「とりあえず…いれろ。送ってく。お前らだけじゃ帰れないだろ。そんなLvで来る所じゃないしな、ここ。」
と申し出てきた。
もちろん俺らの方に異存があろうはずもなく、謹んで申し出をお受けする。
そこでまあわかった。こいつ…あれなのか。いわゆる委員長タイプ?
あれだけぶっきらぼうで俺様な感じの初対面とは裏腹に、帰る道々、聞きもしないのにこのあたりの敵についてとか、このゲームでの注意点、ひっかかりやすい罠の事など色々親切に教えてくれる。
ジョブ格差とかもあるけど、こいつの知能的なスペックが高くてこのLvなのかも。
最初の時点では同じだけの情報しか与えられてないのに、すごい必要な情報ピンポイントで集めてる。
その一方で、たぶんこいつなら1億狙えるかもってくらいな感じなのに、それとは裏腹に1億取る気ないんだなってくらい人がいい。
「ここはだいたいレベル10くらいで少し強めに感じるくらいの敵がいる場所だ。
だから道々絡まれたらとにかく俺の近くにこい。敵のタゲとってやるから。
で、敵が一度に2匹以上来たら、俺がタゲとって出口と反対方向に走るから俺と反対方向に逃げろよ。
そこからはなるべく敵から距離とって絡まれない様にな」
って。
それに対してアオイがさすがに
「んで?コウどうすんの?死んじゃわない?」
と聞くと
「そりゃ死ぬな。」
「いいん?」
「それが前衛だから無問題。」
うあ~お前勇者かよって感じだ。
もうあれだな、クラスの安全は俺が守るくらいな感じ?
こいついると今後楽だよな~なんて思いつつも、でも接点なさすぎな現実。
Lv倍以上だし、俺らは便利でもこいつにしてみたらずっと行動共にするメリットなさすぎ。
たまにみっそん関係の質問ウィスでも送って関係つないでおくか~なんて思ってると、いきなりフロウ
「あのぉ…何故帰るんですか?」
え~っと…ここで何するんですか?
コウいないと俺ら即死しますが?
つか、コウが俺ら送ってくれる気があるうちに帰っておかないと死に戻りなんですが?
色々な質問が頭を回って、何から切り出していいかわかんない。
もう…なんだか可愛いんだけど不思議ちゃんすぎてついて行けない、彼女は。
アオイもどう反応していいかわからないらしく無言。
でも使命感に燃えるコウ君は頑張ってその電波につきあうつもりらしい。
「意味わからん。帰らないでどうすんだ?」
と、答えた。
まあ…すごく端的にして的確な質問だ。
やっぱりこいつ頭いいや。
「せっかくここまできたんですし…ここでレベルあげすれば良いんじゃないでしょうか?(^-^ 」
まあ…ゲームやったことないらしいし…わかってないんだなって納得するフロウの答えに、コウはまた答えた。
「えと…な、さっきも言った通りここはLv10くらいの狩り場なわけだ。
んで?Lv4の3人がどうやってそこでレベル上げするって?」
そこまで律儀に説明せんでも…”ここの敵強いんだからお前らに倒せるわけないだろ”で、オッケーな気がするんだが…。
こいつ…マジ良い奴。
だが…その後のフロウの言葉…
「大丈夫っ!コウさんがいらっしゃいますし♪(^-^」
はあ?
ある意味すげえや。
理屈とか関係ないっつ~か…もうここまで周りが見えてないのってお見事としか言いようがない。
「へ?…いや…あの……いらっしゃいますしって……」
さすがのコウも戸惑って口ごもった。
「コウさんが倒して下されば全員にちゃんと経験値入りますからお気になさらず♪(^-^」
「ちょっ…ちょっと待った…お気になさらずって言われても……」
「私も一生懸命回復しますねっ♪o(^-^)o」
コウはがっくり膝をついた。
もう…どうしようって感じだよな。
理由説明してもおもいっきり無駄っつ~か、意味ねえよ、多分。
どうする四角四面の委員長。流されるか?って思ってたらホントに流されたっ。
「…負けた……どこの……やんごとなきお姫さんなんだ?
思い切り上から目線で苦しゅう無いって言われてる気がしたぞ………」
こうして…半ば強引に(?)コウは俺らのパーティーに引きずり込まれる事になった。
まあ…お手柄だっ、お姫さん。
天然最強伝説!
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