オンラインゲーム殺人事件_葵_5章

パーティーは楽しい (4日目~6日目)


俺様親分コウ、おっとりお姫様フロウちゃん、それに温和で優しいけどしっかり者のユート。
3人の仲間ができてさらにゲームが楽しくなった。



コウとユートはかなりゲームに詳しくて、特に出会った時にすでに私達の倍のレベルだったコウはこのゲームに関してもある程度詳しくなっていたから、一人の時より全然色々わかってきた。

ただペシペシ敵を叩くだけじゃ駄目なのね。
何に使うかわかんなくてポイ捨てしてたアイテムとかも雑貨屋さんに持って行けばお金に替えてくれるし、雑貨屋さんで二束三文のアイテムでも、合成屋さんに持って行けば合成してくれてすごぃ装備やアイテムに生まれ変わったりもするんだ。
レベル上げるだけでも少しずつ強くはなっていくんだけど、そうやって貯めたお金で武器や防具を買えば、全然強さも変わってくる。

私達はあれからいつも一緒で、同じ時間に同じ場所で待ち合わせて行動する仲間になっていて、アイテムなんかはお互い必要な物を融通しあったりとか協力するようになっていた。

戦闘の時の役割なんかも決まっていて、まずユートが能力アップの魔法をかけて、私がブーメランで敵を一匹安全地帯までひっぱってくる。
それをコウが圧倒的な火力で殴ると敵はコウに向かっていくから、そこでユートと短剣に持ち替えた私も殴りに参加。フロウちゃんはHPや毒とかを回復するって感じ。

一人でやるより全然面白くて、レベルとか上がるのも全然早い。
コウに教えてもらって最初のミッションも終わらせたから、指定した口座には主催から10万円が振り込まれた。

私達だけじゃなくて他の参加者もボチボチ仲間を見つけてパーティーを組んでるみたいで、例のイヴちゃんはゴッドセイバーだけじゃなくて、もう一人ショウって名前の男のベルセルクも引き連れて、女王様状態みたい。

男二人が競う様にイヴちゃんに膝まづいて何か言ったり渡したりしてるの見るとちょっと笑えるってか、面白い。

今も3人が私達の近くでレベル上げしてたんだけど、まったり立っているイヴちゃんの所までショウが敵を連れてくると、ゴッドセイバーがいきなり無言でダっとどこかに駆け出して行った。
それをスルーで二人はそのまま敵を叩いている。

「イヴ~!」
やがてゴッドセイバーが戻って来た………でかい巨人を連れて…。
「俺の敵の方がでけえしー、やっぱ俺マジやばくねっ?」
えっと…あなた別の意味でやばくない?HP真っ赤なんですが?
てか…倒せるんですか?それ……

『脳みそに何かわいてるな……』
コウが私達が対峙していた眼前の敵を叩き伏せて、チラリとそちらに目をやってつぶやく。
『まあ…とばっちり来ない程度に距離取っておこうか…』
ユートも苦笑しながらみんなのHPを回復し終わって自分のMP回復のために座ってるフロウちゃんを少し離れた岩陰にうながした。

私は敵の感知範囲外からそちらの様子を伺うコウの横に立ってやっぱりそちらに目を向ける。

私達より少し遅れてゴッドセイバーの連れて来たモノに気付いたイヴちゃんとショウ。
まず叫んだのはイヴちゃんだ。

「ちょ、ちょっと信じらんないっ!何連れて来てんのよっ、あんたっ!!」
「一番強そうなの連れて来たしー。俺すごくねっ?」
「すごいわよっ!もう信じらんないくらいすごい馬鹿っ!!倒せない敵連れて来てどうすんのよっ!!」
イヴちゃんの言葉にゴッドセイバーはポカンと立ちすくんだ。
「え~!マジっ?!ありえなくねっ?!」
「ありえないのはあんたよっ!それ連れて向こう行って死んどいてよっバカっ!こっち連れて来ないでっ!!」
「まじすかっ!!」

『ほんと……ありえんな……』
あちらのドタバタを遠目で見ながら呆れた息をつくコウ。
しかしコウはそのまま後ろを振り返りユートに声をかけた。
『ユート。能力アップ一通りかけといてくれ』
その言葉にフロウちゃんの隣でやっぱりMPを回復してたユートが立ち上がってかけよってくる。
『なに?助けるん?』
そのままコウの隣で魔法をかけ始めるユート。
『ん~、義を見てせざるは勇なきなりって言うからな。でも倒せるかわからんからお前らは離れてろ。』
言ってコウはスラっと背中に背負った大剣を抜いた。

