第一の殺人 (7~8日目)
ゲームを始めて一週間。
物心ついて以来初めてくらいできた仲間。
一人でやってた頃の単調さが嘘のように楽しくなった。
あくまで対等な友人のユート。
リアルでいる周りの人間のようにちょっとした事で怒ったり、萎縮したりしない。
決して人当たりの良くない、口べたな自分の言葉を上手にフォローしてくれる。
アオイは素直で一生懸命な人間。
同じ年なのだが、年下の妹か弟のような感覚で、面倒をみてやらないとという気になってくる。
フロウは側にいるだけで幸せな気分になる女の子。
ほんわかしていて無邪気で、仕草も言動も何もかもが可愛い。
そんな仲間に囲まれて狩りをするのは楽しい。
最近では朝起きてから普通に勉強しながらも、日々夜仲間に会えるのを心待ちにしている自分がいる。
12時少し前、自分一人しかいなくてもきっちり自炊。
12時には自分で作った食事をテーブルに並べ、ニュースを見ながら一人きりの食事。
中学を卒業してからの変わらぬ日常。
義務教育の間まではきっちりと厳しく管理教育。その後は自主性に任せる。ただし自分の責任は自分で取れ。それが父親の方針だったため、経済的な保護以外の保護も束縛もなし。
どちらにしても父親はベタベタとした愛情を注ぐ性格ではなかったし、仕事も忙しかった為、義務教育終了までが一人でなかったかと言えばそういうわけでもなく、単に通いで来ていた家政婦がいるか自炊をするか、時間の管理をされるか自主的にするかくらいで、たいして今と変わるわけでもない。
勉強にしても武道にしても結局は競争で、勝てば当然妬まれもするし本分と別の部分で追い落としをかけようとする者も多い。
それでもごく一部、お互いに刺激をし合って切磋琢磨するライバルとしての友人はいたが、無条件に心を許す類いの交友関係ではない。
そんな中で初めて出来た損得関係のない友人。
一日4時間、ネット内だけという限定条件ではあるものの、それは孤独な生活に潤いを与えるには十分すぎる存在だった。
コウもそんな日々が続いてゲームを始めたそもそもの理由を忘れかけていたのだが、ふと流れたニュースに凍り付いた。
『臨時ニュースをお知らせします。本日午前5時過ぎ、東京都○○区のマンション駐車場で
刺殺された男性の遺体が発見されました。
殺された男性は都内在住の高校生、鈴木大輔さん17歳………』
鈴木大輔…確かゴッドセイバーの本名だ。
とうとう起こったかという気持ちと、ここまで起こるのかという驚きが交差する。
断言はできないが今回のゲームが原因の可能性はかなり高い。
…自分の予測通り賞金1億が目的だとすれば次の殺人が起こる可能性も…。
そして…放置すれば自分の仲間がそれに巻き込まれるのは必至だ。
コウは迷わず電話を手に取った。
そして物心ついて以来ほとんどかけた事のない番号に電話をかける。
『頼光か、何か重要な事か?』
忙しいであろう父。
それでも私用で電話をかけた事のない息子がかけてきたのだから、よほどの事だろうという事は察して話を聞いてくれるつもりらしい。
コウは迷わずディスクが送られてきた事からゲームの事、賞金の事、ゴッドセイバーの事などを説明した上でM社のゲームの賞金が原因だと思う旨を知らせた。
『報告が遅れてすみません。ただ、今までは現実にトラブルが起こっていたわけではなく、とりあえずトラブル防止と監視に務めるのが最善と判断しました。』
最後にそうまとめる息子に父はため息。
『やっかいな事になったな。』
とつぶやいた後、少し考えて言った。
『おそらく…三葉商事が相手となると警察はほぼ動けん。この事件と三葉商事との関連付けをさせるのはまず無理だろう。
事件は単体で捜査という事になり、結果、現行犯で犯人が逮捕されない限り、次の犯罪を防ぐのは不可能に近い。
