オンラインゲーム殺人事件_葵_20章

ヨイチの告白


私が下に戻った時にはもうユートが映ちゃんの質問に答えてとりあえず納得させたとこだった。
もちろん、私と同じくユートも二人が同じ学校の同級生で生徒会の会長と副会長だったということしか知らないわけなんだけど…。



「なんか…愛憎劇っぽ?」
映ちゃんは相変わらずで、なんか変な妄想してる…。
でもそれをヨイチが珍しく強い口調でいさめた。

「映…映の趣味は理解してるし、それが悪いとも思わないけど今回のはそういう風に面白がっちゃだめ。絶対にだめだ。心に受ける傷ってね、治んないものなんだよ。
それをあえておかすなら、身体か心かの違いだけで今回のイヴやアゾットとかわらなくなるよ?」

「……ごめん…」
真剣な顔で青ざめながら言うヨイチに、映ちゃんは珍しくしょぼんとしょげてうつむいた。

そこでヨイチがあわてて
「僕の方こそ…ごめん。
映のおかげでまた外に出る事ができるようになったのに…」
と謝った後、でもね、と口を開く。
「僕も…引きこもっちゃったのって同じような理由だったから…。
親友だって思ってた奴に影で色々言われてやられてて、すっかり人間不信になっちゃってね…」
とまたいつもの静かな口調に戻って俯き加減に悲しそうな笑みを浮かべた。

そう…だったんだ。

「でもね、今回映に出会ってさ、映って口は悪いけど裏表なくて…ほんとに思ったままの事考えずに言っちゃう映見て、こんな子もいるんだってホント安心したんだ」
噛み締めるように言うヨイチ。
確かに…裏表だけはなさそうだよね、映ちゃんて。

「惜しいなぁ…」
そこでいきなり立ち直ったらしき映ちゃんの謎の発言。
「惜しい?」
ユートが首をかしげる。

「うん、ヨイチってさ、逸材なんだよねっ。
私も現実にヨイチみたいな人間ホントにいると思わなかったもん。」
「???」
顔を見合わせて悩む私とユート。
「男なのに華奢で繊細で可愛くてピュアで…もう、いっその事私が男だったら押し倒したのにっ!!」

そういうことかいっ!!
呆れ返って引く私とユートだったけど、当のヨイチは少し恥ずかしそうに俯き加減に苦笑している。

なんていうか……もう勝手にしてって感じ。

その後私達はお互いに打ち合わせたわけでもないのに、何故かそれぞれ持参していた夏休みの宿題を持ち寄ってやり始めた。

高校生だなぁ…。

「実はさ…密かにコウに教われないかな~なんて思って持って来たんだけど…」
私が白状すると、隣でユートも
「あ、実は俺もそうだったり…」
と同意する。なんだか発想が…いつも一緒だね。

「私は親がどうせやってないんだろうから持ってけって。
宿題持参しないなら旅行だめっていうからさぁ…」
というのは映ちゃん。

「微分積分なんてさ…生活してても使う事ないよね絶対」
数式を前にうなる私に
「いや、まだその方がマシだって。人間様にサンショウウオの気持ちがわかるって思う方がマジ頭おかしいってっ!」
という映ちゃんは現国の宿題らしい。
「俺も…平安時代の人間の日記なんて知らなくても生きていける予感……」
ユートは古文か。

うなる3人をヨイチがにこやかに見ている。

「ヨイチは?宿題終わったの?」
と余裕こいて見えるヨイチにふと目をむけると、ヨイチはちょっと困ったような笑みを浮かべた。
「俺は…学校いってないから…宿題もないんだ…」
うあ…失敗。
「ご、ごめんねっ」
慌てて謝る私ににっこりと優しい笑みを浮かべつつ、ヨイチは
「ちょっと…みせてもらっていい?」
と、私の宿題のプリントを覗き込んだ。
「あ…これはね…」
映ちゃんの筆箱からシャーペンを一本取ると、そのままスラスラと数式を解いて行くヨイチ。
うぉぉ~~すごぃ!
学校行ってないと言いつつ私よりよっぽど頭良いっ!
ヨイチはそのままスラスラと数式を全部とくと、映ちゃん、ユートと順番に宿題を教えてくれた。

「ねえ…学校行ってないヨイチより馬鹿ってあたしら人間失格ってこと?」
結局全員ヨイチに宿題をやってもらって一息ついたあと、映ちゃんが言った。

ヨイチに感謝はしてるんだろうけど…映ちゃんその言い方ヨイチに失礼な気が…。

でもヨイチは全然気にならないらしい。
少しはにかんだ様な笑みを浮かべて言った。
「俺…勉強は嫌いじゃなかったから…一応大検は受かってるし」

おおお~~~実は秀才だったのかっ…

「すごいね、ヨイチっ!繊細美少年なだけじゃなくて頭もいい奴だったんだねっ!超感動したっ!!」

映ちゃん…相変わらずハイテンション。
この二人も…すごぃ対照的なんだけど妙に良いコンビ。
ある意味普通じゃなくて面白いな。

とにかく明るい映ちゃんにひきずられるように盛り上がる面々。




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