私達の側でそんなやりとりが繰り広げられてる間にも、イヴちゃん達は修羅場を繰り広げてる。
「きゃあぁっ!ちょっと、どうすんのよ、これっ!」
悲鳴を上げるイヴちゃんの前に
「まかせろっ!」
と、立ちはだかるゴッドセイバー。
「暗黒に染まりし神の使徒、このゴッドセイバーの虚空より現れいでる刃の煌めき!受けるがいいっ!!
ナイトメアスーパーメテオインパクト!!!」
そのまま巨人に特攻………スカっとかわされた。
「ムッ!貴様、やるなっ!!」
巨人の周りをそのままグルグル逃げ回りながら叫ぶゴッドセイバー。
呆れるイヴちゃんとショウ…。

「イヴ…この隙に離れようぜ」
もっともな提案だ。
うなづいてイヴちゃんはショウと共にジリジリと後ろに下がって距離を取り始める。

「ク、クソッ!お前は俺を怒らせた~!黒き業火がごとき俺の怒りを受けてみよっ!今燃え上がる漆黒の必殺技!ファイナルゴッドライトニングスラッシュ!!!」

………スカッ。
…だめだ、こりゃ。
残りHP…たぶん10以下?そろそろ死ぬかなぁ……。

またグルグル巨人の周りを回っているゴッドセイバーに、巨人が手に持った斧を容赦なく振り下ろしかけた時、青白く光る大剣が巨人の胴を斬りつけた。

「ん、一応当たるには当たるか……」
静かにつぶやくコウに、巨人の攻撃が向かう。
しかしその攻撃はスカっと外れ、また巨人に斬りつけるコウ。
それに気付いてゴッドセイバーはようやく逃げ回るのをやめ、巨人相手にスカスカと素振りを始める。
そしてコウはそのまま何度か攻撃を受けてHPを半分くらい減らしつつも巨人を倒した。

ズドン!と音をたてて倒れたあと、ス~っと地面に巨人が消えて行くのを確認すると、そのまま無言で大剣をまた背に担いでこちらに戻ろうとするコウの背中に、ゴッドセイバーが
「待て!」
と、声をかける。

「俺は暗黒神の使徒、黒い稲妻ゴッドセイバーだ。共に強敵を倒した盟友のお前の名前を聞きたい」
コウは一瞬無言で立ち止まる。そしてため息。
「…キャラ名…頭の上に出てるだろ。見えんのか。」
それだけ言ってまた歩き始めるコウ。

まあ…そうなんだよね……。
そもそもゴッドセイバーの攻撃一発も当たってないから”共に”倒してないし…

「コウ君すごいねっ♪マジかっこ良かった♪」
巨人が倒れて安全なのを確認してイヴちゃんが戻ってくる。
「今度リアルで会わない?名前教えてっ?」
ピタっと寄り添いかけるイヴちゃんからスっと距離を取るコウ。

彼女の言葉にゴッドセイバーが口をはさむ。
「俺のダチだしー、3人で会わね?」
「何よ?コウ君のリアフレなの?GS」
「いや、今ダチになったしー」
「なってないっ!」
コウがイラっと言う。
「じゃ、あんたは要らない、GS」
イヴちゃん……きつ~。

そんなゴッドセイバーとは対照的に、イヴちゃんのもう一人の仲間ショウは
「コウがすごいわけじゃないよ、イヴ。向こうにはエンチャがいるから。
能力アップの魔法かけてるから同じくらいのレベルでも強いように見えるだけだって」
と、つめよる。
一方そんな敵対心ビシバシに言うショウの言葉にもコウの方は極々冷静に
「ま、そういうことだ。」
と肩をすくめると、それ以上色々言われるのはごめんとばかりにちゃっちゃと私達の方にかけ戻って来た。

『悪い。待たせたな』
私達に言うコウのはるか後方では
「もうっ!コウ君行っちゃったじゃないっ!GSもショウもエンジェルウィング一つ取ってこれないくせにっ」
と、イヴちゃんが怒ってて、二人が必死にご機嫌を取っている。
ホント女王様なんだね~イヴちゃん。
色々なパーティーがあるもんだ、うん。面白いっ。
そしてそのままお互いレベル上げに戻った。