それでも…お前があくまで私の名前を前に出せば、お前は恐らくそのゲーム自体から手を引かされる事になるだろうな。逆に…自身の安全を考えればそれは最善の策にもなりうる。
今の時点で私に言えるのはそれだけだ。大人の事情とお前の事情、それをよく考えた上で、お前がどう動くかの判断はお前に任せる。』
言い返したかった…。
常に正義だと正しいと思って自身もそれを目標に精進してきた父親が、大人の事情で流される存在だと言うのが腹立たしかった。
が、それでもその大人の事情を自分にまで押し付けようとしない姿勢はありがたい。
ギリっと歯噛みをして、それでも電話を切る。
自分は…逃げない。
絶対に自分の力で仲間全員守ってみせる。
それでもキッチリと食事を取り片付けをすませ、その後午後の勉強を中断してネット犯罪についての資料を調べ始めた。
夜…ログインすると例によって1番乗り。
そして一瞬後表示されるアオイのキャラにパーティーの誘いを送った。
パーティーに入るアオイ。
『コウ…ニュース聞いたよね?』
あの時ゴッドセイバーがリアル情報をもらしていたのを聞いていたアオイはやはり気付いたらしい。
そうきいてくるが、次に続く言葉が
『やっぱり……あれだよね、宝くじ当たったとか言って殺されちゃったりするのと同じだよね。』
で、力が抜ける…。
まあ…相手はアオイだ、しかたないと思いつつも、その見当違いな危機感のなさが命取りになりかねない。
『まだ受け取ってもいない金のために身近な人間殺すアホウがどこにいるんだよ?
被害者が現物持ってないってことは、殺してもそれ奪える訳じゃないんだぞ。
宝くじの場合は大金を手にしたからだろ、殺すの』
と説明をしつつも
『お前な…脳みそ使わなさすぎて腐らせる前に、次の犠牲者として川に浮かぶなよ…』
と、ついつい呆れた気持ちが口をついて出る。
放置しておいたら本気で明日には川に浮かんでそうだ。
と思ったら何を考えたかアオイがいきなりパーティーから離脱した。
間違ったのかと思ってもう一度誘うが断られる。
間違って断ったのかと思ったらもう一度断り。
さすがに間違いではないとわかったが…いったいどうしたことか…。
こんな事をしてる間に注意しなくてはならない事が山ほどあるのに、と思ってるとユートがイン。
アオイがパーティーに誘ったらしくしばらくユートからの連絡を大人しく待つ。
そして数分後…
(もしかしてアオイと何かもめた?)
とユートからウィスが来る。
(わからん…)
正直に答えるとユートが考え込む。
(ん~なんかアオイに聞いても要領得ないんだよね、今。たぶんリアルで動揺してるんじゃないかなぁ、そんな感じする。だからさ、そうだな~、ちょっと落ち着くのを待って聞き出すから、しばらく二人きりにさせて?姫もじき来るだろうから、コウ、姫の方お願い)
このままだと注意するどころじゃなさそうだし、どう考えてもユートに任せた方が良さそうだ。
(わかった、何かあったら知らせてくれ)
とりあえず先にフロウに注意をしようと、アオイはユートに任せる事にした。
『ごきげんよう♪今日はまだ皆さんいらしてないんですか?(^-^』
いつもの場所、噴水前で待っているとフロウがくる。
何も知らないのもあっていつものようにぽわわ~んとしている。
コウはとりあえずパーティーに誘うと、
『ん~、今日なちょっと訳ありでユートとアオイ二人で行動してる。』
と言う。
『そうなんですか~』
フロウはちょっと不思議そうだが、元々深く考える質ではないのだろう、
『じゃ、今日はコウさんと二人ですね~。何しましょう?(^-^』
と聞いてくる。
ほわほわと楽しそうなこの少女の不安感をあおるのは気がひける。
かといって…言わないで次の犠牲者になられでもしたら後悔してもしきれない。
