三葉商事の企み
翌日…いつものように5時起きで、貴仁しか使わないと言うトレーニングルームを借りてトレーニング。
その後バスルームで汗を流すと、7時に朝食。
「なんか…頼光君てなんとなくタカさんに似てて家にいても全然違和感ないわねぇ…」
と優香がつぶやく。
あの人格者と自分の共通点なんて全く見いだせないとコウは思うが、自分自身も実はあまりこの空間にいる事に違和感がなくなってきていた。
普段の日ならこのまま勉強を教えてもいいのだが、今日は三葉商事から自宅に迎えがくるはずなので11時までには帰っていないとまずい。
10時まで勉強を教えて、その後自宅に戻る事にする。
「じゃ、またあとでな、姫」
とフロウに、優香に
「お邪魔しました。朝食ごちそうさまでした」
とそれぞれ挨拶すると、二人揃って
「いってらっしゃ~い♪」
と応えるあたりが…もう何か間違っている気がする。
自宅に戻るととりあえず制服に着替え、念のため薄いジャケットも持参する事にして、迎えを待った。
自宅が近い為か、コウを乗せた車はそのままフロウの自宅に向かってフロウを拾う。
そのまま車は都内の高級ホテルに向かった。
そして案内されるまま三葉商事が用意している広間に着く。
コウがまず先に立って中に入ると、広間中央のテーブルにすでにユートとアオイがいる。
「コウ…制服で来たんだ?」
まずユートが笑いながら近づいてきた。
「この規模の企業が用意する会場にTシャツにジーンズとかで来る度胸は俺にはないぞ。
とりあえず…制服ならどんな場所でもそれなりのTPOは保てるからな」
フォーマルもあるにはあるが…今度はラフな会場だとそれはそれで恥ずかしいので制服。
フロウが以前、”ごきげんよう”と言う挨拶は朝でも昼でも帰りでも、いつでもどこでもそれで礼を外す事がなくて便利な挨拶なんだと主張したのを聞いてなるほどと思ったのだが、制服もそれに近いものがある。
行き先がわからない場合はとりあえず制服を着るのが一番当たり障りがなくていい。
「でも上着は私服?」
「一応…この季節のホテルとかはクーラー効きすぎてる可能性高いが、制服の冬服のブレザーだとさすがに暑すぎだから」
自分的にはしごく合理的にして当たり前の選択なのだが、ユートの反応からするとどうやら”普通”とかけはなれているらしい。
少し目を丸くされた。
「…そんな可能性…全然考えてませんでした…。そいえばそうですよね。
廊下はそうでもないけど、部屋の中ってちょっと寒いかもです…」
そんな会話を交わしてると、後ろでフロウが言う。
コウは自分の上着をフロウに羽織らせると、冷房を緩めてもらえるように、主催に言いに行った。
そして弱めると言う言葉を聞いて、フロウの元に戻る。
自分のジャケットが華奢なフロウにはぶかぶかでその様子がなんだか可愛い。
椅子を引いてフロウを座らせると自分もその隣に座る。
そしてあと二人。シャルルとヨイチ。
驚いた事にシャルルは本田映という女子高生だった。
アオイの説明によると男同士の恋愛を描いた話が好きな腐女子という人種らしく、自キャラの男キャラとコウのキャラを絡ませて遊びたかっただけという…まあ結果的には単なる趣味で悪意も何もなかったという事だ。
シャルルこと映は多少暴走気味ではあるものの、連れのヨイチは非常に物静かなだけでなく、とても細やかな気遣いをする少年で、その暴走を上手にやんわりいさめてる。
そして賞金授与。
アオイがごねた。
「だってさ、どう考えても私が倒してないよ、魔王。残ったほんのちょっとのHP削ったのがたまたま私だっただけで倒したのほぼコウじゃん」
一億欲しさに5人殺した奴もいる中呆れるほど無欲な奴だとコウは感心する。
しかし…それに対して、本来トドメを刺した人間と言うルールだったのだから自分が受け取るべきじゃないと主張している自分も同類だという事には当然気付いてない。
結局、完全なる第三者の映の提案でその時パーティーを組んでいた4人でわけるという事で双方渋々引き下がった。
そしてそれぞれキャラ名を呼ばれて額面2500万円の小切手を受け取る。
目の前にしてまたフツフツとわき上がる怒り。
このせいで一人ぼっちだった自分を受け入れてくれた大事な仲間達が危うく殺されかけたのだ。
それを喜んでホイホイ受け取る様な人間だと思われるのは心外だ。
誰もかれもがこんなもんありがたがると思ってもらっては困る!
コウはそれをまずビリっと二つに裂いた。
そしてさらにそれを二つに…
どんどんそうやって破って行くと最後は粉々の紙吹雪が出来上がった。
無意味な行動に走る子供だと笑うなら笑えっ!
最後にそれを主催の目の前でフ~と吹き飛ばすと
「高校生をなめるなっ!」
と、指差した。
「国家レベルの影響持つ大企業だかなんだか知らないがお前達のくだらない保身のせいで、俺の仲間は死ぬとこだったんだぞ!
俺はそんな仲間の危険を放置した企業の金なんか受け取る気はないっ!」
と、宣言してクルリと背を向け席に戻る。
結局…その後フロウがユニセフに寄付宣言したのを皮切りにユートもアオイもユニセフに寄付ということで誰一人それを受け取らなかった。
しかし…話はそこで終わらなかった。
全員の賞金の行く末を見届けた所でさっさと退場しようとしたコウは、そこで登場したM社の社長に引き止められた。
そして語られる事実。
今回ゲームが送られてきた目的は新ゲームのテストなどではなかった。
実子のいない三葉商事社長の跡取り選出のためだったのだ。
最低限の情報しか与えられない非日常の中、金に惑わされず、常識にとらわれず、目先の危険を見逃さずそれでいて他人を率いて行ける人材を選び出すために、社長の一族の血を引く若者にゲームをやらせたというのが真相らしい。
今回起こった一連の殺人事件ですら、危機回避能力を試す材料として使われていたと言う事に激怒するコウ。
だが、皮肉な事にコウ自身がその跡取りとして選ばれる。
「俺はごめんだぞ。こんな薄汚い企業の片棒担ぐなんてまっぴらごめんだっ!」
当然コウは反発するが、そこで社長の言葉…
「汚い…か。確かにある程度黒を白にすることも逆にする事もできる力があるが…その力を行使するか否かの選択ができるぞ、上にいれば。
今回思い知らなかったかね?末端にいれば不正を不正と知っても拒絶する権利すら与えられない。
止められる悲劇も止める術を持てないということだ。」
確かに…力があれば大事なものも容易に守れるのかもしれない…。
自分を貫けるのかも知れない…。
自分の意地のためにそれを放棄するのが果たして正しい事なのだろうか……
答えのでないコウに社長は一ヶ月に一度連絡をいれるから考えろと言って退場した。
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