が、数分後…

『アオイちゃんて…寄生だよねぇ…』

それは突然届いたイヴちゃんのウィス。
はい?いきなりなんでしょう??
私達は例によってレベル上げをしているわけで…私は敵を釣ってくるのに忙しかった。
もちろん即答どころか、深く意味を考える暇もない。
ただ、やっぱり近くでレベル上げをしているらしいイヴちゃんのパーティーにチラリとだけ目を向ける。
イヴちゃんもこちらをチラリと見るが、通常会話では無言。

『コウ君とかレベル高いしジョブも強いし、ユート君は底上げ能力とかあるけど、レベル低いシーフって何も貢献できないよねぇ…』

敵を釣ってパーティーの所まで殴られない様に必死に走ってる私は当然その言葉にも応える余裕がない。
なんか…モヤモヤ…。

そのまま敵連れて仲間の所に戻ると、コウがいつものように敵を引き受けてくれて、ようやく思考が働きだす。
貢献度低いって言えば確かにそうかもしれないけど…何が言いたいんだろう。
なんだかすごく嫌な気分になってきた。心臓がバクバクして、なんだか泣きそうだ。
だから何?どう答えてほしいわけ?私にどうしろと?
もちろんそんな私には気付かず、いつものようにユートが能力アップの魔法をかけて、コウが殴っている。

『コウ君とかレベル倍なわけだし、レベル低い上に弱いアタッカーが一緒じゃなければもっとレベル高い敵狙えて経験値もいっぱい入るよね』

はいはい、そうでございますね。でもそれは私じゃなくてコウに言ってよ。
チクチクとしたウィスに涙目な私。
言い返したいけど言い返せない。
自然と無言になるしかない私に飽きたのか、そのうちウィスがやむ。

そんな時唐突に…
「えと…でも~コウさんもたぶん一人で強い敵と戦うより、みんなで遊んでる方が楽しいんだと思います♪」
本当に唐突なフロウちゃんの言葉…。
「ふざける?えとぉ…私最近喜ぶの動作は覚えたんですよぉ♪ふざけるはまだ覚えてません。
だからまだできないからやってません。そんな動作あったんですねぇ。今度やり方教えて下さいねっ♪」
謎の独り言が通常会話で流れて行く。
「え??えっと~~~ウィスって??」
もしかして……と思ってチラリとまた隣のパーティーを見ると、イヴちゃんがハラハラとこちらを見てる……。
「うわぁ♪そんなの初めて知りました♪イヴさんて物知りなんですねっo(^-^)o」

「姫……もしかして…嫌がらせのウィスでもきてるのか…」
コウが敵の最後のHPを削った後、クルリとフロウちゃんを振り返った。
そのコウの言葉に
「あ、あたしはっ…」
とあわてて駆け寄りかけるイヴちゃん。
ディスプレイ上なのになんとなくコウの怒りがフツフツと燃え上がっていくのを感じた。
「ぜんっぜん♪お話してただけですよぉ♪イヴさんとってもとっても物知りで、色々教えて下さいましたっ(^-^」
なんとなく一触即発な空気の中で、フロウちゃんはノホホ~ンと返す。

『なんだか…どんなウィスがきてたのか想像付く気はするんだけど…(^^;』
ユートが苦笑した。
その後全員無言。それぞれウィス中ぽい。

「コウさん♪今ね、イヴちゃんにウィスって話し方教えてもらったんです♪やってみていいです?(^-^」
そんな中でフロウちゃんは一人相変わらず通常会話で話続ける。
『今取り込み中だから待て』
と言うコウ。
やっぱりウィス中だね。

そのコウの返事にフロウちゃんはキョロキョロとあたりを見回し、私に目を止め、じ~っと見つめた。
『私はいいよ、試してみても(^^ 』
と、私が察して言うと、フロウちゃんは
「わ~い♪o(^-^)o」
と喜ぶ動作をして、ウィスを送って来た。

(もしも~し、アオイちゃん、聞こえてますか~♪(^-^)
(はいはい、聞こえてますよ~(^^ )
私が答えると、嬉しそうにピョンピョン飛び跳ねるフロウちゃん。
まあ良い機会だし、私はこっそりフロウちゃんにウィスで聞いてみる事にした。

(フロウちゃん、イヴちゃんからどんなウィスもらったの?良かったら原文のまま教えて?)
フロウちゃんフィルターがかかったら絶対に本当の事なんてわからない。
(はい、あのねっ)
フロウちゃんが原文のままのウィスを送って来てくれた。

以下原文…()内はイヴちゃんのウィスで「」内はフロウちゃんの通常会話…

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(フロウレンスちゃん、レベル低いあなた達が一緒にいるとコウ君に迷惑だと思わない?
彼レベル高いし、もっと強い敵と戦えるわけだし…(^^;)

「えと…でも~コウさんもたぶん一人で強い敵と戦うより、みんなで遊んでる方が楽しいんだと思います♪」

(ちょ、ちょっとふざけてるの?!あんた何で通常会話で返事してるわけ??!!)