せめて…彼女が少しでも落ち着く場所で、と、コウは言った。
『えとな、姫に話したい事があるんだ。大事な話だし長くもなるから姫が一番落ち着ける場所を選んでくれ』
自分で…選べと言ったんだよな…文句は言えない…。
連れて行かれた場所はお城の庭園。
花咲き乱れる庭の花に囲まれたベンチに座るフロウ。
確かに…彼女にはよく似合う場所ではある。
自分にとってこれほど不似合いな場所はないわけではあるが……
コウは内心ため息をつきながらも、彼女の横に座った。
楽しげに自分に笑顔を向けるフロウ。
本気で可愛いなと思う。
『で?お話って?』
その笑顔を消すのが怖くてなかなか切り出せないでいると、フロウの方から切り出された。
しかたない…。
『あの…な、ちょっと今危険な状況が起こってて、姫にも色々注意してもらわないといけない事がある。
だけどこれから言う3点だけきっちり守ってくれれば俺が絶対に身の安全は保証するから心配しないでいい。守れるよな?』
さすがにいきなり殺人の話を出すのは気がひけるので、先に注意事項からと思って言うと、フロウは素直にコクコクとうなづく。それに少し安心してコウは続けた。
『これは以前も言ったけどな一つはリアルについて絶対に他人に話さない事。普通の状況でも危ないから。
次に呼び出しは受けない事。例え誰から呼び出されても絶対に行くなよ。それが俺やユートやアオイでもだ。最後は…俺がいないところでユートとアオイ以外の参加者と話をしない事。これはな…姫うっかり誘導尋問とかでリアルに抵触する事言っちゃまずいから。以上3点をしっかり守ってくれれば絶対に危険はないから。』
コウの言葉にフロウはちょっと考え込む。
『あの…今起こってる危険て??』
まあ…もっともな質問なわけで…。
コウは事情を説明した。
一瞬の沈黙
『一条優波、東京都○○区……私立聖星女学院……070-○○○○-××××…』
だだ~っと流れる個人情報。
『ちょ、ちょっと姫???何やってんだっ!!!!』
慌てるコウにフロウはきっぱり
『私明日から夏期講習で学校行かなきゃなんですっ!』
『いや、だから??』
『コウさんお迎えお願いしますっ(>_<)』
『はあ???』
アオイも…わからないが、フロウはもっとわからない…。
今の話…きいてなかったんだろうか……。
『…姫……』
『はい?』
『言っても今更なんだが……俺がヤバい奴だったらどうすんだ?』
もうため息しか出ない。
『大丈夫っ。コウさんだから』
信頼…されてるのか危機感が限りなく0に近いのかわからないが…これ…放置したら明日は川に浮いてる事必至だと思う。
というかこれを断って、他の…それこそ犯人でもこれをやられたらと思うと背筋が寒くなる。
『もう…わかった。負けた。迎えに行くけどそのかわり一つだけ絶対に約束。』
本気で泣きそうだ。
『はい?』
『さっき言った3点、絶対に守ってくれ。本当に危ないから。あともう一つ付け足しておく。姫、絶対に事態が落ち着くまで一人で外出歩くな。呼んでくれたら護衛に行くから…』
『はい♪ありがとうございます(^-^』
『んで?何時だって?それ以前にいきなり男が訪ねていったら親動揺しないか?』
私立聖星女学院といえば世情に疎いコウですら知っている超有名ミッション系お嬢様学校である。
そんな所の生徒と言えば当然普通お嬢様なわけで……
『大丈夫です♪両親にはちゃんと言っておきますので。朝は8時半でお願いします♪(^-^』
どうちゃんと言うのかは怖くて聞けない…。
とりあえず…その話はそれで切り上げて、話題はアオイの話へと移って行った。
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