「ふざける?えとぉ…私ね、最近喜ぶの動作は覚えたんですよぉ♪ふざけるはまだ覚えてません。
だからまだできないからやってません。そんな動作あったんですねぇ。今度やり方教えて下さいねっ♪」

(何?何言ってんの??ふざけんなよ!ウィスあるでしょ??まさか知らないとか言わないでしょ?)

「え??えっと~~~ウィスって??」

(チャットウィンドウにカーソル合わせてCtrl+スペースでチャットモード変えられるじゃんっ)

「うわぁ♪そんなの初めて知りました♪イヴさんて物知りなんですねっo(^-^)o」

--------------------------------------------------

………すごいな…日本語通じてないよ……。
これ……わざと……じゃないとこがすごい……。

私はため息をついた。
それを見て今度はユートからウィス。
(もしかして…アオイの所にもウィスきてたの?大丈夫?)
(えっと…今のため息はフロウちゃんのウィスに対してなんだけど…私の所にもってことはユートの所にも来てたの?)
(いや、俺の所には全然。でもアオイの所にはきてたんだ…。大丈夫?ひどい事とか言われた?)
心配してくれるユートに本当の事を言っていいものか私は少し迷った。
しばらく無言になる私にユートはさらに言う。
(えと…、言ってくれれば俺の所でとどめておくから。コウまで行くと大変な事に…(^^;)
確かに…すでに頭から湯気出して苦情言ってそうだし…。
私はユートに自分の所にきたウィス、そしてフロウちゃんから教えてもらった彼女の所に来たウィスを原文のまま送った。
これでコウに聞かれてもユートがたぶん上手くごまかしてくれるんだろうな。

全部送り終えたあと、ユートからまたウィスがきた。
(えと…ね、アオイ気にしない方がいいよ。姫みたいに流しちゃいなよ。
まあ…姫は意識してとかじゃなくて、文字通り頭の中を流れて行ってるだけみたいだけど…(^^;
姫の言う通りコウは効率追求するより今のパーティでやるのが楽しいんだと思うからさ。)
そうかもしれないけど……でもさ…やっぱり気にはなるよね……確かに役立たずだし……

『ごめんな…姫。ちゃんと苦情は言ったから。』
私が鬱々としていると、どうやらイヴちゃんとウィスを終えたらしきコウがそう言ってフロウちゃんの頭をなでた。
「??なんでコウさんが謝るんです??」
『いや…たぶん俺のせいだから。』
「コウさん、忙しいのはしかたないですよぉ?大丈夫♪アオイちゃんがつきあってくれましたからっ(^^」
『なに?アオイと一緒にウィス入れてたのか?そっか。自分で言えるなら良かったけど。』

………

(たぶん…言ってる事全然かみ合ってないね)
イヴちゃんのウィスの話をしているコウと、どうやらウィスを試させてくれと言った時に忙しいと言われた事に対しての謝罪だと思ってるフロウちゃん。
まあ…フロウちゃんの方はイヴちゃんに嫌みを言われてたという自覚ないからちぐはぐなわけで…。

それでもなんだか微妙に誤解しつつお互い納得してる二人を見て、ユートが私の横でコッソリとウィスを送って来つつクスクス笑った。
釣られて思わず私も笑う。
(今回はね、たぶんイヴがコウ欲しくなっちゃっただけでアオイがどうのとかじゃないよ、話聞いてると。
ま、長くやってると色々あるよ。でもさ、仲間内では楽しくやろう。
アオイも他に言いにくい事とかあったら俺に言ってね?
必要な事なら俺が他に伝えるし、愚痴なら俺の所でとめとくから(^^)

そう…なのかもね。
ユートの言葉で少し気が楽になった。

『さ、次やるか。アオイ、釣り頼む』
コウがこの話はこれで終わりとばかり私に言った。
『うん♪』

嫌な事もあったけど、何かあればコウがちゃんと守ってくれるし、ユートがフォローいれてくれる。仲間がいる。
それで充分楽しいか。
うん!きっとこれからも楽しい事がいっぱいあるっ。
私はまた張り切って敵を釣りに駆け出していった。





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